高レベル放射性廃棄物の地層処分には、実際のところどれだけリスクがあるのか

仮に今すぐ脱原発するとしても、避けては通れない放射性廃棄物の最終処分。その手段として世界中で採用されている「地層処分」について、今更ながら昔のツイートを掘り返してきてまとめてみました。
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Flying Zebra @f_zebra

原子力学会で、自分の専門領域とは関係ないけど興味があったので空いた時間にバックエンド(廃棄物、廃止処置など「静脈」側の技術)のセッションに出てみました。技術的な部分も勉強になりましたが、それ以上に社会科学的な問題について考えさせられました。まとめ切れていませんが、紹介します。

2012-09-21 00:04:16

まずは一般論として、文明の発展にともなって社会の分業化が進んだ結果、「リスクの分担」やそれに対する意識がどのように変遷してきたかという話題。

Flying Zebra @f_zebra

人間の社会が狩猟採取時代の小規模な集団から都市文明に発展する過程で、作業の分業化、専門化が進みました。現代の高度に分業化された社会では、自分で家を建てられなくても、魚の捕り方や野菜の作り方を知らなくても、何不自由なく暮らしていけます。

2012-09-21 00:05:35
Flying Zebra @f_zebra

分業化により、かつては個々人が背負っていた様々なリスクは意識することがなくなり、サービスを受ける際に僅かに付随する副作用的なリスクばかりが目につくようになります。サービス(技術)の目的がより大きなリスクを避けることであっても、新たにもたらされる小さなリスクの方が目につくのです。

2012-09-21 00:06:41
Flying Zebra @f_zebra

公共的サービスの場合、便益は社会全体に分配されるので個人は意識できません。一方、リスクは限られた一部の者だけが負担する場合が多くなります。高速道路、ごみ処理施設、発電所など。こうした不公平感が、賛成だけど not in my backyardとなるのでしょう。

2012-09-21 00:07:19

NIMBY = Not In My Backyard とは、例えばゴミ処理施設のように、自分を含む社会にとって必要な事は分かっているから建設には賛成、ただし自分の家の裏庭に建設することには反対といった態度のこと。部外者からすれば「地域エゴ」と批判するのは簡単だけど、自分が当事者になれば多くの人がこうした態度を取ってしまうだろう。

続いて、ではそうした利害の調整はどうしたらよいかということで、欧州での例をご紹介。

Flying Zebra @f_zebra

ではどうすれば良いか。欧米では色々研究され、レポートも出ているようです。実際に実践されて良い結果を出しているヨーロッパでの取り組みは参考になりそうです。つまり、地元住民などの利害関係者を積極的に意思決定に参加させる仕組みです。

2012-09-21 00:08:13
Flying Zebra @f_zebra

偉い先生や専門家が「我々が検討した結果、心配はありません。受け入れて下さい」と言ってもおいそれと受け入れられるものでもありません。既知のリスクと不確実な部分を包み隠さず示し、メリットを含め総合的に判断できる材料が提供されなければなりません。

2012-09-21 00:08:39
Flying Zebra @f_zebra

その上で、何より重要なのは最終的な意思決定に住民が関わり、プロジェクトが動き始めた後も不安が生じた場合は止める、あるいは後戻りする権利を持つことです。将来の世代にもその権利が保障されて初めて、自身と誇りを持って受け入れられるのではないでしょうか。

2012-09-21 00:09:30

ただの迷惑施設と思われているものにも、実は「メリット」もあったりします。

Flying Zebra @f_zebra

ちなみに、「メリット」についても考えておきましょう。地質学的変化については数万年、工学的な人工バリアについては不確実性はありますが数百年程度の時間スケールで予測が可能ですが、当該地域の人間活動は100年後ですらほとんど予測不可能です。

2012-09-21 00:09:42
Flying Zebra @f_zebra

ある地域が数百年後に人が住めなくなっている場合、その原因は天災などの自然現象や人為的な事故等である可能性より、その他の社会的要因によって人口が社会を維持できる限界を割り込んだ結果である可能性の方がずっと高いでしょう。「可能性」は「事例」に置き換えると納得しやすいかも知れません。

