一発の放射線 防護を求める個人の権利は最大限守らねばならない。

社会の都合で個人に浴びせてしまっている以上,防護を求める個人の権利は最大限守らねばならない。
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林 衛 @SciCom_hayashi

https://t.co/MV37rYlY4y とか https://t.co/qqYvCHQtYN といった, 歴史的経緯をおさえず,簡単にものごとを考えている人もいるようです。 そこで,私の調査結果,理解にもとづく,考察を改めて述べておきましょう。

2013-09-24 21:17:15
林 衛 @SciCom_hayashi

1)以前にも海法さんとやりとりがあった,肥田医師が心配する被曝初期症状としての鼻血の可能性について。これを考えるためには,しきい値とは何かをまず確認する必要がある。確定的影響とは線量が増えると誰もに症状がでるという概念。そのしきい値は,例えば5割の発症率で決めている。

2013-09-24 21:21:59
林 衛 @SciCom_hayashi

2)つまり,そのしきい値の値を越えたら誰にでも症状のでる可能性が高いのだが,しきい値以下だとしても発症がゼロになるわけではない。何らかの別の要因が関係し,感受性が高い場合に,しきい値以下で発症があるのを,確定的影響という概念は否定していないのだ。これ,重要なポイント。

2013-09-24 21:24:54
林 衛 @SciCom_hayashi

3)軽微な症状ほど,ほかにいろいろな原因のある症状ほど,医師が確実に網羅して診断するのはむずかしい。鼻血はその症状にあたる。肥田医師は,被爆者を長年支援,診察してきた経験から,より深刻な脱毛や血液の病気が生じる前段階に鼻血が生じているらしいということに気づいた。

2013-09-24 21:27:55
林 衛 @SciCom_hayashi

4)そして,鼻血どころかより深刻なさまざまな被曝影響に関する被爆者の訴えがあり,肥田氏らが被爆者の立場にたって,診断,支援をしたきたのだが,それら被害はなかなか認められなかったり,認められるのに時間がかかったのだ。例えば,遺伝的影響がは両親被曝白血病についてのみ最近有意とされた。

2013-09-24 21:31:42
林 衛 @SciCom_hayashi

5)さまざまな原因がありうる鼻血の原因を放射能汚染だけに求めるのだとしたら,それは非科学的な態度だろう。一方,被曝に弱い粘膜から異常が先行して始まる可能性は考えられ,かつ広島・長崎の被爆者の証言もあるのだから,鼻血の原因として放射能汚染を追究対象にするのは科学的な態度だといえる。

2013-09-24 21:36:15
林 衛 @SciCom_hayashi

6)以上から,肥田医師がデマを飛ばしているなど決めつけるのはナンセンスであり,非科学的な態度だといえる。こういう問題についてYesかNoで答えるのは,しきい値概念や歴史的経緯をおさえていない人たちにまたもやよけいな混乱を招きかねない。挙証責任にかんがみ6ツイートでの説明を試みた。

2013-09-24 21:40:39
林 衛 @SciCom_hayashi

7)「一発の放射線」にこだわるな,と強いことばでいう人ほど,この表現へのなんらかのこだわりが強いようだ。そこで,どうこだわるべきなのか,整理しておこう。放射線が発見されたのはおよそ100年前。そのころは,不思議さ,便利さに注目が集まり,危なさへの注意は遅れた。

2013-09-24 21:44:11
林 衛 @SciCom_hayashi

8)放射線の害はないか,あるいはあったとしても少しであるとして,夫や弟子たちがつぎつぎ倒れていったにもかかわらず,放射線の害の深刻さ生涯認めなかったマリー・キュリーの悲惨なエピソードは有名である。

2013-09-24 21:46:31
林 衛 @SciCom_hayashi

9)やがてマリー・キュリーは死に,原子力大国フランスほか各国で生じた放射線被害から,放射線の規制値は徐々に下げられていくとなった。どこまで下げたらよいのか。しきい値はあるのか。実験遺伝学の進んでいたショウジョウバエへの放射線照射実験から,しきい値はみいだせないとの主張がされた。

