リヴィング・ウェル・イズ・ザ・ベスト・リヴェンジ #2

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【リヴィング・ウェル・イズ・ザ・ベスト・リヴェンジ】#2

2013-11-01 14:17:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「見ろよ」サイシはシャツを捲り上げ、バギーパンツのベルトに挟まった銃を示した。シゲトは訝しんだ。「オイ、それ」「リボルバーだ。イイだろ」サイシは銃を抜き、ふざけたガン・スピンを見せると、シゲトに銃口を向けた。「やめろよ!クソが!」シゲトは銃口を払った。「どこで手に入れた?」 1

2013-11-01 14:23:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウマサマ=サンさ」サイシは勝ち誇った笑みを浮かべた。「あの人、スッゲエよな。ポンとくれたぜ、俺のヤバさを見込んでんだ」「マジかよ」「『肉食獣の素質があるぜサイシ!』」サイシはウマサマの口真似をした。ウマサマとは地元のヤクザで、スポーツジムを経営し、クスリの闇市場をシメている。2

2013-11-01 14:39:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シゲトとサイシがこうして胡乱なスクラップの間を歩いているのも、ウマサマに絡んだ案件だ。幼なじみの彼ら二人は、釘バットでコンビニ強盗を試みようとして失敗し、マッポに追われた。それを保護したのがウマサマだった。「ガッツがあるぜ」と彼は二人を褒め、小遣いをくれるようになった。3

2013-11-01 14:46:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スポーツジムも使い放題、二人はそれぞれ「力自慢」「浪人」等のタトゥーを入れて、女にもモテるようになった。この世の春だ。シゲトはしかし、サイシほどには浮かれきった気分になれなかった。ママに話していないからだ。話せるわけがない。「この辺じゃねえか?」サイシはメモを見ながら言った。 4

2013-11-01 14:51:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なあ、多分ヤバイ物だよな……だってわざわざ隠してあるんだぜ、こんなところに」「プッ!ビビッてんのかよ」サイシは嘲った。「そんなだから、お前はダメなんだ。タダのお使いだよ、タダの。もっとも、トラブルに巻き込まれたら、こいつをブッ放す」銃を弄び、「俺はタフだぜ」5

2013-11-01 14:55:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よく言うぜ」シゲトは呆れた。「コンビニじゃ、お前が情けねえから……控え室からカラテカが出てきただけでビビりやがったから、あんなだったんだぜ」「知らねえ」サイシは頭の悪い笑みを浮かべた。「そんな昔のことは忘れたぜ。今の俺は……サムライヤクザだぜ」「自慢こき野郎」「羨ましいか?」6

2013-11-01 14:59:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ブルシット!」シゲトは毒づいた。リボルバーが羨ましくないと言えば、嘘になる。だが、正直、ちょっとスピーディー過ぎる……彼はそう思った。落ち着かなかった。何か大事なことを見落としている気がしたのだ。コンビニに強盗に入ったのだって、家賃滞納が限界に来ていたからだ。必死だった。 7

2013-11-01 15:02:29
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ウマサマ=サンからの小遣いを渡した時、ママはシゲトに文句を言って、パワーウォーターを買ってこさせた。神棚のスピリットに備えるのだという。高揚感はすぐに失せてしまった。そして、不安が身をもたげたのだ。「いいかシゲト。俺はな……正直のとこ、ウマサマ=サンだって超えるぜ。踏み台さ」 8

2013-11-01 15:06:48
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「何?」「俺はギャングスタになるために生まれて来たッて、今ならわかる。中学でナメた真似したケンタ、覚えてるか?……昨日、ドゲザさせてやったぜ」「ウマサマ=サンの威光でかよ」「まあな。いずれ俺の威光になるのさ」サイシは無邪気に凄んで見せた。「そん時、お前はサブリーダーにしてやる」9

2013-11-01 15:10:43
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「ハイ、ハイ」シゲトは肩を竦めた。心中穏やかではない。廃車の陰からいつ発狂マニアックや浮浪者、あるいはバイオスモトリが襲いかかってくるかわからない。そんな事を口にすれば、またサイシは鬼の首を取ったように馬鹿にするだろう。サイシはシゲトよりバカなのだ。バカだが、いい奴だ。 10

2013-11-01 15:13:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ウマサマ=サンは優しく、面倒見がいい。だが、鮫めいた目は実際恐ろしい……ノー!シゲトは己を奮い立たせた。万事OK。カネもある、女にもモテる、心配ない。片思いだったメヨよりずっとゴージャスなグルーピーと、この前、クラブのトイレで……。素晴らしかった。「どうした?」でも、不安だ。11

