ダークサイド・オブ・ザ・ムーン #6 後半

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(あらすじ:極寒の地、ドサンコ・ウェイストランドのコロニー群で、謎の自我喪失事件やコトダマ空間認識者増加インシデントが多発。TVからメッセージを受信する子供!ヤクザのMIB!怪電波!UFO!災禍の中心はアマクダリ・セクトが陣取るメガトリイ社の巨大パラボラアンテナ通信基地にあり!)

2013-06-30 20:44:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(運悪く基地に近づいた民間人グリズリーハンターたち!迫るUFO!だが敵の正体はニンジャだ!アマクダリの放った斥候ニンジャ、コールドホワイトが危険な人間狩りゲームに興ずる!だがそこへニンジャスレイヤーが駆る赤黒のスノーモービルが現れ殺す!隠蔽された真実を暴け、ニンジャスレイヤー!)

2013-06-30 20:50:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

雪をかぶった侘しい松林の中をスノーモービルが疾駆。気まぐれな吹雪は去り、午後の青空が広がっている。仲間と逸れたイシマル・トウメの心はそれと正反対に、激しい焦燥に支配されていた。「自己責任」「地域で守りたい」見慣れない書体の旧世紀カンバンが雪の中で顔を覗かせ、なお不安感を煽る。 1

2013-06-30 20:59:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

大熊を仕留めれば報酬が倍点され、久々の平穏な日曜日を妻子と過ごせる……そんな野心はもはや消え、月曜日の出社さえ危うい状況だ。汗が滲む。副業のグリズリー狩りで無断欠勤するペナルティは考えるだに恐ろしい。不安はさらに加速し、生きてロッジに帰れるだろうかというレベルにまで高まった。 2

2013-06-30 21:03:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おい、どうなってんだ、嘘だろ……!」トウメはスノーモービルに埋め込まれたUNIX画面を叩く。最新鋭ナビゲーションが動作しない。もしや立入禁止の危険区域に迷い込んでしまったのか。トウメはそう直感する。救難のために救援信号弾を打ち上げれば、追加ペナルティが重点可能性を危惧した。 3

2013-06-30 21:10:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

生きて帰っても死んでも、妻子には悲惨な運命が待つ。ならばいっそセプクした方がいいのでは?これもブッダが下した無慈悲なペナルティなのか?トウメが危険な思考に陥りかけたその時、不意にIRCが届く。発言者のハンドルは……YCNAN。グリズリー狩りの仲間たちではない。果たして何者か? 4

2013-06-30 21:17:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

||| ドーモ。そのまま前進して ||| 謎の発言者がトウメをナビする。||| マッポですか? ||| トウメが恐る恐る問う。 ||| いいえ、ジャーナリストよ ||| 前方の丘を見上げると、白スノーモービルに跨がった女性が見える。トウメは昨日出会った女特派員の顔を思い出す。 5

2013-06-30 21:25:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そう、彼女の名前はナンシー・リー!彼女もまたアンドリューのハッキング攻撃による自我崩壊を免れ、真実を求めてこの危険領域に侵入したのだ。||| 随分遠くまで来たのね。無線LANを切断して。こっちへ ||| ナンシーはIRCメッセージを送信した。トウメは少し迷った後、丘を登った。 6

2013-06-30 21:31:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……何故こんな所に?」トウメはナンシーの隣にスノーモービルを横付けし、どきりとした。目が覚めるような美しいブロンドに、サイバーサングラス、黒いタイトなサイバースーツの上に白い毛皮コートを纏った彼女は、まるで妖精か何かのように実在現実感が乏しい。「LANは切断した?」「ハイ」 7

2013-06-30 21:40:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もしやあなたも遭難?ナビが生きてるなら、手伝ってくれませんか。今日中に帰らないと……」トウメが言う。ナンシーは自分のモービルに備わったスイッチを押す。微かな頭痛がトウメを襲う。「これは……!」「ジャマーよ。あなたも直結者?少し我慢してね。それから、今日中に帰るのは無理かも」 8

