センスレス・アクツ #2
腕利きの殺し屋、カムロ・シロキは、過去のトラウマを振り払うために違法サイバネ手術を行い、恐怖感覚と記憶の一部を破壊した。その結果彼が得た痛ましき後遺症……ホロオスモウ依存症はもはや説明するまでもない。そしていまや、彼の運命はロウソク・ビフォア・ザ・ウィンドである。 2
2013-10-20 16:55:51新たな「戦争」は、間もなくこのような未洗練サイバネ技術の実験場と化すだろう。ブディズム界の有力者タダオ大僧正は、これら手術の慈悲深さを声高に説き、合法化に拍車をかける。むろんその背後には、タマ・リバー下流の重金属ヘドロ沼沢地よりもドス黒い、暗黒メガコーポ各社のマネーが流れる。 3
2013-10-20 16:59:32「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは陰鬱な重金属酸性雨の中を、高く鋭く跳躍した。殺意を湛えたその目で、百数十メートル先のニンジャと睨み合ったまま。閉塞感に満ちた大通りを歩むサラリマンのひとりが救いを求めるように天を仰ぎ、遥か頭上を飛ぶ砲弾の如き影を、PVCビニル越しに見た。 4
2013-10-20 17:07:22復讐者は法定飛行高度限界を低空飛行する商業マグロツェッペリン上に着地。「イヤーッ!」彼はそこを最高速度で駆け抜け、次なるツェッペリンへと跳び渡る!「安い、安い、実際安い。安い、安い、実際安い……」無感動な電子コマーシャル音声と威圧的なモーター音を遥か後方に置き去りにしながら。 5
2013-10-20 17:15:40「何たる速さか」ソードフィッシュは緊急IRCを送信し、防弾ガラス越しにカラテを備えた。その間も彼は、ニンジャスレイヤーの矢のような視線から一瞬たりとも目を逸らす事はできない。復讐者は二機のツェッペリンを蹴って見る間に大通りを渡り、ビルの防弾ガラスへ鋭角トビゲリ!「イヤーッ!」 6
2013-10-20 17:19:39KRAAAAASH!砕いた!防弾ガラスをいとも容易く!ガラス片と重金属酸性雨の雨粒が書斎内に降り注ぐ中、ソードフィッシュは敵の攻撃を紙一重のブリッジによって回避!「イヤーッ!」ソードフィッシュの胸の上ワン・インチ距離で空気がリプルし、殺人魚雷めいたトビゲリが通過。タツジン! 7
2013-10-20 17:26:04着地。両者はタタミ五枚の間合いで背後を振り返る。「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、ソードフィッシュです」ニンジャ同士が神秘的なアイサツを交わし、ただそれだけで室内にカラテが漲る。カムロはLAN直結映画を観ているかのような非現実感を味わった。 8
2013-10-20 17:29:59「イヤーッ!」敵のオギジ終了から僅か0コンマ2秒。ニンジャスレイヤーは己の右腕を鞭のようにしならせ、無慈悲なるスリケンを放った。空気を切り裂いて飛ぶ鋼鉄投擲武器!その狙いはソードフィッシュの眉間である! 9
2013-10-20 17:33:44「イヤーッ!」ソードフィッシュが鋭いカラテシャウトを放つ。するとスリケンの軌道が僅かに横に逸れ、まるで磁石に吸い寄せられたかのように、ソードフィッシュの右手の指二本で巧みに挟み取られたではないか。ワザマエ! 10
2013-10-20 17:39:03ニンジャスレイヤーは眉根を寄せ、続く突撃を中断してバック転を打った。何らかの警戒すべきジツが働いたのを一瞬のうちに見て取ったからだ。そして彼の状況判断は決して間違ってはいなかった。次の瞬間、ソードフィッシュの背中の鞘からカタナが突如跳ね上がり、周囲を高速旋回したからだ! 11
2013-10-20 17:44:15ナムアミダブツ!これはタナカ・ニンジャクランのソウル憑依者が用いる、恐るべき念動力ジツの一種であろうか。闇雲に前進していれば、刃の嵐によってネギトロにされていただろう。敵は手練。ニンジャスレイヤーはジュー・ジツを構え直し、敵と睨み合った。再びシシオドシが鳴ったかの如き静寂。 12
2013-10-20 17:48:31ソードフィッシュは摑み取ったスリケンを弄びながら言う。その横には、切っ先の延長線を敵の眉間に向けたカタナが、まるで知性を持つドロイド兵器めいて空中浮遊していた。「……貴様の事は聞いている。アマクダリに楯突くテロリストめ。だが無敵の怪物では無かった。そんな物は存在しなかった」 13
