グッド・タイムズ・アー・ソー・ハード・トゥ・ファインド #1

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スミマセン。仰る意味がわかりませんね」温厚無害な笑みを張り付かせた紳士は微かに首を傾げて見せた。「アー……」後ろで手を組み、書棚の前を所在無さげにゆっくり歩きながら、長身白髪の男は続く言葉を探しているようだった。 1

2013-09-15 18:33:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まあなんだ。そういう無駄な遣り取りはナシにしようや、校長殿。確証無しにこんな話はしねえよ」紳士は卓上で革手袋に覆われた手を組み、眉根を寄せる。「確かに酷く困惑させられるお話で、恐怖を覚えます。私は責任ある立場です。彼女らは未来のネオサイタマを背負って立つ天使達だ。それが……」2

2013-09-15 18:41:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なあ。やめにしようや」男は強い調子で遮った。足を止め、校長を振り返る。感情を抑えている。校長は彼の凝視を悲しげな溜息とともに受け止める。「貴方がクライアントから受けた依頼は、あくまで彼女の件でありましょう?一方、今貴方がされている唐突かつ荒唐無稽な憶測、」「やめに。しようや」3

2013-09-15 18:58:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ンッ。フッ!」校長は肩を震わせた。「ンッフッフッフッフッフーン……」それは笑いだった。「その姿勢、プロフェッショナルのそれとは違いますなあ。ゴミを漁らねば鳥撃ちに撃たれる事もない!よからぬ寄り道は貴方のクライアントにも失望をもたらしましょうなあ!」 4

2013-09-15 19:09:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その瞬間、男のコートの袖の中からディリンジャーがスライドし、それぞれの手に握られていた。男は校長に2丁のディリンジャーを向けた。「イヤーッ!」校長は黒檀の机を片手で跳ね上げた!なんたる腕力……まるでニンジャだ! 5

2013-09-15 19:14:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

BBLAMNN!銃撃は一瞬遅く、机に遮られることになった。男はディリンジャーを素早く捨てると、主武器である49口径マグナムをホルスターから引き抜き、両腕をクロスさせる独特の構えをとる。ピストル・カラテ!「イヤーッ!」校長は回し蹴りを繰り出し、男に机を叩きつけんとす! 6

2013-09-15 19:16:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

BLAM!男は左手のマグナムを横に撃ち、その勢いで回転しながら身を沈め、飛来した黒檀の机をスレスレにかわした。一瞬後、彼は右手銃を校長に向け、発砲した。BLAM!「イヤーッ!」校長は流麗なブリッジで銃弾を回避!背後の壁にかかった「不如帰」のショドーが破砕! 7

2013-09-15 19:20:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブリッジからバック転を繰り出し、広い部屋の端まで飛び下がった校長の顔には、おお、ナムサン……禍々しいメンポが装着されていた。ネクタイを外し、スーツの上着を丁寧に壁のハンガーにかけると、そこにはダークグリーン装束のニンジャが立っていた。「ドーモ。ファフニールです」 8

2013-09-15 19:38:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

先手を打ってオジギした恐るべきニンジャ存在に対し、男は怯まずオジギを返した。なぜなら彼もまたニンジャだからだ!オジギから顔を上げた白髪男の顔にはカラスじみた色の覆面マフラーが巻かれていた。その色は、額に刻まれた黒い渦めいた傷跡と同じ色である。「……ドーモ。ディテクティヴです」9

2013-09-15 19:48:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャに嗅ぎ回られるのはあまり良い気分とは言えません」ファフニールは埃を払う仕草をしたのち、カラテを構えた。周囲の空気がじわりと陽炎めいて滲んだように見える。「さて……貴方は実際、どうするおつもりですかな?罪の証拠を叩きつけていい気になれば……それで物事が解決するとでも」10

2013-09-15 20:02:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「実にその……ものぐさなモータルの悪癖と思いませんかな?議論に勝てばそれで相手を黙らせ、以て事態を打開できると考えてしまう……こんな愚かな勘違いはない。真実とは即ち、恐怖と権力です」「現実的だなァ。結構だ」ディテクティヴは言った。「生徒にもそうやって教えてンのかい」11

2013-09-15 20:08:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「彼女らは芸術品だ。利発で、正義感と、希望に溢れている……フクククク」ファフニールの邪悪な瞳が細まった。「競争を経てモノになるのは一握り。しかし私は落伍者達にもそれなりの価値を付与してあげているわけだ」「ベラベラと喋ってンのは自信のあらわれってわけか?」「貴方は油断が過ぎる」12

