ノーホーマー・ノーサヴァイヴ #2
(あらすじ:深夜のオニタマゴ球場で、過酷極まる秘密試合が開催されていた。一回表。守備側は野球ニンジャのサブスティテュートを筆頭とするアマクダリセクトのサイボーグヤクザ野球軍。攻撃側は……我らがニンジャスレイヤー。チームは彼ただ一人!圧倒的人数差である)
2013-08-28 18:42:40(ここで、野球というスポーツについて、稚拙ながら説明したい。まず◇を書く。それぞれの頂点部が、下から反時計回りに、ホーム、一塁、二塁、三塁だ。ホームのバッターボックスに攻撃側のバッターが立つ。そして、◇の中心あたりにいるピッチャーの投げる球をバットで打つ)
2013-08-28 18:49:06(ボールを正しく打ったバッターは、塁を1.2.3……と走って進む。進む際はオモチめいたベースを踏まねばならない。ホームへ帰れば1点入る。ボールを持った守備者に触れられればアウトとなり、排除される。アウトにされないように点を沢山取るのがコツだ)
2013-08-28 18:57:17(ストライクを3つ取られるとアウトとなり排除される。バウンドしないボールを守備者にキャッチされてもアウトだ。排除される。排除されてはならない。我々にとって謎めいているのがファールの考え方である。◇の左右外側に打球がいってしまうとファールだ。これはストライクを取られたのと同じ事だ)
2013-08-28 19:03:43(しかし、ファールではアウトにならない。何回ファールしてもアウトにはならない。首の皮一枚が繋がった状態だ。これは覚えておく価値があろう。私にできるルール解説はこれで全てである。さて、今回、ニンジャスレイヤーは一人だ。野球は通常、9人で行うスポーツだ。ここに何が起こるか?)
2013-08-28 19:11:14(ニンジャスレイヤーが守備側に回ればどうなる?ピッチャーとなっても、キャッチャーがいない。即ちスリーアウトチェンジで自動敗北。さりとて出塁もまた敗北。塁に出ては、バッターがいないからだ。つまり、ゲームを続けるためには常に本塁打を出し続けねばならないという事だ。)
2013-08-28 19:20:49(緊迫したイクサを前に、所詮第三者に過ぎない翻訳チームがこうして長々と話していてはいけない。後は皆さんの手で、本編を通して理解していただきたい。約束だ。)
2013-08-28 19:22:13◆ニンジャスレイヤーは呼吸を整えボードを眺める。長い戦いとなろう。スリーアウトで敗北。さりとて出塁もまた敗北。許されるのは本塁打のみだ。それによってこの一回表で128点を取り、UNIX計算システムに極度負荷を与えて爆発させ、以てコールドゲームとするしかない。◆
2013-08-28 19:25:25◆どこからともなく球場スタッフがグラウンドに現れ、二塁手ヤクザの死体をストレッチャーに載せて去ってゆく。ベンチからはこれに合わせてサイボーグヤクザが一人補充され、セカンドのポジションへ小走りに向かって行く。ニンジャスレイヤーはバットを構えながら、事の発端へ思いを馳せる……。◆
2013-08-28 19:26:50……とあるニンジャを殺害したニンジャスレイヤーのもとに、白装束姿のクローンヤクザが現れたのは、五時間前の事だ。白装束ヤクザはニンジャスレイヤーに不吉な黒のオリガミ・メールを差し出し、その場でセプクした。 1
2013-08-28 19:30:40オリガミを開いたニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。アマクダリ・セクトのエンブレム。そして「果たし状」「オニタマゴ・スタジアム、ウシミツアワー本日」とショドーされていた。更にオリガミにはもう一枚、カーボン紙が挟まれていた。内容を確かめたニンジャスレイヤーは、思わず息を呑んだ。2
2013-08-28 19:36:37それは、ニンジャスレイヤー自身の筆による誓約書の写しであった!しかもハンコまで捺されているのだ。一体誰がこんな偽装を!?ナンシー・リーが憤慨したのももっともである。だが、残念ながら、ニンジャスレイヤーには心当たりがあった。 3
