ホワット・ア・ホリブル・ナイト・トゥ・ハヴ・ア・カラテ #1

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ホワット・ア・ホリブル・ナイト・トゥ・ハヴ・ア・カラテ】#1

2013-08-24 23:19:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネオサイタマの夜は暗く深い。ツキジ・ディストリクト13番地。サイバーゴスクラブ「ハードワイアード・ノスフェラトゥ」の不吉なネオンカンバンは、重金属酸性雨を浴びてバチバチと火花を散らし、歩道に生えた見事な松の木の刺々しい枝葉を照らした。 1

2013-08-24 23:25:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ミリタリー調サイバーロングコートを着たガスマスク男が守るゲートを超えて階段を下りると、ダンサブルな重低音と電子音が響いてくる。地下は広い吹き抜けを持つカタコンベめいた多層構造で、様々なスタイルの連中が暗黙のテリトリー分けを行い、ダンス行為や直結行為に及んでいるのだ。 2

2013-08-24 23:36:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

地下ホールの隅……二人掛けのテーブル席に座ったその白衣の男は、現在時刻を確かめながら蛍光ブルーのカクテルをストローで啜った。彼の白衣は返り血で染まっているが、それはここではファッションと解釈され、誰もそれを咎めない。だが実は……非道人体実験による、新鮮な、本物の返り血なのだ。 3

2013-08-24 23:46:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

約束時刻。女は姿を現した。白衣の男、リー先生は、すぐにそれが彼女だと悟った。サイバーチャイナドレスを着たサングラスの女。まるで彼女の周囲に不可視のカラテが漂っているかのように、ゴスたちはモーゼを進ませる海めいて、無意識のうちに彼女のために道を開けたのだ。ニンジャ存在感である。 4

2013-08-24 23:53:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お会いできて光栄ですよ。イヒヒ……まさか、まさか、そんなに適切なドレスコートとはネェ……」リー先生はこみ上げる知的好奇心を堪えきれず、両の口角を笑みで大きく吊り上げる。「おかしな連中ばかりのこのサイバーゴスクラブなら、ニンジャ装束で現れたって、イヒヒ……おとがめ無しなのに」 5

2013-08-25 00:00:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼の言葉は実際真実である。ホール中央ではメンポじみたガスマスク覆面のサイバーゴスたちが、ニンポめいた動きでダンスしているのだ。だが彼女はボンボリの灯りに集まった珍妙な蛾の群れでも見るかのように、無表情にそれらに一瞥をくれ、席に座った。「現代的な服のほうが機能的だ。面倒も減る」 6

2013-08-25 00:09:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「面倒とはネェ!モータルが騒いでも簡単に殺せるだろうに!」リー先生は興味深そうに言った。「虫を潰すのは面倒だろう?それに、観察は退屈しのぎになる。私はマッポーの夜を楽しんでいる。ああいう珍妙な文化、お前のようなモータル、そういうもの全てを」女は言った。「同じ酒を注文してくれ」 7

2013-08-25 00:20:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ、マイニチ、タノシンデネ」両脚をサイバネ改造し身長9フィートに達する痩身のスキンヘッド・バーテンダーが、窮屈そうに背中を折り曲げながら、蛍光ブルーのカクテルを運んできた。女はそれで喉を潤すと、真っ赤なネイルの指先でライターを擦り、細い薬物タバコに火をつけて吹かした。 8

2013-08-25 00:27:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

フルコース料理を前にしたサムライめいて、リー先生は直ちに本題を切り出した。「ではインタビューを開始しようネェ。さて、君の正確な年齢は?」「それはシツレイにあたる」女はアンニュイげに返した。「生物学的な興味だよ。確証が欲しい。神話級ニンジャである確証がネェ」リー先生は億さない。 9

2013-08-25 00:39:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「数千年……数えるのをやめた。それに記憶なんてものはUNIXと同じだ。新しいものが入れば、古いものは……上書きされる」女ニンジャが言った。「UNIX!現代的だ!君はUNIXを使う!?」「徐々に使う」若者的な言い草で返す。「ではどうやってニンジャになったかも、覚えていない?」 10

2013-08-25 00:49:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「断片的に覚えている」「イヒヒーッ!重点だ!常人がどのようなプロセスでニンジャになるのか!」リー先生は興奮した。ニンジャは答える。「……物心つく前からカラテを鍛えた。過酷な鍛錬だ。ある時は長いハチマキを巻き、それが地面につかぬよう速く駆けた。谷間を吹き抜ける風のように疾く」 11

