「私は何者なのか」／終わらない「自分捜し」／ソ連の日本人残留孤児ニーナさん

関根和弘/Kazuhiro SEKINE @usausa_sekine

ソ連残留孤児１）８月９日は「長崎原爆の日」だけでなく、ソ連対日参戦の日でもあります。６８年前のこの日、ソ連が日本との中立条約を破り、満州や樺太、朝鮮、千島列島に侵攻しました。この戦争で大きく人生が変わった１人を紹介したいと思います。「ソ連の残留孤児」として認定された女性です。

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ソ連残留孤児２）ニーナ・ポリャンスカヤさんです。終戦直後の旧満州でソ連兵に救出され、ソ連・ロシアで育った方です。現在、ロシア西部のエカテリンブルクで暮らしています。 http://t.co/YfJioyDQVQ

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ソ連残留孤児３）ニーナさんは６８歳。でもこれは推定です。年齢はおろか、自分の本当の名前、両親などは現在までわかっていません。１歳半ごろの当時、戦場で一人だけ生き残り、救い出されました。「自分はいったい何者だったのか」。ずっと抱いてきた思いです。

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ソ連残留孤児４）ニーナさんは戦争当時、今の中国東北部の牡丹江市に住んでいたようです。ニーナさんが救出主のロシア人らから聞いた話では、ソ連が参戦した８日後の１９４５年８月１７日、最も戦闘が激しかった中国東北部の牡丹江近くの関東軍陣地でニーナさんは発見されました。

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ソ連残留孤児５）ソ連軍の砲撃部隊の進軍を遮るように、関東軍のトーチカがありました。ソ連軍はここを突破するため、重油に浸した布を巻き付けた手榴弾をトーチカと外部を結ぶ煙突のようなものから内部に向けて投げ入れたとのことです。内部はたちまち煙が充満し、一酸化炭素中毒状態に。

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ソ連残留孤児６）抵抗が終わったのを見計らって、ソ連兵が内部に入りました。部隊の指揮官イワン・ミフリャさんは中で日本人将校らしき男性と、その妻であろう女性の遺体を見つけました。近くに２人の家族の写真をおさめたアルバムを発見。記念に持ち帰ろうとしたとき、赤ん坊の泣き声が聞こえました。

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ソ連残留孤児７）泣き声の主がニーナさんです。イワンさんは別の兵士とともにニーナさんを救出。アルバムの写真の中から持っていた袋に入る大きさだった写真を選んで持ち去りました。その写真がこちらです。 http://t.co/VpHRnMdPNj

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ソ連残留孤児８）写真の裏面です。上部にロシア語で「牡丹江」、続けて「１７　Ⅷ　１９４５」とあります。１９４５年８月１７日、牡丹江でニーナさんが救出されたことを、イワンさんが記しました。写真はニーナさんを知る唯一の手がかりです。 http://t.co/SUu64TFJQ8

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ソ連残留孤児９）ニーナさんは見つかったとき、鼻にけがを負っていました。戦闘のさなか、何かの破片が当たってできたとみられます。助け出された後、救護所に運ばれ、その後野戦病院に入院しました。このとき世話をしてくれた女性看護師の名前をもらい、ニーナと名付けられたといいます。

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ソ連残留孤児１０）名字のポリャンスカヤは、ロシア語で野原、荒野を意味する「ポーリャ」から付けられました。見つかった場所が草原のような場所だったからとのことです。年齢はイワンさんたちが見た目で１歳半と推定、そこから逆算して誕生日も推定で決められたとのことです。

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ソ連残留孤児１１）ニーナさんはその後、部隊の引き揚げとともに約５千キロ西の現エカテリンブルクに移動しました。そこで現在まで暮らしています。移住当時は、部隊の将校クラブを管理していた女性が引き取り、中国人として育てました。当局の目を恐れ、日本人であることを隠していたとのことです。