2013-08-28 19:41:19その文書とハンコのおおもとは、かつてザイバツ・シャドーギルドとのイクサを終えてそう時を経ぬ頃……己を顧みることのなかった彼が、なかば捨て鉢に書き捨てた身請けの文書であった。借金の肩代わりだ。 4
2013-08-28 20:04:10金貸しの名はクルエル。ニンジャである。道端ですれ違ったサラリマン役員に難癖をつけて監禁・殺害したうえ、その家族に無理やり借金をさせ、搾り取っていた。ニンジャスレイヤーはこの哀れな家族の全借金を肩代わりし、債権者であるクルエルを残虐な逆さ吊りで殺害。債権放棄させたのだ。5
2013-08-28 20:12:03借用文書は全て焼き捨てた筈だ。その筈であった。しかし、筆跡とハンコのデータがバックアップされていたものだろうか。ニンジャスレイヤー自身にも、当時のウカツでデスパレートな己を信じ切る事ができなかった。現に、その文書を利用したと思しき新たな捺印誓約書が、こうして突きつけられている。6
2013-08-28 20:18:23「今夜ウシミツ・アワー。オニタマゴ・スタジアムでの野球試合に、私ニンジャスレイヤーは単独で参加します。敗北時、あるいは試合に参加できない場合、スタジアム内でドゲザしたのち、セプクを行います。試合終了時、私の死亡時、この誓約書は拘束力を失います」内容は概ねそんなところだ。 7
2013-08-28 20:29:57狡猾な内容であった。すぐさまセプクを強いるものであれば反故にもできよう。だが、ギリギリのところでこの契約は妥当性を持ち、成立してしまっている。弁護士が関わっているに違いない。この国は契約と名誉の社会だ。これを反故にすれば、ニンジャスレイヤーは名誉を失う。永遠にだ。 8
2013-08-28 20:32:49誰がこの偽造を行ったのか……ニンジャスレイヤーはバットを構え、サブスティテュートを見据える。奴ではあるまい。ましてや、このフォートレスでもなかろう。この者らは戦士だ。偽造を行った本体を突き止めねばならぬ。しかしそれは後だ。今はこの者らが仕組んだこのゲームに勝ち、生き残るのだ! 9
2013-08-28 20:41:44「フフフ……後悔と死の恐怖で貴様のニューロンははち切れんばかりだろう」フォートレスが囁いた。「だが時すでに遅しよ……俺たちは殺し合いのカラテでは残念ながら貴様に遅れをとろう。ベイン・オブ・ソウカイ・シンジケート。ネオサイタマの死神よ。俺はサンシタどもと違って詳しいからな……」10
2013-08-28 20:46:14「イヤーッ!」サブスティテュートが投げた!砂塵が渦巻き、螺旋を描く高速投球が襲いかかる!「イヤーッ!」ガキイン!ニンジャスレイヤーは打ち上げた!斜め後ろ上方!フォートレスはフェイスガードを引き上げ振り返る。だが追わなかった。明らかなファール、グラウンド外であると見極めたのだ。11
2013-08-28 20:50:47「ファウルボール!」アマクダリ審判が叫んだ。「打てまい……まっすぐ打てまい。エエッ?いつまで続くかな、ニンジャスレイヤー=サン」フォートレスが笑う。「さっきのまぐれ当たりをいつまで期待できるかな?」「……」 12
2013-08-28 20:53:52「この試合セッティングはサブスティテュート=サンと俺にとって天啓よ……カラテのワザマエで勝てぬキンボシを、圧倒的なスポーツマンシップで、何もできぬままに潰して殺す……これぞフーリンカザンよ……!悔しいか?お前は野球で死ぬのだ!カラテではなく!スポーツで!」「これはイクサだ」 13
2013-08-28 20:58:25「ほざくがいい!」「イヤーッ!」サブスティテュートが投げた!「イヤーッ!」ガキイン!またしても斜め後ろに飛ぶ打球!「ファウルボール!」「……」フォートレスの目がドロリと濁った。「オイオイ……舐めるなよ。サブスティテュート=サンの消耗を待とうってのか?」彼はやおら立ち上がった。14
2013-08-28 21:02:45直立したフォートレスのビッグニンジャならではの巨体は、岩山めいて恐ろしい!彼は右手キャッチャーミットを高く斜め上に掲げた。「グフフ……わかるか、この意味が」「……!」ニンジャスレイヤーは眉間に皺寄せる。フォートレスは侮蔑的に見下ろした。「わかったようだな」 15
2013-08-28 21:11:35