鎮守府昔話 「かわいそうな軽巡」

ブラック鎮守府を脱走した五十鈴改と那珂ちゃん。 果たして彼女たちは無事に脱出できるのか!?
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CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

昔々ある鎮守府に、五十鈴という軽巡洋艦がおったそうな。五十鈴は水雷戦隊を率いて毎日毎日、朝早くから遠征に出ては提督の元へ物資を運んでいました。赤城や扶桑、大型艦のために燃料やボーキサイトを運ぶのです。そんなある日、五十鈴は執務室に呼び出されました。

2013-09-25 22:43:44
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「五十鈴、これまで働いてきてありがとう」いつになく提督は機嫌が良い様子で五十鈴にお茶を出してくれました。「君もこれまでよく働いてくれた。経験も豊富だし、君が望むなら改造してやることもできる。改造を受けるかい?」「やったわ!」五十鈴は嬉しそうに頷きました。

2013-09-25 22:44:39
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「五十鈴」「ふぁ……提督」五十鈴が目を覚ますと、提督はにっこりと笑いかけました。「改造は?」「終わったよ」五十鈴が装備を見てみると「21号対空電探」が装備されているではありませんか。「近代化改修、助かるわ。もっと働ける!」五十鈴が起き上がろうとしたその時、提督の顔が変わりました。

2013-09-25 22:46:41
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「お前は用済みだ」「え? ……どういうこと?」うろたえる五十鈴から提督は「21号対空電探」と「酸素魚雷」を取り外すと、「21号対空電探」を扶桑に、「酸素魚雷」を島風に渡しました。「さっさとどっか行っちまえ!」「やだ、痛いじゃない!」泣きながら五十鈴は工廠から逃げ出しました。

2013-09-25 22:48:19
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「はぁ、はぁ……」五十鈴が放棄されたドックの裏に逃げ込むと、そこにはもう一人艦娘が居ました。「あなたもここに来たんだ」そこに居たのは「元」艦隊のアイドル、五十鈴と同じ軽巡洋艦の那珂でした。「あれ? 電探は? そっか、取られちゃったんだ。私と同じだね」

2013-09-25 22:50:14
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

よく見ると那珂の14cm砲は取り外され、取ってつけたような12.7cm連装砲がちょこんと乗っていました。「ひどいよね、提督。私も解体されたくないから逃げてきたの。燃料のむ?」五十鈴はそこで初めて喉がカラカラに乾いていることに気づきました。「飲む!」「ちょっと質は悪いけど、飲んで」

2013-09-25 22:52:51
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

松根油入りの燃料を飲み終わると、五十鈴は「やはり逃げるしかないわね」と切り出しました。「え、でも……脱走は銃殺刑だって」那珂は乗り気ではありません。「バラされるのと、生き残るの、どっちがいいか考えれば分かるでしょう?」「か、解体……」那珂の顔からすぅっと血の気が引いていきました。

2013-09-25 22:54:34
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「ね、燃料2弾薬4鋼材11……燃料2弾薬4鋼材11……」那珂はがくがくと震え始めました「解体は、嫌ぁ!」「なら、やることは一つね、続いて!」こうして、五十鈴と那珂のブラック鎮守府からの脱出が始まりました。「あなた、武器はそれだけ?」12.7cm連装砲を見て那珂は頷きました。

2013-09-25 22:57:25
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「私もこれだけ」五十鈴は唯一残った高角砲を構えました。「ここから一番近いラバウルまで1000キロ、いるのは多分駆逐艦……」五十鈴は高角砲に弾を込めながら鎮守府周辺の地図を思いうかべます。「よし、燃料はギリギリだけど、いける! 行くわよ!」夜闇に乗じて、二隻は母港を逃げ出しました。

2013-09-25 23:03:18
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

夜明けと共に現われたのは、南太平洋の焼けつくような日差しと、深海棲艦でした。「那珂、右から来てる!」駆逐ロ級を高角砲を撃ち込んで中破させた五十鈴が必死に応戦する那珂の背中を守ります。「あと、もう少し……」「きゃあっ、顔はやめて……」「那珂!」軽巡ホ級の砲撃が那珂の頬をかすめました

