ダークサイド・オブ・ザ・ムーン #7

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」#7

2013-07-06 22:07:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーとトウメが操縦する二機のスノーモービルはいくつもの丘を越えて進んだ。やがて雪に覆われた旧国道ルート776が現れ、ゲームセンター、ポルノショップ、退廃モテルなどで構成される旧世紀コロニーの廃墟が雪の中に現れた。トウメはここに隠れることもできたが、彼はそれを選ばなかった。 1

2013-07-06 22:14:45
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「ニンジャだって?」「そう、ニンジャよ」ナンシーは秘密を明かした。トウメはまるで映画の中に迷い込んだような気分だった。やがて陽が落ち、チョコクランチ・バニラアイスめいた白い雪山は、チョコクランチ・チーズクリームアイスに、次いでチョコクランチ・ストロベリーアイスのように変わった。2

2013-07-06 22:18:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ナンシー=サン、そのジャミングを切る訳にはいかないのかい」トウメが頭痛を堪えながら言う。二機のモービルは並んでバウンドする。「安全のためよ」「まだ敵の見張りが?」「それだけじゃないの」「何のために?」「危険な違法無線LAN電波が、メガトリイ通信基地から発せられているのよ」 3

2013-07-06 22:23:57
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「それが自我喪失事件の元凶?」「そうよ。コトダマ空間認識者……知ってるかしら?」「ハッカーの伝説だな。IRC電脳空間の中に無限の世界を構築し、そこを自由自在に飛び回る」「伝説は本当よ」「そんな化け物じみた連中が」「私もその一人」ナンシーが笑った。「ゴメンナサイ」トウメが謝る。 4

2013-07-06 22:30:30
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「いいのよ。ともかく周辺のコトダマ認識者や予備軍は増加の一途を辿ってる。あなたの娘さんも、おそらくは…」ナンシーは小高い尾根の上でスノーモービルを停め、彼方の通信基地を睨んだ。「…娘は、生体LAN端子なんて開けてない。ハッカーでもない」トウメが必死に情報を咀嚼しながら、返す。 5

2013-07-06 22:38:31
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「理屈は解らない。でも、生身の人間に影響があったっておかしくないわ。彼女の場合は、TVを介してそれを視た」「そんな非科学的なことが……」トウメの精神がニンジャ真実やコトダマ真実の受け入れを拒否する。「そうね。でも人類はIRCの動作原理すら忘れてしまったの。あのY2K以降……」 6

2013-07-06 22:53:36
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「Y2K……遠い昔の話だな。学校で教わったよ。西暦二千年を迎えた瞬間、世界中でUNIXが多数爆発し、優秀なUNIX技術者が大勢死んだ…」トウメはそう返すのが精一杯だった。「何が起こったのかすら解らないまま、人類はIP資源枯渇に陥り、電子戦争へと突き進んだのよ」ナンシーが返す。 7

2013-07-06 23:04:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ちょっと待ってくれ、理解が追いついてない。……だからって、俺の娘がTVノイズからニンジャやら神やらを視るようになるなんて……」「ごめんなさいね。でもこれが、あなたの望んだ真実なの」ナンシーが返す。「…ふざけてるぜ……まるで、本物のヒミコだ」トウメは嫌な汗を流して頭を抱える。 8

2013-07-06 23:16:18
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ヒミコとは、もとは神の声を聞いたという古代のミコー・プリエステス・クイーンの名だが、とてもカワイイな響きがあり現在でも実際一般的な名前だ。「ヒミコ……そうね。興味深いわ。聞いたみたいわね。彼女が視たのはIRCコトダマ空間だったんじゃないかって」ナンシーは仮説を思いつき、頷く。 9

2013-07-06 23:22:29
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「聞いてみるだって?彼女は何千年も前に死んでるよ」トウメは苛立たしげに計器類を親指で叩きながら言った。やはり明日の出社は絶望的。それでも現実が恋しくなってきた。「そうね、でも会った事があるかもしれない知り合いがいるわ」この仮説はドラゴン・ニンジャと話し合うべき価値がある。 10

2013-07-06 23:29:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「…解った、もう十分だ。覚悟を決めた。つまりはニンジャなんだな」トウメが憔悴した顔で言う。「ニンジャどもが陰謀を進めてて、真実は政府ぐるみで隠蔽され、俺たちゃ虫ケラのように搾取されている。……なら、俺は何をしたらいいんだ?」「真実はさっき話した通りよ。答えはあなたが決めて」 11