2013-06-30 21:48:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ジャマー…帰れない…?」彼は不穏アトモスフィアを感じる。そもそもこんな場所に豊満な女性特派員が独りでいる時点で何かがおかしかった!不穏なUFO目撃事件の噂が脳裏をよぎる!「も、もしや、宇宙人で」「シーッ」彼女は人差し指を口元に、次いで反対側の丘の下を指差す。「見つかるわよ」 9

2013-06-30 21:55:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

トウメは丘の下を見る。純白の雪原をマグロ魚群めいた何かが一糸乱れぬ隊列を組んで走行している。「一体何が……」トウメはサイバー双眼鏡を使った。彼が見たものは……威圧的な黒スノーモービルに乗った、黒ヤクザスーツの男たち!全員が同じ顔、同じ髪型、同じサングラス!クローンヤクザだ! 10

2013-06-30 22:15:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あれはまさか……MIB……!」トウメが圧し殺した声で言う。MIBとは、UFO事件との関連性が噂される謎の都市伝説的存在だ。「いいえ、クローンヤクザよ」「クローン……ヤクザ!」無垢なる一般市民は、クローン技術がすでにヨロシサン製薬の手によって実用化されていることを知らない。 11

2013-06-30 22:20:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「不審なIRC信号をキャッチしたパトロール部隊は、あたかも血の臭いを嗅ぎ付けたサメめいて、スクランブル発進した……」ヤクザモービルが通り過ぎてゆくのを注意深く眺めながら、ナンシーが安堵の息をつく。「ジャミングでどうにか難を逃れたわ。でも、あなたはもう引き返せない領域に来た」 12

2013-06-30 22:30:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「引き返せない?」トウメは上司の顔を、そして妻子の顔を想った。「ここはもう、敵地のまっただ中なの」ナンシーは彼方の山岳地帯を見据える「しかも、クローンヤクザ軍団が出動してしまった。退路は塞がれているわ。ロッジまで送り届けてあげたいけど……その時間は無いの。ごめんなさいね」 13

2013-06-30 22:39:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「特派員さん、あなたはどうするんです?」トウメが遣る瀬ない怒りとともに問う。「私は進まくちゃいけない。今も私の戦友が敵の目を逸らしてくれているの。それに、急がないと被害が広がるわ」「被害……何が起こるんです……?」「その真相を確かめにいくの。途中まで来る?独りよりは安全よ」 14

2013-06-30 22:45:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」トウメはやや思案し、何度も舌打ちした。彼は怒っていた。攻撃的で捨て鉢な態度になっていた。理不尽を連れてきたナンシーに対して、あからさまな怒りを抱いていた。疲弊した理性は、彼女に対して攻撃的な態度を取るのは危険だと警鐘を鳴らす。だが怒りは依然として腹の底でわだかまる。 15

2013-06-30 22:58:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それは数秒の躊躇だったろうか。ナンシーはその僅かな時間すらも惜しむように、あるいは決断を促すかのように、ハンドルを握った。「一緒に行きます。その代わり……」トウメは迷いを振り切った。二機のモービルが丘を下る。「何かしら?」「俺に真実を教えてください。隠されている事、全てを」 16

2013-06-30 23:05:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼女は押し黙った。トウメは怒りを搾り出すように言った。「もう沢山だ。この世界じゃ誰かが真実を隠して儲けてる。俺たちは損してばかりだ。正直、あんただって気に食わない。……ああ、ゴメンナサイ。何を言ってるんだ俺は。情けなくて涙が出る。俺の娘だって……おかしくなって……何も……」 17

2013-06-30 23:14:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺のせいなんだ……」トウメは落胆し、モービルを止めた。やはりセプクしようと思った。金髪コーカソイドは走り去るだろうと思ったが、引き返し、言った。「……あなたの娘さんの件、あなたがセプクする必要は何一つ無い。それこそが隠蔽された真実よ。あなたはセプクする必要なんて無いの」 18

2013-06-30 23:21:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

トウメは情けない子供のように鼻をすすってから、顔を上げた。「話すわ。それがジャーナリストの仕事よ」ヤバイ級ハッカーはサイバーサングラスを少しの間外すと、戦士のように冷徹な無表情を崩し、強く優しく微笑んだ。彼女の瞳はドサンコの空めいて青く透き通っていた。二人は再び並走した。 19

2013-06-30 23:31:14