#短歌の文語 #筒井筒 篇

『伊勢物語』の「筒井筒」に出てくる和歌を、じっくりまったり解体していきます。随時更新。
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小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 を基本からまったりやるのにいい題材として『伊勢物語』の「筒井筒」を選んでみたんですけど。というのも私自身が高1の1学期に古文の授業で教わった覚えがあるので。ググれば全文口語訳など見つかりますから物語に関心があればそういうのを見てもらうとして、私は和歌の文法解説を。

2013-07-01 21:34:11
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 /1 まず男が幼なじみの女に贈る歌 「筒井筒井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに」 通釈:[君と遊んでいた子供の頃に]井戸枠と同じくらいだった私の身長は、もう[井戸枠など]過ぎていたようだなぁ。君に会わないうちに

2013-07-01 21:38:30
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 /2 初句「筒井筒[つつゐづつ]」は特に意味がなく、序詞みたいなものです。元々意味のある言葉だったのが後世誤写されたという説が強いですが、かといって元々どんな言葉だったのかはっきり分かりませんので、ここは「筒井筒」のままで軽くスルーしておきます。

2013-07-01 21:43:05
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 /3 「井筒にかけし」 「井筒」井戸枠 「かけ」→動詞「掛く」の連用形 「し」→助動詞「き」(直接過去)の連体形

2013-07-01 21:49:17
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 /4 「井筒にかけし」 ▽「掛く」の活用 語幹(活用しない部分):か- 未然形:か-け(ず) 連用形:か-け(たり) 終止形:か-く 連体形:か-くる(とき) 已然形:か-くれ(ども) 命令形:か-けよ カッコ内は接続例。これらを付けて考えると分かりやすい

2013-07-01 21:51:45
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 /5 「掛く」は活用部分が「け/け/く/くる/くれ/けよ」と、カ行のウ-エ段を使うので「カ行下二段活用」といい、辞書等では「カ下二」と略記します。同様に例えば「絶ゆ」〈絶える〉はヤ行下二段活用(ヤ下二)です(絶えず、絶えたり、絶ゆ…とやってみると分かる)

2013-07-01 21:59:58
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 /5 「井筒にかけし」 「し」→助動詞「き」(直接過去。連用形に付く)の連体形 ▽「き」の活用 未然形:せ* 連用形:× 終止形:き 連体形:し(とき) 已然形:しか(ども) 命令形:× カッコ内は接続例。これらを付けて考えると分かりやすい

2013-07-02 22:09:14
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 /6 ただし助動詞「き」(直接過去)の未然形「せ」は「せば」(反実仮想条件)の形でのみ用います。英語の仮定法過去と同じようなものと考えばいいかと。 用例:「世の中にたえて桜のなかりせば」(在原業平)〈もし世の中に全く桜がなければ、〜なのに〉

2013-07-02 22:11:19
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 /7 動詞「掛く」の連用形「掛け」に助動詞「き」を付けて活用すると 未然形:かけ-せ(ば)〈もし掛けるのなら、〜なのに〉 連用形:× 終止形:かけ-き〈掛けた。〉 連体形:かけ-し(とき)〈掛けた時〉 已然形:かけ-しか(ども)〈掛けたけれど〉 命令形:×

2013-07-02 22:14:18
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 「まろがたけ」 「麿」自称代名詞〈私〉 「が」所有・所属の格助詞〈の〉 「丈」〈背丈〉

2013-07-04 00:10:14
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 余談 所有・所属の格助詞「が」は、自身または親密な対象に付きます。よって、例えば天皇の意味で「君」を使う場合に「君が代」という言い方は畏れ多くてできません。文法的にみて「君が代」の「君」が天皇を指すとの解釈には疑問あり。天皇なら「君の(御)代」となるはず。

2013-07-04 00:13:25
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 「過ぎにけらしな」 「過ぎ」→動詞「過ぐ」の連用形 「に」→助動詞「ぬ」(完了)の連用形 「けらし」→「ける」+「らし」 「ける」→助動詞「けり」(詠嘆)の連体形 「らし」→助動詞「らし」(推量)の終止形 「な」→終助詞(詠嘆)