2012-09-21 00:10:16
Flying Zebra @f_zebra

それを考えれば、地域にとってだけでなく、国全体にとって放置するわけにはいかない施設を持っているというのは地域社会の生存性という点では有利に働きます。雇用や消費が継続的に維持されるというのも大きな利点です。

2012-09-21 00:10:37
Flying Zebra @f_zebra

建設時にしか経済に貢献しない、あからさまな選挙対策の無駄に立派な道路や集会所なんかより、よほど実利があります。リスクが(ゼロでなくても)十分に低ければ、そうした施設の受け入れは将来世代への責任を考えても合理的な選択となり得ます。

2012-09-21 00:11:13

ここから本題。まず、将来原子力をどう利用するにせよ、あるいは今すぐ脱原子力するにせよ、今すでにある廃棄物は何とかしないといけないので、そこは原子力に対するスタンスに関わらず一緒に考えるべき問題ですよね、というところを確認。

Flying Zebra @f_zebra

ここまで一般的な話題で引っ張ってきましたが、本題は核廃棄物の地層処分です。これについては、動機がどうあれ現在既にある廃棄物を安全に処分することを、原子力推進、反対の両者がいる社会の共通の目標として明確に定めることがまずはスタートポイントです。

2012-09-21 00:12:04
Flying Zebra @f_zebra

信頼のない原子力ムラが「責任を果たす」と言って進めようとしている処分事業に協力することと、あくまで反対して原子力ムラを困らせ、その結果廃棄物を負の遺産として将来世代に託すのと、どちらが良いかをまずは冷静に判断してもらう必要があります。

2012-09-21 00:12:33
Flying Zebra @f_zebra

技術に関わる者が意識しなければならないのは、技術は社会に対する奉仕者であり、しかも万能ではないということです。社会全体の便益のために誰かが引き受けなければならないリスクをできるだけ小さくし、自主的に引き受けることができるようにするのは技術者の責任です。

2012-09-21 00:13:28
Flying Zebra @f_zebra

また、専門家と非専門家(他分野の専門家を含む)の間に情報、知識、理解の非対称性が存在することを忘れず、しかし驕らず、誠実なコミュニケーションを図る能力も求められます。この点については、自らを振り返って反省することしきりです。

2012-09-21 00:14:23
Flying Zebra @f_zebra

自分はこんなに悩み、勉強し、考えているのに、深く考えもしない「市民」が非現実的な政策を支持して日本をダメにしている、といった「驕り」が自分の中になかったか。社会や周囲の人が現在の自分を育ててくれたことへの「恩」を忘れてはいなかったか。今一度見つめ直したいと思います。

2012-09-21 00:14:53
Flying Zebra @f_zebra

地層処分については、技術的な課題は既に抽出され、対抗策もほぼ固まっています。社会全体が必要性の認識を共有し、政治も責任を負い、当事者が必要な情報を得た上で、他のリスク要因や便益との「比較」によって自らの意思で決定できる仕組みを築く。そうすれば、実現は十分可能です。

2012-09-21 00:15:48

これはもちろん、リスクをゼロにできるという意味ではない。リスクを一定レベル以下に抑えるための技術的な課題はほぼ解決済み、ということ。「一定レベル」をどこに持ってくるのが妥当かは技術ではなく社会が決めること。そこに「ゼロ」を要求すれば永遠に解決しないのは当たり前として。

Flying Zebra @f_zebra

関係者と専門家が信頼関係を築き、当事者が情報を得た上で比較対照して選択する、informed and comparative judgment が必要なのは地層処分に限りません。技術者の私も技術だけでなく、社会科学的な側面ももっと勉強しなければならないと痛感しました。

2012-09-21 00:16:31

リスクの具体的な内容について、別のまとめのコメント欄でいくつかコメントしたものを以下にご紹介。
触れられていない前提知識として、ガラス固化体は水に溶けないので、地下水で輸送されるためには粉々に粉砕された欠片として運ばれる必要があります。そうした形にならないよう、何重にも防護されています。仮にそれを突破して地下水の流れに乗っても、人間環境に達するには非常に確率の低い偶然をいくつも重ねる必要があります。そうした奇跡的な偶然を重ねて僅かな欠片が人間環境に達したとして、量が少なければそのリスクはほとんど定量できないほど僅かです。