「説得って難しい」という話

TLで話題になっていた「BL注意といったクッションページは差別です」というものについて。 自分自身がもやもやと抵抗したい、反論したいという気持ちを感じました。 それはどうしてだろう、と考えた結果、 「メッセージの内容そのものではなく、そのメッセージの呈示の仕方」に抵抗を感じたという結論を出して、ツイッターにつらつら書いたものをまとめました。 続きを読む
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説得って難しい

みつひと @3hitolog

1)説得は主に、被説得者と同じ意見の説得をする場合と、反対の意見の説得をする場合とがあります。今回の差別に関する説得は後者にあたります。被説得者はその行動を差別と思ってないので、それは差別です、と説得するわけなので。

2013-11-11 23:55:27
みつひと @3hitolog

2)さて、そもそも差別に対して人はどう思うでしょうか。「差別するのはよくない」というのが一般的な認識です。誰しも自分が差別者だとは思いたくないですよね。今回の「それは差別です」という説得が成功するためには、被説得者が自分の行いを差別だと認識する必要があります。

2013-11-11 23:57:27
みつひと @3hitolog

3)「自分は差別していたのだ!」と思う時、どんな感情を抱くでしょうか。「そうなんだ!」と驚く人、「なんてことをしていたんだ」と反省する人、「これは差別ではない」と反発する人、いろいろだと思います。で、ほぼ全ての場合、自分の行いが差別だと認めることは、自分は悪いと認めることです。

2013-11-12 00:01:21
みつひと @3hitolog

4)でも人間、それであっさり自分は悪いことをしていた、と認められるようには出来てないのですよ。特に今回みたいに「対象に対して嫌悪感を持っているわけではなくて、差別だと意識してやったわけではない」場合だと。人間は全員(わたしも含め)自分の価値を最大にしたい生き物です。

2013-11-12 00:04:23
みつひと @3hitolog

5)たとえそこに無意識にも差別感情があったとしても、なかったとしても、「自分が差別(=社会的に望ましくない行動)をしていた」、ということを人間は反射的に(←これが重要)認めたくありません。で、どうなるかというと、「わたし差別してないし! 言いがかりじゃないの!」という反発です。

2013-11-12 00:06:46
みつひと @3hitolog

6)ここでの反発は何らかの理性的な判断によるものではなく反射です。否定的な自己イメージを押し付けられた(と感じた)ので、それから逃れるために反発するのです。説得内容が正しくても、社会的に望ましくても、それは関係ないのです。

2013-11-12 00:09:43
みつひと @3hitolog

7)それに加えて今回のをややこしくしてるのは、被説得者が思うのと反対方向に説得する場合(今回だと差別ではないと思う人に差別だと説得する)、心理的リアクタンス、てややこしいものが起こるのです。これがまためんどくさい。

2013-11-12 00:11:15
みつひと @3hitolog

8)心理的リアクタンスとは「人が自分の自由を外部から脅かされた時に生じる、自由を回復しようとする動機的状態のこと」です。簡単な例だと、宿題しようかなぁ、て思ってた時に親から「あんた宿題したの?」て厳しく言われると「うっせえな!」て反発してあったはずのやる気が消えることです。

2013-11-12 00:14:02
みつひと @3hitolog

9)なんでこれが自由を脅かされた事態になるかと言いますと。親から言われる前は、宿題をするかしないかを選べる自由があったのです。でも、注意されたことでその自由が侵害されてしまった。で、それを回復するためには新たな自由を得なければいけない。そこで、宿題をしない自由を取るのです。

2013-11-12 00:16:02
みつひと @3hitolog

10)もしここで宿題をする方を選択すると、それは親によって選ばされた選択になってしまうのです。そこに自由はありません。そのため、どう考えても自分を苦しめるだけなんですが、反射的により自由な宿題をしない選択肢を選ぶのです。

2013-11-12 00:17:32
みつひと @3hitolog

11)この心理的リアクタンスは説得場面で、説得者の意図した方向とは逆の方向に被説得者の態度や意見が異なる現象を説明するひとつの理論です。説得に頷くと自由が侵害されると思うのですねこの現象は特に高圧的な説得を受けた場合によく起こるものです。

2013-11-12 00:21:57
みつひと @3hitolog

12)今回の説得は高圧的とは言い切れませんが、「これは差別です」と言い切っているわけで差別だと認める自由が侵害されているため、差別ではないという反発する自由を選択することになってしまうのではないか、とわたしは考えたのです。

2013-11-12 00:28:31
みつひと @3hitolog

13)それにあいまって、最初にも述べたように、差別だと認めることは自分は悪いと思うことにつながり、自己イメージが傷ついてしまうので、よけいに意見に反発してしまうのではないかと考えました。

2013-11-12 00:29:57
みつひと @3hitolog

14)じゃあ、どうすればよいのか、なんですが、それがわかっていたら現代の差別問題は解決しているわけでして…。もしかしたら、今回のような「差別するつもりはないんだけど、結果的に差別的な行動をとってしまった場合」に、「反発を招かず気付いてもらう」方法はあるかもしれません。

2013-11-12 00:31:44
みつひと @3hitolog

15)わたしは説得研究にあまり詳しくないのでこれまで述べたことを軸に考えるのですが。説得者が唯一の答えを提示するのではなく、被説得者に考えてもらい、その結果として「差別表現にあたるのかもしれない」と納得させるように誘導すると反発は減らせるのかな、と思いました。むずかしいですが。

