【twitter小説】氷のイコン#2【ファンタジー】

騎士ミェルヒと冒険画家のエンジェは氷のダンジョンに挑みます。そこで不思議な氷漬けの女性を見つけて……? 小説アカウント@decay_world で公開したファンタジー小説です。この話は#4まで続きます
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減衰世界 @decay_world

エンジェは身軽に逃げることが出来るが、赤錆の鎧を着込むミェルヒはなかなかゾンビを引き離せない。ゾンビは追いかけながら隙を窺っている。村人をさらっているゾンビのことだ。二人を捕まえてしまいたいのだろう。ゾンビは余裕の表情でニヤニヤと笑っている。 35

2013-09-21 15:38:00
減衰世界 @decay_world

 二人がまともに反撃できないと知ったゾンビはミェルヒにジャンプして飛び付いた! その衝撃でミェルヒは転倒する。ゾンビは恐ろしい腕力でミェルヒの鎧を引き外そうとするが、鎧は不思議な力で貼りついていてびくともしない。 36

2013-09-21 15:42:32
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「やめて!」  エンジェは予備用のナイフを抜き、ゾンビに格闘を挑んだ。ミェルヒが襲われているのを見て咄嗟に起こした行動だった。だが、ナイフは呆気なくかわされ、逆に手首を掴まれる。万力のような握力で締め付けエンジェは悲鳴をあげた。 37

2013-09-21 15:48:27
減衰世界 @decay_world

 ミェルヒは上体を起こし短剣を抜いた。そして隙だらけのゾンビの首に短剣を突き刺す! だが短剣は分厚い皮に阻まれ貫くことは出来なかった。ゾンビは振り返りにやりと笑うと腹からいくつもの腕を飛びださせエンジェを拘束した。 38

2013-09-21 15:53:46
減衰世界 @decay_world

「いただくヨ。ひひ、おマえの相手はあっちだ」  ゾンビはミェルヒの背後を見ていた。そしてエンジェを掴んだまま凄まじいスピードでダンジョンの奥へ駆けていく。エンジェの手からナイフが落ち石畳の床に転がる。 39

2013-09-21 15:59:56
減衰世界 @decay_world

「やめろ、待て!」  ミェルヒは起き上がり急いで追いかける。だがやはり鎧の重さは決定的な差となってゾンビとの距離を広げていく。しかも……背後から獣の咆哮が聞こえたのだ。 40

2013-09-21 16:03:32
減衰世界 @decay_world

 振り返ったミェルヒの視線の先には、先程倒した雪熊の突進する姿があった。避けなければ……雪熊は腹に傷を負っているものの血は止まったようだ。雪熊は肩を前にしタックルを仕掛けてくる。重量のある戦士の戦い方だ。質量は武器になる。 41

2013-09-21 16:09:36
減衰世界 @decay_world

 ミェルヒはそのまま吹き飛ばされた。辛うじて持っていた盾と剣が冷たい石畳の床に転がる。エンジェをさらったゾンビの姿は……もう見えなくなっていた。 42

2013-09-21 16:13:28
減衰世界 @decay_world

 先程の氷の部屋を越え、ゾンビは地下深くへとどんどん降りて行った。エンジェは腕で完全に固定され身動きが取れない。身体に力を込め脱出しようとするが、相手の力は強く全く動かなかった。魔法はまだ使えない。 43

2013-09-22 15:28:26
減衰世界 @decay_world

「ふひ、かよわい娘。魔法無しデは、何も出来ナい」 「わたしをどうするつもりなの?」  エンジェはゾンビに会話を試みた。ゾンビにしては珍しく、まともな会話ができるのだ。ゾンビも調子に乗ったのか口を開いた。 44

2013-09-22 15:35:27
減衰世界 @decay_world

「さっきの氷の中ノひと、俺の主人。あの方を復活させるこトこそ、俺の使命」  ゾンビの言うことには先程の女性はメデセク人という超古代の人種らしい。氷から生まれたとされるメデセク人は、過去の災厄で滅びていた。 45

2013-09-22 15:38:28
減衰世界 @decay_world

 彼女は辛うじて滅びを免れたが、長き眠りについているという。彼女を目覚めさせるには生贄が必要らしい。そのために人間をさらっているというのだ。 「そんな、もっと他の方法があるはずでしょう。生贄だなんて……」 46

2013-09-22 15:42:57
減衰世界 @decay_world

「バかめ、生贄がいちばん効率がいいのだ。我々はあの方と長き眠りについていた。環境が復活すれバ、あの方の命も復活スる……でモ、状況はヨくならなかった。あの方は危険な段階マで弱っていタ……時間がナいのだ」 47

2013-09-22 15:48:49
減衰世界 @decay_world

 主人の危機を感知してこのゾンビは目覚めたという。それで最近人さらいが起きて騒ぎになっていたのだ。生贄が無ければ主人は死んでしまうという。彼女はもう意識すら無いのだ。薪をくべなければ消えてしまう火のように。 48

2013-09-22 15:54:06
減衰世界 @decay_world

 このダンジョンは彼女の生命維持装置だという。一般的な暴走しているダンジョンと違い、ここはその超技術がコントロールされているのだ。 「あなたたちは貴重な古代の証人よ、政府に連絡すれば支援くらい……」 49

2013-09-22 15:57:40
減衰世界 @decay_world

「コの時代にはもうメデセク人がナぜ滅んだかも伝わってイないのか……知ってるルぞ、政府のやツらは神と取引をしテいる。メデセク人は神々によって滅ぼサれたんだぞ。信用できルか」 50

2013-09-22 16:01:53
減衰世界 @decay_world

 確かにメデセク人について残っている情報は少ない。遥か昔の超文明、氷積世を支配していたと伝承に残っていることだけをエンジェは知っていた。その詳しい文化や滅びの原因は完全に闇の中だ。知っている人がいるかもしれないが一般的にはそうだ。 51

2013-09-22 16:05:41
減衰世界 @decay_world

「でもそんなこと言ったってひとりで何でもできるわけないじゃない。しかも他人に危害を加えてるのよ。もっと皆で協力しなければできるものもできないじゃない」 「うるサい、だマれ!」 52

2013-09-22 16:13:12
減衰世界 @decay_world

 エンジェはゾンビの腕で口を塞がれてしまった。しまった、口が過ぎたか……エンジェは少し後悔した。魔法はまだ使えない。そもそもいつまで使えないのかさえ分からない。魔法が使えたらテレパスでミェルヒを呼べるのに。 53

2013-09-22 16:18:44
減衰世界 @decay_world

 ゾンビも話をやめ、氷のダンジョンには冷たい石畳の上を歩くゾンビの足音がヒタヒタとだけ響いていた。 54

2013-09-22 16:26:09
減衰世界 @decay_world

 ミェルヒは転倒からゆっくりと立ち上がった。奇妙にも、雪熊は追撃を加えてこない。雪熊はじっとこちらを見ている。突然雪熊は語りだした。ミェルヒは雪熊が喋るなど聞いたことはなかった。 55

2013-09-23 15:58:59