2013-08-25 01:00:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「古事記の通りだ!」リー先生は頷く。女ニンジャはその他にも、歴史の闇に消えた恐るべき真実の数々を気怠そうに語った。「……なるほどネェ、君は過酷なカラテ訓練を積み、精神と肉体を鍛えた。予想通りだ。しかし常人とニンジャの境目はどこに?いつニンジャソウルが生まれる?何か儀式が?」 12

2013-08-25 01:10:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あれは、美しく晴れた春の日……」女は記憶を辿るように言った。「そう……桜が咲き誇る、晴れた日だ。お前には想像もできないだろう。大気汚染も重金属酸性雨も無かった。空気は澄み渡り、フーリンカザンを全身で感じ取る。静かな風の中で、私はセンセイとハナミを行い、メンキョを授かった」 13

2013-08-25 01:17:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナムアミダブツ……なんと荘厳で情緒溢れる、幻想的な日本美的光景であろうか!「とすると……生まれた瞬間からニンジャの者はいない?」「当たり前だ」「イヒヒヒーッ!やはり!」リー先生は感極まって拍手する。「ニンジャは種族ではない!カラテと精神的儀式によって常人から生み出される!」 14

2013-08-25 01:34:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヒッ!イヒッ!仮説補強だ、ドージョーこそがミーミーの伝達手段……」知的好奇心が閾値を超えたリー先生は、長年の研究の末に導き出した、あるひとつのニンジャ・サイエンス的仮説をついに投げかける。「重要な生物学的質問だ、ドラゴン・ニンジャ=サン。ニンジャは子孫を……成せない?」 15

2013-08-25 01:42:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

長く反復していた曲と曲のギャップが偶然訪れる。シシオドシが鳴ったかのような静寂がホールを包む。それはほんの一瞬か、あるいは数十秒続いたのか。あたかも夜そのものが固唾を呑み、彼女の答えを待っているかのようだった。ユカノは薬物タバコを揉み消してから、静かに言った。「その通りだ」 16

2013-08-25 01:50:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……リアルニンジャ同士でも、モータルとの間にも、子は成せない。そしてニンジャとなったならば、退路は無く、モータルに戻るすべも無い」ゴウランガ!古き竜は呪わしきニンジャ真実を明かし、そして代価を求めるように問うた!「お前はニンジャソウル憑依者に詳しいな。その場合も同じか?」 17

2013-08-25 01:59:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「タノシイ!タノシイネェー!」ある種のニューロン伝達で分泌される脳内麻薬物質により、リー先生は震えて歓喜した!「エヘム……!よろしい、では私の偉大なる研究成果を教えましょう……答えは……ハイ!ハイですよ!これはスゴイ!ニンジャソウル憑依者もやはり子孫を残すこと不可能ーッ!」 18

2013-08-25 02:09:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それは確実か?」女ニンジャが問う。「……生物学的に証明したか?あるいは事例……サンプルが発見できていないだけか?」「ヒーッ!何と現代的な科学思考を持ち合わせている!き、君!大変危険で魅力的な知性だ!危険すぎ!死んでしまう!」リー先生は携帯酸素ガス吸入を行って呼吸を整えた。 19

2013-08-25 02:20:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私を甘く見るな、私を誰だと思っている」ユカノは静かに言った。その表情をサングラスで覆い隠したまま。「私はドラゴン・ニンジャだ。お前は知っていよう。私がハラキリ・リチュアルを考案し、ニンジャソウルの保存を試みたのだと」「ヒーッ!ダメ!危険すぎる!」リー先生は痙攣を起こす! 20

2013-08-25 02:29:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヒィーッ!ヒィーッ!確証!確証は得られた!君を私のラボに案内する!そこでインタビューを続けようネェ!」リー先生は息を整えながら言う。「それがいい」ユカノは残ったカクテルを奥ゆかしく飲み干した。ホールではサイバーゴスたちが何事も無かったかのように反復ダンスを再開していた。 21

2013-08-25 02:39:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ホワット・ア・ホリブル・ナイト・トゥ・ハヴ・ア・カラテ】#1終わり #2へ続く

2013-08-25 02:39:50