2013-09-15 20:20:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「暖かい気遣いだな」二者の会話は張り詰めた糸のような危うい緊張の上で行われている。攻撃の糸口を見出し次第、お互い即座にカラテを仕掛けるのだ。「貴方はたった一人で私を追い詰めにかかった!密室で!尤も、この学園の人間は全て私を庇うでしょう。私には地位と名誉があり、貴方は野良犬だ」13

2013-09-15 20:31:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「悪い。聞いてなかった」ディテクティヴのサイバネアイにボンボリ光が反射。「あのな、俺はな。怒ってるぜ」「私は面倒だと感じています」「イヤーッ!」ディテクティヴが仕掛けた。ファフニールが応じた。BLAM、BLAM、BLAM。ピストルカラテのムーブのたび、校長室の調度が吹き飛ぶ。14

2013-09-15 20:45:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」ディテクティヴの大振りのハイキックを、ファフニールは身を沈めて躱す。ファフニールはチョップ突きを構える。大技の隙を突き、脇腹を貫く構えだ。だがディテクティヴにはもう一手ある。彼は蹴りを繰り出しながらマグナムを斜めに撃った。巨体が反動でさらに回転した。15

2013-09-15 20:51:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何」ファフニールが片眉を上げた。直後、側頭部に恐るべき速度の左肘打ちが叩き込まれていた。「グワーッ!」ファフニールの首が衝撃で150度回転した。ディテクティヴは右手のマグナムを既に構えており、左脇の下越しにファフニールの心臓を狙い、残る全弾を撃ち込んだ! 16

2013-09-15 20:54:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

糸の切れたジョルリ人形めいて、ファフニールはぎこちなく後退した。胸に空いた大穴を見下ろし、呻いた。「アバーッハッハッ、ハー……ハハハ」白目を剥いていたファフニールはにわかに焦点を取り戻し、侮蔑的にディテクティヴを見返す。ディテクティヴは左手のマグナムを構えた。「イヤーッ!」17

2013-09-15 21:00:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

BLAM!ディテクティヴの銃弾がファフニールの額を貫く事はなかった。ファフニールの右手は一瞬早くディテクティヴの左手を掴み、狙いをそらしていた。ファフニールは関節の逆方向に捻じった。「グワーッ!」ディテクティヴは呻き、右のマグナムに……「イヤーッ!」「グワーッ!」 18

2013-09-15 21:02:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ファフニールの拳がディテクティヴの頬骨を一瞬早く捉えていた。ディテクティヴは怯んだ。ファフニールな更に拳を振り上げた。ディテクティヴはマグナムを持った右手を差し上げ、額を庇った。ファフニールは邪悪な愉悦に瞳を赤く光らせた。がら空きの肋に強烈な蹴りが突き刺さった。 19

2013-09-15 21:09:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「グワーッ!」ディテクティヴが床に沈む。ファフニールは踵を振り上げる。カイシャクだ。ディテクティヴは横へ転がり、ストンピングを躱す。身を起こそうとする。「イヤーッ!」ファフニールは背中に蹴りを叩き込む。「グワーッ!」KRAASH!ベランダ窓が破砕、転がり出る。「イヤーッ!」20

2013-09-15 21:13:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「グワーッ!」ファフニールは長身のディテクティヴをズダ袋めいてベランダから蹴り出した。校長室は二階。空は夜。外は雨。ディテクティヴは大の字になり、下の地面に叩きつけられる。一方のファフニールはひらりとベランダから飛び降り、優雅に着地した。 21

2013-09-15 21:23:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「死は甘美。恐れる事はない。誰かがそう言った。私はそうは思いませんが」ファフニールは死にゆくディテクティヴを見下ろし、呟いた。「そこそこ場数を踏んで来たニンジャ。カラテに自信もあった事でしょう。残念ながらセンシの誰もが英雄的に死ねるとは限らない。不注意、ウカツ、力不足……」22

2013-09-15 21:30:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オイオイ……マジか」ディテクティヴの言葉は音にならなかった。「……参ったぜ……」彼は再度のカイシャク動作を取るファフニールの肩越し、ぬるい重金属酸性雨を降らせる空を見上げた。雨雲の僅かな切れ目に月が顔を出し、ドクロ模様は敗者を嘲笑った。「インガオホー」 23

2013-09-15 21:34:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【グッド・タイムズ・アー・ソー・ハード・トゥ・ファインド】#1

2013-09-15 21:34:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キカ・ヤナエは眠っていなかった。アザ(服の上からは見えない箇所だ)が痛んで発熱している事もある。雨の音がいやに耳に障る事もある。しかしそれらとは別の、言葉にしづらい、アトモスフィアと言う他ない何かが、彼女を眠りに逃がさなかった。 24

2013-09-15 21:41:10