マスター・オブ・カブキ・イントリーグ #2

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【マスター・オブ・カブキ・イントリーグ】#2

2013-11-23 22:29:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヨオーッ……!」全ての演目が終わり、灯りが落ちたガイオン中央カブキ・ホールに、神秘的なカブキ・シャウトが響く。彼を中心に蝋燭の炎がミステリアスに揺らめく。いくつもの蝋燭燭台が立てられたステージ上で、独りの男が舞っているのだ。 1

2013-11-23 22:33:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヨオーッ…!」彼の声にはパワーが宿る。数時間前までここでマジックモンキーの物語を演じていたどの一線級カブキ・アクターでさえ足元にも及ばない程の、カリスマ性を感じさせる。「イヨッ!イヨッ!」片脚立ちで飛び跳ねる。足袋を履いた彼のステップは驚くほどに優雅で、魔術的でさえある。 2

2013-11-23 22:42:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ハイ!イヨオーッ!」ひときわ大きなカブキ・シャウトとともに、彼は大業物のナギナタ・ブレード「ツルギバキ」を肩の周囲で回転させる。あたかも、荒れ狂うウィンドミル風車めいて。すると全方位のロウソクの炎が一瞬で掻き消えた。タツジン! 3

2013-11-23 22:48:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

次の瞬間、それまでの荒々しさが嘘のように、男は音も無くナギナタを収め、優雅にスピンしてからタタミでアグラをかいていた。瞑想し、静かに呼吸を整える。彼はキョート人間国宝、アキラノ・ハンカバ。三千年の歴史を持つハンカバ・カブキの正統後継者、すなわちマスター・イエモトの一人である。 4

2013-11-23 22:55:33
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不意に、頭上からスポットライトが当たる。アキラノは顔をしかめ、目の上に手でひさしを作る。オイランドロイド特有の、規則的で無機質な拍手音が聞こえた。アキラノが見渡すと、左の舞台袖に、見目麗しい少年型オイランドロイドの姿。アキラノはアグラ姿勢のまま、深々とその機械人形に頭を下げた。5

2013-11-23 23:02:14
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「ミソギの演目はどうなっておるか」少年型オイランドロイドの声は、電子ノイズが混じった老人のそれだ。アキラノはその声を知っている。このオイランドロイドを遠隔操作している人間……すなわち絶大な権力を持つ、とあるガイオン元老の声だ。「最善を尽くしております」アキラノは畏まって言う。 6

2013-11-23 23:09:39
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「急ぐ事だ」元老の機械人形は言った。白い首筋からはジョルリ紐めいた長いLANケーブルが舞台袖の闇へと伸び、壁の端子穴と直結している。「戦争の音が近づいておる。キョートの威信をかけた戦争が。元老院も一枚岩ではない。二度目の失敗は許されぬぞ、人間国宝どの」「重々承知しております」 7

2013-11-23 23:17:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

少年型オイランドロイドは首の後ろのLANケーブルを引き抜き、小さく痙攣した後、アキラノにオジギした。「それでは失礼いたします」その声はオイランドロイド特有の、奥ゆかしい電子音声に戻っていた。アキラノは機械人形が舞台を降りるまで、9本の指をタタミにつき深々と頭を下げたままだった。8

2013-11-23 23:21:51
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「安全+第一」「ケミカル」「飲まない」錆び果てた警句カンバンの群れ。私立探偵タカギ・ガンドーは、尾行がいないかどうか細心の注意を払いながら、アンダーガイオンの中層部の工場街を歩いていた。ZBR煙草を吹かしながら、彼はキョートの闇社会に詳しいキンギョ屋との情報交換を反芻する。 10

2013-11-23 23:32:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スタッグビートル・ヤクザクラン?」「聞いた事ねえか、爺さん」「実在する零細クランだな。事務所はアッパー」「どこの傘下だ?」「待てよ、確か独立だな」「独立ねえ……」吸収合併が激しいネオサイタマに比べ、歴史と伝統を重んずるキョートでは、零細クランの独立存続も珍しい話ではない。 11

2013-11-23 23:40:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「有り難うよ、爺さん。で、何か仕入れが必要なキンギョはあるか?」「そうさな、戦争ってやつだ」「……本気で日本とキョートが何かやるってのか?」「キナ臭え臭いがプンプンさ」「どうせまた、国境地帯で適当にドンパチやって、カネを動かすだけだろ?」国境地帯の小競り合いは珍しくない。 12