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ソ連残留孤児１２）間もなく、女性は復員した夫とウクライナに引っ越すことになりました。そのため、ニーナさんは孤児院に預けられることに。以後、いくつかの孤児院を転々とすることになります。

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ソ連残留孤児１３）ニーナさんが１０歳の頃、イワンさんと再会します。当時、イワンさんはエカテリンブルクの議員。街中で偶然、ニーナさんの孤児院の院長が「自分の施設にロシア人の姓名だが、パスポートには中国人と書かれている女の子がいる」と話すのを耳にしたことからニーナさんを訪ねたのです。

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ソ連残留孤児１４）再会した時、ニーナさんはイワンさんから自分について聞かされ、初めて自分が日本人であることを知ります。中等学校（日本の高校にあたる）を卒業したとき、例の写真を渡されました。「自分は何者なのか」。ニーナさんの心の中には、自分を知りたいという思いが強くなっていきます。

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ソ連残留孤児１５）ウクライナに引っ越してしまった元養母もニーナさんの肉親捜しに動いてくれました。ソ連の外務省や新聞の「イズベスチヤ」などに手紙を送り、支援を求めました。だが、当局からは「余計なことに首を突っ込むな」と逆に警告され、断念します。

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ソ連残留孤児１６）元養母はポリャンスカヤさんに危険が及ぶのではないかと思い、「ニーナ、許して。助けてあげられなかった。お願いだから何もしないで。会って直接話しましょう。あなたも大きくなればわかる」などと書いた手紙をニーナさんに送りました。

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ソ連残留孤児１７）元養母の女性はニーナさんが見つかった際に着ていたもんぺのような服を保管していたそうですが、夫が当局を恐れ、それを燃やしてしまったということでした。ニーナさんの「自分捜し」の期待と希望は断ち切られます。

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ソ連残留孤児１８）追い打ちをかけるように、ニーナさんを病気が襲います。見つかったときの後遺症と思われる、激しい頭痛や歩行障害に見舞われます。エネルギー関連の技師として働き始めた矢先でした。ハント症候群との診断を受け、重度の障害者の認定を受けます。

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ソ連残留孤児１９）わずかな障害年金と自分で作った編み物を売って生計を立てました。ペレストロイカのころ、特に生活は厳しかったと話しています。

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ソ連残留孤児２０）ソ連が崩壊し、ロシアになって１１年目の２００２年の夏。事態が好転します。シベリア抑留者の墓地捜しでエカテリンブルクを訪れていた「九州・ウラル友好協会」（福岡県）代表の副島浩さん（７４）と面会し、自分が日本人であることを打ち明けました。

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ソ連残留孤児２１）副島さんがエカテリンブルクに来ていることをニーナさんの友人が報道を通じて知り、テレビ局を通じて副島さんとコンタクトを取りました。

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ソ連残留孤児２２）副島さんがニーナさんのもとを訪ねたときはすでに深夜。ニーナさんは台所で話しましょうと招きます。ソ連時代から大事な話は台所でと決まっています。当局を恐れてのことで、時にはラジオのボリュームを大きくしたり。今でもロシア人は台所で話す習慣があります。

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ソ連残留孤児２３）話はややそれましたが、ニーナさんから話を聞いた副島さんは写真を借りて厚生労働省に情報提供します。調査の結果、ニーナさんは中国以外で初めて残留孤児と認定され、２００４年１１月にほかの孤児認定された方々と来日します。このとき、各メディアが大きく報じました。

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ソ連残留孤児２４）２週間の滞在中、有力な情報は得られませんでした。その後も数回来日し、日本側支援者とともに当時牡丹江に住んでいた人たちのもとを訪ねました。

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ソ連残留孤児２５）今年４月、プーチン大統領との会談でロシアを訪れた安倍首相と面会しました。安倍首相側からの要望でした。実は前の首相時代、安倍さんは、ニーナさんをモデルにした小説「戦場のニーナ」（なかにし礼さんの作品）を読んで感激し、面会を打診。首相辞任で実現しませんでした。