2013-09-24 21:53:04
林 衛 @SciCom_hayashi

10)しきい値がないと,原子力・核開発を進めるのはたいへん困る。そこで,でてきたのが,例えば,交通事故のリスクは我慢しているのだから,それと同程度の被曝ならば我慢してもらってもよいのだというリスク・ベネフィット論であり,計算が詳細になったコスト・ベネフィット論である。

2013-09-24 21:57:09
林 衛 @SciCom_hayashi

11)リスク・ベネフィット論,コスト・ベネフィット論を正当化するのは,「最大多数の最大幸福」を旨とする功利主義的な倫理観である。しかし,社会全体の幸せのためには少数の犠牲ややむなしとする功利主義では,人権意識が進んだ社会では原子力・核開発が正当化できなくってきていた。

2013-09-24 21:59:29
林 衛 @SciCom_hayashi

12)しきい値なしという実験結果を批判,じつはしきい値があるのだという立場からの反論もされた。遺伝子修復酵素の研究の進展は,その手段の一つを提供した。いっぽう,細胞生物学的な研究も進みしきい値ありを示す研究も増えてきた。現在,疫学と実験両方からしきい値なしが科学的に有力である。

2013-09-24 22:06:37
林 衛 @SciCom_hayashi

13)ICRPもその源流となる科学的レビューを提供している国連科学委員会も,そのまた源流ともいえる米国科学アカデミーBEIR委員会も,直線しきい値なしが科学的にもっとも有力としている。 http://t.co/wuF1U9BYmb の日本語訳を読むと判断理由がよくわかるだろう。

2013-09-24 22:11:58
林 衛 @SciCom_hayashi

14)日本の原子力安全委員会(現:規制委員会)もその立場。 「低線量放射線リスクの科学的基盤」(原子力安全委員会低線量放射線影響分科会) http://t.co/tma9GjSAy4 にその記述あり(何日か前の「放射線審議会」は記憶ちがいでした)。

2013-09-24 22:17:44
林 衛 @SciCom_hayashi

15)LNT仮説が正当化される理由の一つとして「量子としての電離放射線を考えると、如何なる低い線量においても損傷が一定の確率で生成される。たとえば、光子の相互作用から生じた1つの電子トラックが二重鎖切断やより複雑なクラスター化されたDNA損傷を引き起こしうることを飛跡構造計算は」

2013-09-24 22:21:14
林 衛 @SciCom_hayashi

16)このように日本,アメリカ,ICRP,国連科学委員会に共通するしきい値なしの根拠を表現し直したのが,「1発の放射線にもリスクあり」である。LNT,しきい値なしに科学的根拠があるのがますます有力になった結果は,従来までの功利主義的な倫理観により強い反省を求めることになった。

2013-09-24 22:26:02
林 衛 @SciCom_hayashi

17)そこで2000年当時のICRPクラーク委員長が,最大でも年0.3mSv以下に,無視できるのは(他の化学物質の実質的安全量と同等の)年10から20μSv,功利主義を反省し安全を求める一人一人の権利を尊重する義務論的倫理観への転換が必要と説き,1990年勧告改訂作業が始まった。

2013-09-24 22:29:33
林 衛 @SciCom_hayashi

18)2012年秋のSTS学会WS(原発リスクコミュニケーション失敗続きの原因:http://t.co/10TlH3sIOuに予稿・発表・配付資料あり)でも,「1発の放射線…」は,科学的問題ではなく道義的問題を問う表現ではないか,との指摘を受けたが,両方に根拠を与える事実なのだ。

2013-09-24 22:33:59
林 衛 @SciCom_hayashi

19)つまり,ミクロにはしきい値なしの科学的根拠を与え,マクロには功利主義,コスト・ベネフィット論への反省の根拠を与えているのが,「1発の放射線…」なのだ。したがって,功利主義の立場から少数の犠牲(弱い表現ならがまん)はやむなしとしている人からの非難が続く理由はこれで説明できる。

2013-09-24 22:39:04
林 衛 @SciCom_hayashi

20)感染症研究と比較してみてほしい。最低感染量,蓄積感染量に相当するのが「1発」である可能性がある放射線のやっかいさが,実感できるだろう。それを,社会の都合で個人に浴びせてしまっている以上,防護を求める個人の権利は最大限守らねばならない。(おしまい)

2013-09-24 22:41:46