2013-11-23 23:47:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それがな、ドンパチやり過ぎて、今回ばかりは双方引っ込みがつかなくなったってぇ噂だぜ」「引っ込みがつかない?どこがだ?共和国議会か?メガコーポ連合か?元老院か?軍部か?」「それが解ったら世話ねえさ。余りにキナ臭えから、暫くキンギョ屋も休業だ。どこか仮住まいを工面してくんな」 13

2013-11-23 23:55:19
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それからガンドーは、スタッグビートル・ヤクザクランに関しての調査を開始。この零細ヤクザクランの背後に、政府筋の組織が存在している可能性を掴む。だがそれまでの過程でファイアウォールが4枚破壊され、UNIXデッキが爆発し、雇った非合法ハッカーはニューロンを焼き切られかけたのだ。 14

2013-11-24 00:04:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヤバイヤバイヤバイ……キンギョ屋が身を引くなんざ、前代未聞だぜ」ガンドーは錆び果てたコケシ型電話ボックスに入る。ドライバーで電話機の底の蓋を外すと、中には生きた隠しLAN端子が。キンギョ屋から買った最新型の違法小型ファイアウォールを入念に3個カマしてから、直結を行った。 15

2013-11-24 00:09:50
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010110101111……ガンドーは意識を飛ばし、IRCコトダマ空間へダイブする。電子トリイの間をぎこちなく飛翔する彼の論理肉体は、油が切れた重機めいて重かった。接続先であるネオサイタマとの間に、酷い磁気嵐が発生しているのだろう。彼はダイブが好きではない。特にこんな夜は。 16

2013-11-24 00:16:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

落ち合うIRC部屋が指定されていたわけではない。だが彼女はすぐにガンドーを感知した。IRCコトダマ空間認識能力を持つ、懲役数百年のヤバイ級ハッカー。「おいでなすったか」ガンドーが気付くと、次の瞬間にはもう、2人は6畳の茶室に座していた。ガンドーは車酔いじみた吐き気を覚えた。 17

2013-11-24 00:22:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「潜るのは久しぶり?相変わらず、危ない橋を渡ってるようね。どうぞ、リラックスして」艶やかなオイラン装束に身を包んだナンシー・リーが、マッチャを差し出した。「ああ、数ヶ月振りじゃねえかな。ひょっとしたら数十年振りだぜ」薄汚い探偵コート姿のまま、ガンドーは頭をかき、正座を崩す。 18

2013-11-24 00:30:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そっちはどうなんだ?ドサンコ旅行から帰ってきてからこっち、ニンジャスレイヤー=サンとも割と疎遠らしいじゃねえか?」ガンドーはようやく論理肉体維持のコツを思い出したようだ。タイピング速度が徐々に安定し、論理肉体輪郭の01ノイズが消える。「ええ、忙しくって」ナンシーは笑った。 19

2013-11-24 00:37:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「心境の変化って奴か?」「まあ、そういうモノね。子供を持った事は無いけど、それに近い気分。前々から考えていた計画を、実行に移し始めたの。その契機がドサンコよ」ナンシーはマッチャを啜る。入室してからここまでの全発言と間は、物理時間にして僅か五秒に過ぎない。ニューロンの速度だ。 20

2013-11-24 00:45:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そういや、ハッカーの弟子を取ったって?」ガンドーはセンベイを咀嚼した。「それもひとつあるわ。でも、もうひとつ。コトダマ空間認識者を以前よりも積極的に探し始めたの」「何のために?」「保護、かしら。コトダマ空間認識者は、今度も増え続ける。無力な坊やが認識者になる事もあるはず」 21

2013-11-24 00:49:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドージョーでも作るのかい」「そこまで手は回らないし、私はサイバーマッポからお尋ね者の犯罪者」ナンシーは短く笑った。「でも、ドサンコで私が見たのは……認識者が既存のシステムに搦め捕られ……兵器にされる姿。子供だって容赦なくね」「将来を見据えてるわけか」「私はジャーナリストよ」22

2013-11-24 00:56:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「成る程な。で、今回俺に依頼ってのは」「キョートにもコトダマ空間認識者は誕生してるはず。こっちなら私の方で動けるけど」「俺に身元調査して欲しいってワケか」「そう。今から送る何個かのIP情報は確実じゃないし、その先に居るのが本当に認識者かどうかも解らないけど、試す価値はある」 23

2013-11-24 01:10:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「無論受けるさ。あんたにゃ色々、世話になってるからな。……ただ、知ってるかもしれねえが、俺はいま政府筋がらみらしい、ヤバイ事件に巻き込まれてんだ。それが片付いてからになるぜ」「いいわ、その協力が依頼料代わりね」ナンシーはIP情報マキモノを手渡し、ガンドーはそれを懐に納める。 24

2013-11-24 01:17:53