大屋雄裕氏が語る「緊急事態法制」と「ナチスの全権委任法は改憲か」

麻生太郎発言でにわかに注目が集まった、ナチスドイツの権力奪取手段「全権委任法」。 その法的位置づけなどについて名古屋大大学院法学研究科教授、ブログ「おおやにき」でも有名な大屋雄裕氏@takehiroohya氏が解説。 【大屋氏関連サイト】 http://www.axis-cafe.net/weblog/t-ohya/ http://www.nomolog.nagoya-u.ac.jp/~t-ohya/ 続きを読む
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  緊急事態法制について

Takehiro OHYA @takehiroohya

自民党改憲案99条を戦前の緊急勅令制度と対比するのは当然アリの視点だと思うが、そこからもわかる通りあくまで追認を必要とする暫定措置であって、通常の法律を制定可能にした全権委任法とは根本的に違う。このあたりをごっちゃにする人は、要するに何もわかっていない。

2013-07-30 23:40:09
Takehiro OHYA @takehiroohya

ついでに言うと、政治信条や発言内容が気に入らないのはいいとして、それを外圧を使ってでも打ち倒そうと主張する人はその時点で民主政を裏切っているのであり、自らがすでに裏切った民主政に復讐されるのは当然だとも思うわけである。こうしてみるとしかしケルゼンは偉いよな。

2013-07-30 23:42:09
優noD 🏴󠁧󠁢󠁳󠁣󠁴󠁿 💙💛💙💛💙💛 @yunod

ナチスは全権委任法の前にまず「憲法改正に相当する法案の可決には総議員の2/3の出席と出席議員の2/3による可決」という議院運営規則を「欠席議員は出席した上で棄権したものと見なす」と変える法案を通した。最大の敵共産党の議員はひとりも出席できない状況下で数字をクリアした。

2013-07-30 18:26:45
Takehiro OHYA @takehiroohya

>RT これ自体はまったく正しいのであるが、というわけで「議院の2/3」と「定足数を満たす出席者の2/3」では大きく意味が異なり、96条改憲案に関する小林節コメント(東京新聞)はダメでそれを擁護した人間はバカ、という結論でよろしいか。

2013-07-31 22:14:07
Takehiro OHYA @takehiroohya

何度でも書くが自民党改憲案の緊急事態法制と似てるのは旧憲法下の緊急勅令。これと全権委任法の違いは、共和政ローマにおけるスッラ以前と以後の独裁官の性格の違いに等しい。さらに言うと日本軍国主義の成立と緊急勅令制度はほぼ無関係(むしろ天皇大権によって2.26は止まったわけで)。

2013-08-04 09:35:50
Takehiro OHYA @takehiroohya

また、ドイツはワイマール憲法48条に定められた大統領の緊急事態権限の発動から全権委任法制定→ナチズム体制の確立と進むわけだが、現行憲法(基本法)には緊急事態法制が含まれている。ここから、ドイツ人は日本と違って歴史の教訓を学んでいない、と言ってよいか(皮肉)。

2013-08-04 09:38:51
Takehiro OHYA @takehiroohya

もちろん、じゃあ自民党改憲案の緊急事態法制がいいかと聞かれると、さほど危険ではない・最低限のラインはクリアしているが、もっと安全にはできるはずだしした方がいいと思っているので、手放しでアレを認めるわけではない。

2013-08-04 09:40:34
Takehiro OHYA @takehiroohya

具体的に言うと、(1)前にも言及した通り緊急事態下における憲法改正や基本的秩序の改変は禁止すべき。ドイツの場合も、大統領命令による措置下で全権委任法という憲法秩序の不可逆的な改変をやってしまったことが致命的。緊急措置はあくまで臨時のものにとどめることが重要。

2013-08-04 09:43:19
Takehiro OHYA @takehiroohya

(2)非常事態における措置を内閣単独の権限としてよいか。戦前くらいの技術水準だと、外国勢力による侵攻・内乱・大規模災害などの非常事態において議員が物理的に集合できない=議院として行動不能に陥るという事態は十分想定できるので、天皇や大統領という「一人」に任せることも理解できる。→

2013-08-04 09:46:43
Takehiro OHYA @takehiroohya

→しかし現在では、たとえば3.11震災後でも罹災地域以外の議員が東京に集まることはそれほど難しくなく、議会の機能は維持された。議事手続き・定足数などの緩和は考える必要があるかもしれないが、《内閣単独権限→国会の追認》ではなく、《国会の承認条件の緩和》の方が安全ではないか。→

