モーサイダー!~Motorcycle Diary~Episode of Autumn IV~
- IngaSakimori
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「で……志智はその条件を承諾した、と」 「やっぱりまずかったか? お前の弟だもんなあ」 「いえ、別に。いいんじゃないですの?」 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:07:48「いいわけないですよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 朝方に降った雨で屋上が濡れていたため、購買前のレストスペースに集まった志智たち四人だったが、千歳がクラス委員の用事で外すと、話題は自然と土曜日に控えた恐るべき戦いの件となった。 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:08:00「あああああうああー!! あっ、あの人……あの人の目……絶対ほんものだ……本物ですよ、あれ! 僕にはわかるんです! お兄さん、なんてことしてくれたんですか!? 僕、逃げてもいいですか!?」 「本物ってなんだよ……そもそも俺には意味がわからないんだけどな」 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:08:09「まあ━━いわゆるホモ。つまり、同性愛者ということですわね」 「……ああ。なるほど。そういうことか」 「なんで僕の顔みて、納得するんですかっ!?」 「いや、お前ホモにモテそうだよなー、って思ったから」 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:08:26「他人事なのはわかりますけど、だったら少しは事の重大さを理解してくださいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 「おっ……落ち着けっ……近い、近いぞ、ティック! それ以上寄ったら殴るからな!」 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:08:42興奮して我を失っているのか、青い左目をぐるぐると混沌の色に回転させているティックの顔面が、志智の視界で大きくなる。 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:08:46「ったく」 「わ、っぷ」 ああなるほど、確かに美少年といっていいのだろう。男のくせにやたらといい匂いがするし。 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:08:55(そういう趣味がある奴は、さぞかし好きなんだろうな……) などと━━頭の片隅で思いながら、志智は右手でティックを押し離す。 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:09:03「はぁぁっ……う、うううっ……!! 僕には……僕には千歳ちゃんという人がいるのに……」 「まるで千歳のやつと付き合っているような言いぐさだな。 本気で落ち込んでるみたいだから、今回は見逃してやるけどさ」 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:09:13「あっ、はい。 それじゃあ、これからは恒常的に落ち込んでいればいいですかね?」 「……いいわけないだろ。 それにしても、亞璃須はずいぶん冷たいんだな、弟がホモに狙われるのは構わないのか?」 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:09:21「ですから、別に」 2パック目の豆乳へストローを突き刺しながら、日原院亞璃須(にっぱらいん ありす)はいささかの揺らぎも感じられない青い右目を、そして黒い左目をティックに向けた。 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:09:39(こいつは夏服よりも冬服の方が似合うよな) 豪奢といってもよい亞璃須の金髪には、重厚さのあるブレザーの方がマッチしていると志智は思っている。 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:09:48「この子がホモに狙われるのは初めてのことではありませんもの。 それに……今回の相手は、この前みたいなお化けライダーというわけではないのでしょう?」 「お化けってなんだよ。 まあ、確かにおなじ人間とは思えないくらい速かったけどさ」 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:09:59「……お化けライダー。 ゴーストライダーだったら、VTRじゃなくて隼に乗ってないといけないですね。それかZX-10Rですね……」 「YZF-R1の方も、当然お化けですわ」 ゆっくりと首を振りながら亞璃須は言う。ちゅーと豆乳を吸い込む音が響いた。 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:10:07(この前、谷川さんに負けたのがこたえてるのかな……こいつ、負けず嫌いだもんなあ……) ピンク色の唇が、微かに震えているのを見つけてしまったその時。 志智の右手は勝手に動いていた。 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:10:39「……えっ」 「あ」 妹にいつもそうしているように、日原院亞璃須の頭を撫でてしまってから、三鳥栖志智(みとす しち)は困ったように視線を泳がせる。 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:11:03「あ、あの~……えっと、志智?」 「な、なんだよ」 周囲の目が気になるのだろうか。まるで清楚可憐な純情乙女のように、頬を染めて恥じらっている亞璃須が、別人のように思えた。 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:11:42「えっと……その。あ、ありがとう。お返し、いります?」 「……なんだよ、お返しって」 「それはまあ……その。こういう━━」 「よ、よせって」 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:11:50おずおずと亞璃須の右手が志智の頭へ伸びていく。 慌てて制止したのは、別に背中の方から「リア何とかは死ね」とか、「くたばれ二股野郎」とか聞こえたからではなかったが、三鳥栖志智の心には軽率なことをしてしまったかもしれないという後悔が生まれた。 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:11:59「……あのですね。お義兄さん」 「な、なんだ」 鼓膜をふるわせたNGワード。 顔面を握り潰すのも忘れて、志智が苛立ちの声をあげると、日原院ティックは明日にでもこの世を滅ぼせそうな暗い笑みを浮かべていた。 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:12:08「姉さんといっちゃつくのはいいですけど……お兄さんが負けたら、僕、今みたいなことされちゃうんですよ……男に……あの絶対、真性の人に……たぶんそれ以上のことも……」 「そ、そうか。それは……も、問題だな」 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:12:20「ええ、そうなんですよ……だから負けないでくださいね……負けたら、その場でダムに飛び込みますから……」 「わ、わかった」 「えい」 思わず表情を引きつらせた志智は、頭の上に何か小さく暖かいものが乗った感触を覚えたが、確かめる余裕までは持てなかった。 #mor_cy_dar
2013-10-31 20:12:30