2013-07-04 00:17:16
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 「過ぎにけらしな」 「けらし」→「けるらし」の短縮 「ける」助動詞「けり」(詠嘆。連用形に付く)の連体形 ▽「けり」の活用 未然形:けら* 連用形:× 終止形:けり 連体形:ける(とき) 已然形:けれ(ども) 命令形:× カッコ内は接続例

2013-07-04 00:20:09
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 ただし「けり」の未然形「けら」については、私は実際の用例を見たことがありません。相当古い用法みたいです。打消を付けるときは「けらず」より「ざりけり」が普通。

2013-07-04 00:22:14
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 「けり」は (1)すでにそうだったのに今気づいたという驚きを含む詠嘆。用例:「秋は来にけり」(恵慶)〈秋が来ていたんだなぁ〉 (2)昔をしみじみ回想する詠嘆。用例:「昔は物を思はざりけり」(藤原敦忠)〈物を思わなかったなぁ〉 「筒井筒…」では(1)のほう。

2013-07-04 00:28:45
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 「過ぎにけらしな」 あっ、「に」の解説を飛ばしていましたw 「に」→助動詞「ぬ」(完了。連用形に付く)の連用形 ▽「ぬ」の活用 未然形:な 連用形:に(たり) 終止形:ぬ 連体形:ぬる(とき) 已然形:ぬれ(ども) 命令形:ね カッコ内は接続例

2013-07-04 00:39:41
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 助動詞「ぬ」は、あまり動作主の“意志”を感じさせない完了です。

2013-07-04 00:45:53
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 結句「妹見ざるまに」 「妹」[いも]→男が妻や恋人など愛しい女を呼ぶときの呼称。「マイハニー」みたいな。「我妹子」[わぎもこ]〈わが愛しい人〉というのもあり、高校の古文の先生の話では平安女性は「わぎもこ」と呼びかければ落ちたというのですが、さすがにそれはw

2013-07-05 23:31:21
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 古語で「妹」[いも]は〈マイハニー〉の意味になるのですが、では現代語でいう妹(年下の女きょうだい)を古語では何というのかというと、表記は「弟」または「妹」で、読みは「おと」または「おとうと」です。「おと/おとうと」は男女問わず年下のきょうだい。

2013-07-05 23:36:41
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 「妹見ざるまに」 ▽動詞「見る」の活用 語幹:× 未然形:み(ず) 連用形:み(たり) 終止形:みる 連体形:みる(とき) 已然形:みれ(ども) 命令形:みよ カッコ内は接続例

2013-07-05 23:39:05
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 「見る」は活用部分が「み/み/みる/みる/みれ/みよ」と、マ行のイ段のみを使うので「マ行上一段活用」といい、辞書等では「マ上一」と略記します。上二段活用(前の句にある「過ぐ」など)との違いを押さえておきましょう。

2013-07-05 23:45:09
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 「妹見ざるまに」→「ざる」は助動詞「ず」(打消)の連体形 ▽「ず」の活用 未然形:ず(ば)、ざら(む) 連用形:ず(して)、ざり(けり) 終止形:ず 連体形:ざる/ぬ(とき) 已然形:ざれ(ども) 命令形:ざれ カッコ内は接続例

2013-07-05 23:50:06
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 「ず」(打消)の未然形は通常「ざら」です。用例「あらざらむこの世」(和泉式部) 未然形「ず」は仮定条件の助詞「ば」が付く以外に私は見たことがありません。「ずは」はもともと清音、のちに「ずば」と濁音、さらに「ずんば」ともなります 用例「虎穴に入らずんば」

2013-07-05 23:59:01
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 当然ですが「虎穴に入らずんば」は「入らずは」「入らずば」「入らざらば」に言い替えても意味は同じです。

2013-07-06 00:01:27
小山芳立@念仏無間 @khoryu

#短歌の文語 #筒井筒 「ず」の連用形は「ず」「ざり」の2つがあります。 「物を思はざりけり」 連用形「ず」は現代語の「思いがけず彼に会った」「戦わずして勝つ」と同様にも使いますが、「ずて」の短縮形「で」が多いような気が。 用例「やわ肌のあつきちしほにふれもみで」(与謝野晶子)

2013-07-06 00:09:56