2013-07-06 23:45:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

01010110111010……サイバーサングラスをかけ、短パンを履いた上半身裸のモヒカンは、謎めいた空間の中で目を覚ました。「アイエエエエエ!?」彼は江戸時代じみた町並みを見渡す。視界の8割以上を神秘的な黄金の雲が包み込む。彼方には雄大なるフジサン。山頂には赤い大鳥居。 13

2013-07-06 23:59:27
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「おい、何てファックだ!この景色には見覚えがあるぞ」モヒカンは独りごちた。肉声より何百倍も速い論理タイピングによって。天を仰げば、思った通り黄金立方体が浮かんでいる。それは彼、チキモトがIRCコトダマ空間を認識するようになる前夜、深夜TVノイズを介して受信した光景であった! 14

2013-07-07 00:04:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は名前を思い出す。正式にはハンドルネーム「5uPeR_1d1oT」を。ここはIRCコトダマ空間。より厳密に言うならば、メガトリイ通信基地の防衛プログラムをイメージ化したものだ。だが彼、スーパーイディオットはその詳細を知らない。知る必要も無い。何をすればいいかだけが必要だ。 15

2013-07-07 00:09:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺は何故ここにいる」「選ばれたからだ」前頭葉から声が響く。「そう思ってたぜ」「だが何をすればいいか解らない」「そうだ」「君は山頂へ行く」「俺は山頂へ行く!」命令が自動的に注ぎ込まれる。興奮剤注入された血管が一本一本開くように、ニューロンに命令が染み渡りとても気持ちいい。 16

2013-07-07 00:16:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうだ、最初から知ってたぜ!俺は歩く必要なんて無い!」直結された男は飛翔し、飛行機のように両腕を広げて、江戸時代めいた町並みの上空を回転飛翔した。「ワオ……テンサイ……!」スーパーイディオットの論理肉体は風を感じ、哄笑する。彼は再び全能の存在となったのだ。 17

2013-07-07 00:21:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺は新たな人類だ!」飛行機じみた軌跡を残し、彼は山頂へと飛ぶ。立ちこめる黄金雲の間では、ヤクザが乗った何台もの戦車が街路を走り、フジサンに向かって列をなす。だが彼方のトリイからKICKめいた緑色の雷が降り注ぎ、彼らを定期的に01消滅させるのだ。たいへん神秘的な光景である。 18

2013-07-07 00:29:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「トロい奴らだ」彼は正面から迫る緑色の雷を回避し、吐き捨てるように言った。そしてフジサン山頂に到着。その赤大鳥居は何本もの刺々しいアンテナを備え、表面には無数のスピーカーが備わっていた。その下には、何か緑色の01人型がわだかまっている。「ニンジャかな」彼は少し怖じ気づいた。 19

2013-07-07 00:34:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「君はアイサツする」前頭葉から命令。「ドーモ、スーパーイディオットです」彼は蛍光グリーンの01集合体に近づき、奥ゆかしい OJIGI コマンドを決めた。すると、01人型の情報密度が増し……おお、ナムアミダブツ!それはアイサツを返したのだ!「ドーモ、グリーンゴーストです」と! 20

2013-07-07 00:39:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そして1010ゴーストの0011KICKが目の前に11101……BOMB!BOMB!BOMB!外付けファイアウォールが連鎖爆発!「アバーッ!」チキモトの物理肉体はハンマーで頭をぶん殴られたかのように揺れた!マザーUNIXと直結した右の生体LAN端子から焦げ臭い煙が立ち上る! 21

2013-07-07 00:49:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「彼は死にました」アンドリューはチキモトの左の生体LAN端子からケーブルを引き抜きつつ、監視カメラに向かって抑揚の無い声で言う。作戦司令室の面々への報告だ。チキモトを生体ファイアウォールにした危険な並列ダイヴ開始数時間前から、作業バーは99%のままピクリとも動いていない。 22

2013-07-07 00:59:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

直後、彼の隣にいたノーハイドの内蔵スピーカーから、ダイアウルフの猛り狂った罵声が電子音声変換されて届けられた。その半分以上が、実際お伝えできない罵りである。「しかし前進です」アンドリューは淡々と説明した。「謎の電子生命体をIRC部屋にトラップし、ハンドルネームを与えました」 23

2013-07-07 01:05:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「電子生命体などどうでもいい!何故99%から進まんのだ!」ダイアウルフは犬歯を剥き出しにして涎を垂らし、平然と戦略チャブにつくシーカーを睨みつけていた。「システムの仕様です。そしてゴーストを排除しない限り、データは吸い出せません」アンドリューの顔が大型モニタに大写しになる。 24

2013-07-07 01:17:28
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