2013-08-04 09:48:54
Takehiro OHYA @takehiroohya

→ドイツ緊急事態法制が、上下院で同時に手続きを進めることを認めるなど承認条件の緩和を導入している一方、行政府に単独権限をできるだけ委ねないようにしている点は参照すべきかと思われる。

2013-08-04 09:50:44

  ナチスの「全権委任法」は改憲だったか

住友陽文 @akisumitomo

@takehiroohya もちろんご存じのようにワイマール憲法は改正されずに事実上無効にされたわけだから、麻生副総理の言ってることは混乱しているのですが。 @jyonaha

2013-08-01 12:53:57
Takehiro OHYA @takehiroohya

ところでその、これは私も正確に理解していなかったことを自白するのであるが、麻生発言について「ナチスは改憲などしていない、あれは全権委任法の制定だ」という指摘が多く見られるところ、よく見たら間違いなく憲法改正であったので以下に詳細を述べる。

2013-08-04 11:37:35
Takehiro OHYA @takehiroohya

(1)「全権委任法」Ermächtigungsgesetzは1933年3月23日に可決されたが、その際《2/3以上の出席のうち2/3以上の賛成》を得る必要があったので、事前に議事規則が改正され欠席者も出席して棄権投票したものとしたことについては、すでに指摘されている通り。→

2013-08-04 11:40:35
Takehiro OHYA @takehiroohya

→思えばこの時点で「あれ」と思うべきだったのだが、これは《通常の法律制定手続きではない》。ワイマール憲法32条より、通常の法律は両院の過半数で可決されることになっているからである。

2013-08-04 11:41:49
Takehiro OHYA @takehiroohya

(2)調べたところ、根拠となっているのは同憲法76条であった。第1項は憲法改正が「立法によって」 im Wege der Gesetzgebung行なわれる旨、その際には《2/3以上の出席の2/3の投票》という加重された可決要件を満たさなくてはならない旨を規定していたのである。→

2013-08-04 11:46:35
Takehiro OHYA @takehiroohya

→つまり全権委任法は「憲法改正法律」とでも呼ぶべき特別の種類の法であり、一般的な法律ではない。それにより憲法体制が《憲法の想定していた方法により》(議事手続き除く)変化したので、これは憲法改正だということになろう。→

2013-08-04 11:47:56
Takehiro OHYA @takehiroohya

→日本国憲法は改正されたことがないので確定はしていないが、おそらく憲法改正それ自体も「憲法」として法律番号を振ることになるだろうと思われる。ドイツの場合はそうでなく、形式的には法律として扱いつつ要件的に区別しているということになる。

2013-08-04 11:50:09
Takehiro OHYA @takehiroohya

(3)というわけで、「全権委任法によりワイマール憲法が廃止されたわけではない」も正しいが、「全権委任法によりワイマール憲法は改正された」も正しい。全権委任法は元憲法の条文に追加削除を加えるものでなく、独立の条文を構成したので、あえて言えば「加憲」ということになる。→

2013-08-04 11:52:29
Takehiro OHYA @takehiroohya

→「従来の規定と異なる条文が加えられたことにより、それまでのワイマール憲法の相当部分は空文化した」というあたりが正確な表現ということになろうか。なお「加憲」型改正はアメリカ連邦憲法でも行なわれており、それ自体が不気味だというわけでもない。

2013-08-04 11:54:04

 その前段階があったのでおまけで採録します

Takehiro OHYA @takehiroohya

話題の麻生発言、全文書き起こしが欲しいところではあるが、報道されている限り(1)どのような改憲の環境が望ましいかという点ではあり得る意見だと思うものの、(2)事実関係の理解は完全におかしい、ということかと思う。それぞれへの反応を切り分けるのも重要。

2013-07-31 14:09:26
Takehiro OHYA @takehiroohya

《静かな環境》での改憲が望ましいという立場の根拠も二通りあり、一つは人民は愚昧なので能力的or血統的なエリートたちが決めるべきというもの。もう一つは、人民の意思が大事なのだが短期的な熱狂ではなく長期かつ永続的な意思を熟議などによって形成していくべきというもの。

2013-07-31 14:12:54