ネオサイタマ・シティ・コップス #3
(あらすじ:ネオサイタマ市警の特務組織である49課は、過剰暴力デッカーやフォールンデッカーの巣窟として悪名高い。49課に配属された新人ナカジマは、初日から暴力的な女デッカーとともに凶悪犯罪対応に向かう。ナカジマはその中で彼女がニンジャである事を知り、49課の秘密を知るのだった!)
2013-08-12 22:26:17「ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ……!」ナカジマは階段の踊り場で仰向けに横たわる。酷い火傷だ。両腕は動かない。頭上でバチバチと電子ボンボリが明滅し、錆びた排気ファンが軋んだ音を上げる。壁に埋め込まれていた水槽は銃弾で割れ、蛍光緑色のネオンキンギョたちが床で口をパクつかせていた。 1
2013-08-12 22:32:24「ウオーッ、しくじったぜ、チクショウが…生きてっか、ルーキー…」少し離れた場所からうめき声。角刈りにティアドロップ型サイバーサングラス。タフガイだ。死体まみれの階段を這って降りてくる。左腕には赤い腕章。顔にはメンポ。タフガイもまたNSPD49課のニンジャだが、重傷状態にある。 2
2013-08-12 22:38:56「ウーッ、痛えぜ……あのニンジャ野郎、好き放題やりやがって……」タフガイは銃創を押さえ奥歯を噛む。「もう……死にます」ナカジマが弱音を吐く。「見せてみろ……。何だこりゃ、この位じゃ死なねえ……死なねえ……」タフガイは鎮痛剤入りのアンプルを取り出し、やおらナカジマに注射した。 3
2013-08-12 22:45:19瞳孔を開くナカジマ。奥ゆかしい違法薬物だ。「どうだ……効いたか…?」「遥かに……良いです」「よし……死ななかったら、凄えオイラン、紹介してやるからな……お前、ニンジャ見たろ?」「ハイ」「おエラいさんの顔も…見たろ?」「おそらく」「よし、もう少し頑張れ…ウーッ、痛えなこりゃ!」 4
2013-08-12 22:52:28「デッドエンド=サンは」ナカジマが問う。「あの暴力女なら大丈夫だ。強いし……知能指数も高い。……問題はな、逮捕できるかどうかさ。あいつ、犯人を殺して迷宮入りにしちまう癖がある。それで、ついたあだ名が……デッドエンド」タフガイは大の字に転がって笑う。そして苦痛に顔をしかめた。 5
2013-08-12 23:02:46「……初日から災難だったなあ!」タフガイは横に寝転がるナカジマの髪をつかむと、犬でも可愛がるかのように撫でて勇気づけた。(((どこでしくじったんだろう)))ナカジマは薄れ行く意識の中で自問した。とても危険なソーマト・リコール現象が始まり、数時間前の出来事が視界に映し出された。 6
2013-08-12 23:09:56二時間前、装甲マッポビークル車内。武骨なワイパーはぬめった重金属酸性雨を無表情に左右に振り払う。運転席にはニンジャ装束のデッドエンド。助手席にはナカジマ。「おい、タフガイ=サン、そっちの調子はどうだ。また単独行動か?」デッドエンドはビールで喉の渇きを癒しながら、IRCで問う。 8
2013-08-12 23:15:09「何だよ、マッポスコアで勝負か?俺に勝てるかな」上機嫌そうなタフガイの声。「ゴキブリ捕りに引っかかった害虫どもを駆除中さ。おい、お前らのチーム名、ジェット…何だっけ?違う?黙秘権?イヤーッ!イヤーッ!アァ?タマゴ団!そう、タマゴ団!最高ランクの極悪ハック&スラッシュ連中だ!」 9
2013-08-12 23:21:25「N案件だ」デッドエンドが冷たい表情で返す。「N案件!」タフガイが驚く。「座標を送るぞ。飛ばせば合流できる」デッドエンドは一方的にIRC通信を切り、アクセルを踏み込んだ。マッポビークルはなおも加速する。ナカジマは隣でごくりと唾を呑んでいた。 10
2013-08-12 23:26:41高層ビルの谷間。現場の路地裏は立入禁止テープが張られ、地区のマッポ達が引き上げ始めていた。すでに他課に引き継がれた可能性が高い。ナカジマは49課チーフマッポの後ろに続いて路地裏へと進む。女デッカーはいない。彼女はビークルを降りるや否や、壁を蹴り渡ってビルの屋上へと向かった。 11