2013-11-01 15:19:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「見ろよ、アレだ」サイシが銃で指し示す先、ゴミ山の斜面が崖になった先に、横倒しになった冷凍バンがある。運転席ガラスは粉々に割られ、浮浪者がこじ開けようとして失敗したとおぼしき傷がリアゲート周辺に沢山ついている。「ブルズアイ」サイシはクールなポーズを決めた。「早く中を頂こうぜ」12

2013-11-01 15:29:47
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「斜面、気をつけろよ」意気揚々と前を行くサイシに、シゲトは注意を促した。足を踏み外したら、だいぶ下まで滑落してしまう。まったく、ドリームランド埋立地はまるでフジサンの麓だ。「ビビりはそこで待ってるか?」お決まりの返事だ。「うるせえよ!」シゲトは後に続いた。 13

2013-11-01 15:33:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その時だ!「ケケーン!」獰猛な叫び声をあげ、冷凍バンの運転席から巨大な影が飛び出し、二人に向かってきた!「アイエエエエ!」サイシは悲鳴を上げた。ナムサン!それはスクラップ場のハンター、バイオキジだ!「アイエエエエ!」サイシは後ずさり、銃をやみくもに撃った。BLAMBLAM! 14

2013-11-01 15:36:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

当たるはずもなし!射撃の反動でサイシは吹き飛ばされ、後ろのシゲトとぶつかった。「グワーッ!?」足を踏み外すシゲト!斜面を転がり落ちる!「シッ!シッ!」「ケケーン!」サイシはバイオキジと格闘!「オイ!シゲトーッ!」「グワーッ!」転がる!転がる!斜面に突き出した煉瓦に額を直撃! 15

2013-11-01 15:40:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……シゲトは激しい頭痛で目を覚ました。背中が重い。廃トタン板がのしかかるように被さっていた。彼はそれを苦心してどかし、起き上がった。周囲を見渡す。どうやら煉瓦との衝突で気絶し、そのまま斜面を相当長く転がってしまったようだ。額の血は乾いていた。「畜生……今、何時だ?サイシは?」16

2013-11-01 15:43:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サイシの気配は無い。見捨てて、バイクで帰ったかもしれない。背中に被さった廃トタンのせいで、見つけられなかったのかもしれない。後でメチャクチャに文句をつけてやる。シゲトはサイシを、そして己の不幸を呪った。あいつは浮かれすぎなんだ。だがとにかく、この場所から街に帰らないと……。 17

2013-11-01 15:46:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「アイエッ!?」シゲトは心臓が口から出そうになった。陽炎めいて霞む前方に、蠢く影がある。シゲトは反射的に、斜めに突き出したネオン看板スクラップ「電話快感」の陰に隠れた。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」叫び声は陽炎の中の影が発している。18

2013-11-01 15:50:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シゲトは唐突に気づいた。ここは蟻地獄めいたすり鉢状の空間だ。角度や斜面の関係で、おそらく通常のスクラップ徘徊者が注目することは極めて少ないであろう場所なのだ。滑落したシゲトは、偶然ここにエントリーして……「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」(アイエエエエ!)悲鳴を押し殺す! 19

2013-11-01 15:53:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は見てしまった。陽炎に霞む先に見えたのは、赤黒のニンジャであったのだ!地面から突き出したサボテンめいたシルエットの物体に、繰り返し、チョップや掌打を叩きつけている!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」(アイエエエエ!)シゲトはしめやかに失禁! 20

2013-11-01 15:55:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シゲトは踵を返して逃げようとした……なぜか、それができなかった。蛇に睨まれたウサギは、迫力に圧され、ただ捕食されるのを黙って待つという。四方八方に枝を生やした粗末な角材やバットと鉄条網の集合体に、赤黒のニンジャが拳を打ちつける姿を、彼は看板の陰から凝視した。 21

2013-11-01 16:08:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「アイエエ……」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「アイエ……」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「……」シゲトはふと、己の手の平を見つめた。一心に拳を打ちつける赤黒のニンジャと、震える己の手を、彼は交互に見つめた。22

2013-11-01 16:16:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」赤黒のニンジャはいつからこの動きを続けていたのだろう?集中……極度の集中。陽炎の中、その姿は恐ろしくも荘厳だった。シゲトは拳を握りしめる己自身に気づいた。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」赤黒のニンジャは打撃を続ける……「イ、イヤーッ!」 23

2013-11-01 16:19:32
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シゲトは見よう見まねの正拳突きを宙に繰り出した。「ヤベッ……」思いのほか、大きなシャウトが出てしまった。シゲトは恐る恐る陽炎を見やった。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ムーブは続いている。シゲトは深呼吸した。不思議な高揚感。「イ……イヤーッ!イヤーッ!」正拳!……正拳! 24

2013-11-01 16:22:21