2013-11-12 00:35:11
みつひと @3hitolog

16)差別をなくしたい、という気持ちは良いものですし、叩かれること承知の上で発言して、まとめもつくって、意見も受け止める、という姿勢はすばらしいです。な、の、で、よけいに敵を作るような形なのがすごく、こー、もやっとするのです。なんでそー、逆効果な形にしちゃうかなぁ、と。

2013-11-12 00:40:43
みつひと @3hitolog

17)もちろん、先ほどまで述べてきたとおり、わたしにも自己イメージを傷つけたくない、自由を侵害されたくない、という気持ちはあるので、それでもやもやしている部分はあります。ただ、それと同時に、もう少し敵を作らない方向で、という老婆心があるのでした。

2013-11-12 00:44:09
みつひと @3hitolog

追記1)クッションページについてのわたしの意見は「クッションページは見たくない/見られたくないひとの権利を守るもの」という考えです。

2013-11-12 00:47:02
みつひと @3hitolog

追記2)消極的な差別は確かにあると思います。それから、LGBTはけっこうな確率でいます。ただそれでいつも発言に気をつけろというと疲れますよね。なのでわたしは「積極的な差別的行動はしない」「相手との関係を大事にする」「カムアウト後に関係を変えない」が大事なのかな、と思います。

2013-11-12 00:52:54
みつひと @3hitolog

追記3)先ほどの意見は精神疾患のケースでわたしが気をつけていることです。LGBTは精神疾患ではないとわかってますが、個人的なことでナイーブなことでその特性があることでその人の価値が損なわれるものではない、なのに差別的な扱いを受けている、ことから類似していると考えました。

2013-11-12 00:55:12
みつひと @3hitolog

最後に)長々と失礼いたしました。差別という問題はとてもナイーブで難しいもので、みんなが悪いと思ってるのになくしにくいものです。今回のことで反発を抱かれた方もそうでない方も、これを機会に差別撤廃の方向に足を揃えられたらなぁ、と思うのでした。読んでいただき、ありがとうございました。

2013-11-12 01:00:29

補足:関連論文の紹介

心理的リアクタンスについて

定義「行動の自由が脅かされた時に、その自由を回復しようとする動機付け状態(自由を回復したい! と思うこと)」
「自由の喪失または喪失の恐れに対して、個人はその自由を保護し、回復するように動機づけられる」

自由とは「自分がある特定の行動をとりうるという信念」
ある特定の行動の選択の自由、つまり、行動することもしないことも自分自身にゆだねられるという自由のこと。

リアクタンス理論における脅威の定義
「何らかの出来事によって自由の行使がより困難になったという認知」
「ある特定の仕方で行動するよう自分に圧力がかけられていることの認知」
「脅威とは影響意図の認知であり、そこには、恐怖や罰を与えられたり威嚇されたりするといった有害な作用の含みはない。承諾させようとする圧力は、罰であれ賞であれ、いずれも自由喪失の脅威となる。

以上をまとめると、
「何らかの行動を自分がやるかやらないかは、自分自身の判断で決められる。でも、それを誰かが、ぜったいすべきである(すべきではない)と押し付けてくると、それは自分で決めたいのに! ていう反発が起きる。で、相手が言うまんまの行動をとるのは嫌なので、相手が言ってきたのと逆の行動(やれと言われたらやらない、やるなといわれたらやる)を選択する」
というのがリアクタンスです。

参考:今城周造(1984)情緒経験におよぼすリアクタンスの効果:漫画評価事態における検討 心理学研究、55巻5号、268-274.
http://jlc.jst.go.jp/JST.Journalarchive/jjpsy1926/55.268

説得メッセージの圧力について

心理的リアクタンスの項で述べた「自由への脅威」と同じ意味を持つ。

【上野(1991)の実験】
メッセージの反復呈示とメッセージ内容の圧力が、説得効果におよぼす影響を検討した。
今回は圧力の効果のみ取り上げる。
なお、実験は【大学生】を対象行われた。

「文学作品と人間形成」という話題のメッセージを使用した。
人間形成のためには文学作品を大いに読むべきである、と主張するメッセージ。
別の調査で、大半の学生の意見はもともとメッセージに対して賛成の立場であることが明らかにされている。
つまり、参加者である大学生は元々このメッセージに賛成する立場であることが予想される。

〈メッセージの圧力の操作〉
圧力が大きい:メッセージの途中と最後に読み手の態度・行動の自由を脅かすような高圧的・断定的な文を挿入した。
例)
「~絶対に文学作品を読まなければならない」
「読者は私のこのような考えに必ず賛成し、この意見を受け入れる以外にないであろう。」

圧力が小さい:上記の分がないもの

〈結果〉
・圧力が大きいメッセージでは、説得の効果が低減(説得されない)されたり、抵抗が生じた。
 リアクタンスが喚起され、それにともない否定的感情や飽きによって反論が生じて、説得への抵抗が生じた。

・圧力が小さいメッセージでは、説得は受け入れられた。
 肯定的感情や好意的志向が引き出された。

つまり、高圧的で断定的(受け手はこれに従わなければならない)なメッセージの場合、受け手は自分の態度を決める自由を侵害されたと感じてしまい、結果として説得に抵抗してしまうということです。
頭ごなしに言われたら、態度を押し付けられたら反発してしまうじゃないか、という結果です。

上野(1991)メッセージの反復と圧力が説得の受容と抵抗におよぼす効果 実験社会心理学,31(1),31-37.
http://jlc.jst.go.jp/JST.Journalarchive/jjesp1971/31.31