2013-10-20 17:53:56少し遅れて、窓からサイレン音や高圧的電子音声が再び押し寄せる。「そして見よ、貴様の如き狂犬にできるのは、この俺のような組織末端を追い回す事だけ。大局は変えられぬ。己の無力を悟り、敗北を認めるがいい。貴様はそこにいるケチな殺し屋や、大通りを歩む愚かな大衆と何ら変わらぬのだと」 14
2013-10-20 18:02:07「末端か幹部か、そんな事はどうでもよい。オヌシら全員を殺すからだ」殺戮者の右の瞳が拍動し、赤く鈍い発光を見せた。「オヌシは後悔するだろう。その子供騙しのジツを早々に明かしてしまった事を!」彼は一気に距離を詰め、念動カタナの防御斬撃を弾き、痛烈なカラテを繰り出す!「イヤーッ!」15
2013-10-20 18:12:41だがソードフィッシュはこれを連続バック転で回避!「イヤーッ!」さらに背後の壁を蹴り、敵の側面方向へと大きく跳躍した!「チュー・ノリ!」謎めいたシャウト!浮遊するカタナの上に見事な着地!次の瞬間、彼を乗せた念動カタナは、殺人マグロめいた爆発的速度で空中を滑るように突進した! 16
2013-10-20 18:20:54「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは咄嗟の回避を行い致命傷を回避するが、無傷とは行かぬ。彼の胸を真一文字に切り裂きながら、ソードフィッシュは書斎の端へと到達。速度をほとんど落とす事無く、身体を垂直に傾けながらエクストリーム・スノーボーダーめいた高速ターンを打ち、再び飛来する! 17
2013-10-20 18:29:35ニンジャスレイヤーは迎撃カラテを構える。彼の狙いはすれ違いざまに跳躍して殺人ボレーキックを放ち、敵の頭部を切断する事!だが…「チュー・ノリ!」ソードフィッシュは体勢を低くし、自らのカタナをきりもみ回転させたのだ!無論彼はその上に立ったままである!何たる攻防一体のワザマエか! 18
2013-10-20 18:36:00「グワーッ!」空中迎撃を試みたニンジャスレイヤーは、再び切り刻まれて回避動作を強いられた。「イヤーッ!」一方のソードフィッシュは閉鎖空間の不利を些かも感じさせない機動力で旋回すると、部屋の隅で旋回。ぴたりと空中制止してIRC通信を受けた。間もなく増援がビルに到着するだろう。 19
2013-10-20 18:40:26「狂人よ、貴様の負けだ。アマクダリの組織力の前に貴様は再び敗北するのだ」ソードフィッシュが言い放つ。だがニンジャスレイヤーは静かに呼吸を整えてからジュー・ジツを整え直し……腰に吊った武骨なヌンチャクを構えた。「果たしてそうか、確かめてみるがいい」射竦めるような目で敵を睨む! 20
2013-10-20 18:50:46「ヌンチャクだと!」ソードフィッシュは嗤った。だが殺戮者の挑戦的な視線はまるで矢のように彼の両眼に突き刺さり、目を逸らす事ができない。「貴様はその何の変哲もないヌンチャクで、この俺のチュー・ノリを破ろうというのか!?」彼のニンジャ闘争心が掻き立てられ、激しい怒りへと変わる。 21
2013-10-20 18:59:42ソードフィッシュの心に一瞬の迷いが生じる。このまま相手をせず窓から脱出し、あとは増援部隊に事を任せればよい。だがこの挑戦を前に背を見せれば、己の魂に敗北の不名誉が永遠の汚点のごとく残されるだろう。彼は慢心などしていない。だが自らのジツとカラテに確かな自信と誇りを抱いていた。 22
2013-10-20 19:09:39「チュー・ノリ!イヤーッ!」ソードフィッシュはカタナの上で身構え、敵の心臓めがけて爆発的速度で突進!船の横腹を一撃で貫く無慈悲なカジキマグロめいて!「イイイヤアアアーッ!」ニンジャスレイヤーも黒いヌンチャクを回転させ迎撃の構えを取る!そして「「イヤーッ!」」両者は激突した! 23
2013-10-20 19:17:50SMAAAAAAASH!凄まじい衝突音が鳴り響く!「グワーッ!」ゴウランガ!地に転げ落ちたのはソードフィッシュ!渾身の力を込めて振り下ろされたニンジャスレイヤーのヌンチャクは、狡猾なテレキネシス・ジツによる妨害をも撥ね除け、敵のカタナを真っ二つに粉砕したのだ! 24
2013-10-20 19:21:48