2013-09-25 23:08:32
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「那珂、しっかりして! あともう少しでラバウルでしょ!」「こんなになっても、那珂ちゃんは絶対、路線変更しないんだから!」那珂は強がりますが、みるみるうちに速度が落ちていきます。「うそ……」そんな中、聞きなれない音に空を見上げた五十鈴は信じられないものを見ました。

2013-09-25 23:10:56
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「敵、艦載機……」対空戦のできるのは五十鈴だけです。那珂を見捨てれば自分だけは助かるかもしれない。五十鈴はそう思いました。「ごめん、那珂ちゃん、もうだめかも……」那珂はあちこちから黒煙を吹き上げ、舵がやられたのかジグザグと不規則に左右に揺れ始めます。「しっかりしなさい!」

2013-09-25 23:13:25
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「私と一緒にラバウルまで行くのよ!」那珂を叱責し、五十鈴は高角砲を自分と那珂を守るように構えました。「さぁ、かかってきなさい!」一機、二機……次々に襲い来る敵機を撃ち落としながら、五十鈴は必死に左右に敵弾を回避します。水柱が何度も五十鈴の顔を濡らしました。

2013-09-25 23:16:33
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「そんな!」高角砲の弾が切れたのは、五十鈴が十一発目の至近弾を避けた時でした。頭上を飛び回っていた敵機が無防備になった五十鈴に襲いかかろうとくるりと空中で向きを変えました。「そっか……こんなところで、私、沈むんだ。ごめん那珂、守れなくて」五十鈴は小さな声で謝りました。

2013-09-25 23:20:46
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

その時です、チカチカとなにか眩しい物が頭上を通り過ぎ、次々に敵艦載機が空中で爆発し始めました。「え? 味方……機?」敵機を撃墜したのは、紛れも無く味方の零戦でした。真っ赤な日の丸を輝かせながら零戦は逃げる敵機を追い詰めていき、瞬く間に五十鈴の上空から敵機はいなくなりました。

2013-09-25 23:24:21
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

ヒュルヒュルと、大口径砲弾が五十鈴の頭上を飛び越えていきます。「榛名?」榛名と日向の放った35.6センチ砲弾が那珂に魚雷を撃ち込もうとした軽巡ト級を一撃で大破させました。 「あれは……!」敵弾を避けるのに必死だった那珂も、味方艦隊から突撃してくる旗艦に気づきました。

2013-09-25 23:27:52
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

チカチカと味方艦から発光信号が送られ、那珂の顔がぱっと明るくなりました。「コチラ、ラバウル基地所属、第二水雷戦隊旗艦、軽巡洋艦『神通』」「お姉ちゃん!」那珂の機関に、再び力がこもりました。那珂は波を蹴立て、追いすがる重巡リ級をぐんぐんと引き離していきます。

2013-09-25 23:31:02
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

ラバウル艦隊の加賀から飛び立った艦爆隊が深海棲艦を牽制し、榛名と日向が砲撃で仕留めていきます。ラバウル艦隊のいる方へ向かいながら、五十鈴はその素晴らしい連携攻撃に見とれていました。神通に護衛された那珂がラバウル艦隊に合流したとき、深海棲艦は一隻も残っていませんでした。

2013-09-25 23:35:09
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「なるほど、そういう事だったのか。よくもまぁ軽巡二隻だけであの海域を突破できたものだ」ラバウル基地の提督は応急修理を終えた五十鈴と那珂から事のいきさつを聞くと感心した様子で頷きました。「わかった。その提督のことは上に進言しておく。さて、君たちの処遇だが――」

2013-09-25 23:40:12
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

「水雷戦隊の旗艦と、空母を敵機から守る防空巡洋艦が必要でね。やってくれるか?」「お仕事ですね!」「五十鈴に任せて」こうしてホワイト鎮守府のラバウル基地所属になった二隻は、いつまでも幸せに暮らしたとさ。めでたしめでたし。 #鎮守府昔話 「かわいそうな軽巡」 おわり

2013-09-25 23:42:26
CK/旧七式敢行 @CK_Ariaze

那珂ちゃん遠征中につき。さっきのお迎え艦隊組んでみた http://t.co/ZPN5MOLnxl

2013-09-25 23:57:34
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