2013-08-12 23:30:33「ちょっと止まりなさい!我々はNSPD……よ、49課!」見張り番をしていた他課マッポが震え上がった。「その通りだ!」不吉なバッジをつけた49課チーフマッポは警棒を振り上げ相手を威嚇し、大股で現場に踏み込む。ナカジマも真似して続く。凄惨な殺人現場だ。ヤクザクラン同士の抗争か? 12
2013-08-12 23:34:42基本に忠実に指差し点検するナカジマ。ヤクザスーツを着た男の死体が4つ……全員がチャカ・ガンを持っている。それとは別に、ストライプのスーツを着た男の死体。この男は手首とジュラルミンケースを手錠で繋いでおり、ケースの中身はぶちまけられている。白い粉……違法な大トロ粉末だろうか。 13
2013-08-12 23:42:36ナカジマは死体の膝に刺さった鋼鉄物体を見逃さない。(((まさか……スリケンでは!?)))スリケンとはニンジャが投げるとされる伝説の投擲武器だ。だが社会常識的にニンジャは実在しない。フィクションの産物だ。これを指摘するようなマッポは、間違いなく馬鹿にされ降格ペナルティだろう。 14
2013-08-12 23:49:08「ドーモ」「ドーモ」チーフマッポ同士が慇懃無礼にアイサツし名刺交換している。「いくら49課でも今回は手出し無用!我々の領分です!」相手は麻薬取締の18課。マッポスコア総合成績も優秀で、それに裏付けられた強気の態度だ!「上司と直接話をさせてください」「できません」押し問答! 15
2013-08-12 23:53:37キキーッ!突然猛スピードで突っ走ってきたオープンカーが路地裏の前で急ブレーキ。タイヤ痕が燃え、後輪が高く上がる。「49課だ!」ドアも開けずにタフに飛び降りてきたのは、これまた公僕とは思えぬ強面の風体に49課デッカーバッジの男!通称タフガイだ!とてもデッカーとは思えない! 16
2013-08-13 00:01:03タフガイも現場に踏み込む。「ドーモ、シツレイしますよ。アアーッ、こいつは間違いねえな、俺たちの領分だぜ!」彼は死体に刺さっているスリケンを見逃さない。「ご覧の通り、薄汚いヤクの運び人とヤクザの殺し合いだ!もう報告してマッポミッションも登録したんですよ!」18課が突っぱねる。 17
2013-08-13 00:05:50「じゃあこの件のスコアはくれてやるから、俺たちに捜査させろ。俺たちゃスコアなんてどうでもいいんだ」「ダメです!風紀が乱れます!マッポマニュアルの808ページ第七項参照!」「うるせえ!」タフガイは18課マッポを殴りつける!彼は理屈屋を見ると殴らずにはいられない!「グワーッ!」 18
2013-08-13 00:12:56「ハイハイ、ハイ……解りましたよ。仕方ねえでしょ、揉み消されちまうかもしれねえんですよ…。大丈夫ですよ、ちゃんと手加減してますよ」タフガイは密かにIRCで上司に釈明してから、18課のマッポたちを威嚇する。「……オイ、いいか18課、次また49課を侮辱したらただじゃ済まねえぞ」 19
2013-08-13 00:21:37「ウウーッ……」転倒した18課チーフマッポは、頬をさすり起き上がる。それを尻目に、独自に捜査を開始したタフガイは、ストライプ死体の前に座り込んだ。「オイ、待てよ、こいつ……どこかで見た覚えがあるぜ……」タフガイは驚いた顔を作り、死体の顔にかけられたサイバーサングラスを外す。 20
2013-08-13 00:27:31「こいつは……潜入捜査官のクロタ=サンじゃねえか……!ウオオオーッ!課は違うが、こいつとはマッポスクールで同期だったんだ!ムカつく野郎だったけどよ、死ぬにゃあ惜しい男だぜ!ウオオオーッ!」タフガイは旧友との思いがけぬ再会に驚愕し、荒々しく吠えながら、拳で地面を殴りつけた。 21
2013-08-13 00:32:10「その通り。だがデータベースによると、彼は3ヶ月前に退職している」大通りから18課デッカーが到着し、自信満々で言う。「おかしい!じゃあ何で薬物を!」ナカジマが思わず指摘する。「犯罪組織で働いたほうが儲かるに違いないと思ったんだろ!この事件は18課が捜査する!スコアも貰う!」 22
2013-08-13 00:40:02「……そうかよ、わかったぜ」タフガイは静かに立ち上がり、サイバートレンチコートを羽織った18課デッカーの前に立つ。相手はコートの袖口から最新型の戦闘用サイバネ義手をのぞかせ、無表情な両目のサイバネアイを帽子の下で輝かせる。一触即発のアトモスフィア。 23
2013-08-13 00:51:20