【twitter小説】ナィレンの暴走列車#2【ファンタジー】

赤錆の鎧の騎士ミェルヒとエンジェは列車内に巣食う化け物と戦闘を始める。列車は暴走し、一刻も早くなんとかしなければいけない……! @decay_world はツイッター小説アカウントです。この話は#4まで続きます
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減衰世界 @decay_world

――ナィレンの暴走列車#2

2013-07-22 16:18:37
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 電車の中は半透明の糸だらけになっていた。その糸を行きかうのは巨大な半透明の肉塊だ。ぶっくりと腹が膨れた蜘蛛のような姿をしており足は短い。ドアが開くとともに酸っぱい腐ったような匂いが漏れだしてきた。 31

2013-07-22 16:22:32
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「うぇ、何これ……」 「時間がありません! 行きましょう」  ミガサスは落ちついて火炎放射器を取り出すと透明な糸を焼き払う。化け物は火を恐れて一旦は奥へ逃げた。 32

2013-07-22 16:27:19
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 3人はなんとか列車内に進入した。足元は糸だらけで、粘っこく足を持ち上げると糸を引いた。エンジェはもう泣きそうだ。先頭車両に操舵室があると踏んで先端の方に乗り込んだが、糸のせいで思うように進めない。 33

2013-07-22 16:31:16
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「少々想定外ですが、何とかしましょう。何とかなるはずです。何とか……」  ミガサスの声は少し震えていた。ミガサスは今まで後方支援ばかり回されていて、実戦は初めてであった。とにかく火炎で糸を焼き切り車内を進む。 34

2013-07-22 16:36:50
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 この列車は今まで旧都市部の奥に安置されていたのだ。そこに生息している生き物など碌なものではないだろう。幸いこの化け物は火が苦手なようだ。火炎放射で糸を焼くたび、蜘蛛の化け物は文字通り蜘蛛の子を散らすように逃げていく。 35

2013-07-22 16:40:51
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 こんなことならもっと先頭車両に乗り込むべきであった。しかし乗車タイミングが短かったのと、どこに停車するか分からなかったため、列車の中ごろに乗り込むしか無かったのだ。ミガサスを先頭に火炎放射で道を開きながら進んでいく。 36

2013-07-22 16:49:50
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「上手く行くはずですよ、私はギルドの一員なのですから……」  小さい声でミガサスは呟く。火炎放射器が抜群に効果を発揮し、今のところは順調だ。ミガサスは以前ギルドの先輩に言われたことを思い出した。 37

2013-07-22 16:54:23
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”物事は大抵上手く行かないものさ。それも上手く行かないときはいつだって最悪のタイミングでやってくる。それは運命だから受け入れるしかない”  大丈夫上手く行くに決まっている……ミガサスは不安を打ち消そうとする。 38

2013-07-22 17:00:14
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”大事なのは最悪の状況でいかに最善を尽くすかさ”  列車の先頭部分まで来たようだ。突当たりには白い壁があった。エンジェはその壁にドアのようなものを発見した。 39

2013-07-22 17:05:58
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「あった! ドアだ! ここが操舵室だよ!」  エンジェは震える声でドアを指差す。開けたいのは山々だが……そこにも糸はびっしりと貼りついていて触るのをためらわせた。 40

2013-07-22 17:10:01
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「僕がやる!」  ミェルヒはドアを押したりしてみる。というものの、四角い溝がドアのように見えるのだが、取っ手も無くどうやって開けたらいいのか分からないのだ。そうこうしているうちに奥から化け物の群れがもぞもぞと大量に這い出してきた。 41

2013-07-22 17:14:25
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 ミガサスは断続的に火炎を浴びせるが、一旦は引くもののまたじわじわと無数に這い寄ってくるのだ。 「ミェルヒさん! 開けられますか?」  振り返ることなくミガサスは問う。 42

2013-07-22 17:18:45
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「ダメだ、ミガサスさん、代わってくれ」  今度はミェルヒとエンジェがミガサスの背中を守ることになった。ミェルヒは剣で、エンジェは絵筆から繰り出す魔法で化け物を蹴散らす。 43

2013-07-22 17:24:32
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 だが火炎と違い傷ついた化け物は傷口から分裂を開始し、さらに数を増して這い寄ってくるのだ。 「エンジェ、火炎魔法はあったっけ」 「ごめん、在庫切れ……」  エンジェは鋭利な破片を撃ち出す魔法しかいまはストックに無かった。 44

2013-07-22 17:30:00
減衰世界 @decay_world

 蜘蛛の化け物は次々と酸っぱい悪臭を放つ体液を撒き散らしながら死んでいくのだが、一撃で仕留めないと分裂を繰り返すのだ。そのたび、さらに戦闘に特化した形態の化け物が生まれているようだ。 45

2013-07-22 17:39:12
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 ブヨブヨと太った蜘蛛の姿から、前線にいるのは装甲を持ったものや魔法の力で攻撃してくるもの等に変化を始めていた。 「ミガサスさん、この化け物は僕たちには相性が悪い。早く扉を開けて操舵室に入ろう」 46

2013-07-22 17:43:40
減衰世界 @decay_world

 破片を飛ばしてくるタイプの化け物の攻撃を盾で弾きながら、ミェルヒは振り返った。ミガサスは素早く手を動かし、ドアの表面に浮き上がった光のコンソールを操作していたが、なかなか上手く行かないようだ。 47

2013-07-22 17:50:13
減衰世界 @decay_world

「こいつら僕らの攻撃を学習しているのか……?」  剣で切断していくと、前肢が剣のように鋭く変化したものが分裂で生まれていく。盾で防ぐと、装甲を身に纏ったものが生まれてくる……そんな気がするのだ。 48

2013-07-22 17:54:24
減衰世界 @decay_world

 そしてエンジェが魔法の破片で敵をなぎ倒し始めた頃だ。その頃から化け物に魔法の心得を持った者が現れ始めたのだ。最初は仲間の死体を投げ飛ばす程度だったが、いまやエンジェに及ばないものの魔法を結晶させて石つぶてのような塊を飛ばしてくる。 49

2013-07-22 17:59:56
減衰世界 @decay_world

 暴走している旧都市部には、その暴走した魔力に寄生する化け物が大量に生息している。その奇妙な生き物たちは、濃い魔力によって異形と呼べるまでに変化している。エンジェもミェルヒも、この蜘蛛のような化け物は初めて見た。 50

2013-07-22 18:07:45
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 二人は何度か旧都市部に探索に訪れたことがあるが、この蜘蛛の化け物に出会ったことは無かった。より奥の危険なまでに魔力が濃くなっている場所で生きている存在であろう。その奇想天外な進化は、冒険者にとって最も恐るべき予測不可能な脅威だった。 51

2013-07-22 18:16:36
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 ミガサスはドアの表面で発光するたくさんのボタンを押し続けている。旧都市の機械の操作は冒険者よりむしろギルドのようなより専門的な職業の領域だ。しかし1から10まで知っているわけではなく、解読には時間がかかる。 52

2013-07-22 18:22:26
減衰世界 @decay_world

「待って、もう少し……開いた!」  コンソールが光に包まれ、ガスンと音がするとドアはへこみ、ゆっくりとスライドしていった。しかし、ドアの向こうには渦巻くエネルギーのプラズマがあったのだ!  「しまった、防衛機構だ!」 53

2013-07-22 18:28:18