加賀さん観察日記 Part9

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キタユキ @k_t_y_k

トラックの後ろに乗るなんて、子供の頃に山梨の爺ちゃんちに行った以来だろうか。前にもここの道は通ったことがあるけど、その時は父さんのバンで、僕は後ろの席でシートベルトに縛られていた。あれから5年。周りの景色は変わらないけど、僕は変わった。提督になると決めた。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 12:13:48
キタユキ @k_t_y_k

親には無理を言って、中学は海軍学校直属のところへ入れて貰えた。勉強は苦しかったけど、おかげで16から鎮守府での実地訓練を施される特進コースに入れて貰えた。ここで成果が上がれば海軍の、艦娘省の所属になれる。まさか知ってる鎮守府に行かされるとは思わなかったけども。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 12:17:01
キタユキ @k_t_y_k

荷台に寝転がり、蒼天に雲が棚引くのを眺めていると、車体が一際大きく跳ねて止まった。「さ、ついたわよ。準備しなさい」運転席のドアが開き、威勢のいい声で催促される。身体を起こすと、黒くて長い髪が揺れながら鎮守府の門へ向かっているのが見える。僕も自分の荷物を持つ。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 12:24:40
キタユキ @k_t_y_k

隣で丸まってた初雪を揺すって起こし、荷台から下りるのを手伝う。僕が小学生の頃から初雪は変わらないけど、どれだけ僕が大きくなっても初雪を抱き上げるのには骨が折れる。僕よりも小さいけど、僕よりもずっと重くて頑丈だ。今から暮らす鎮守府には、そんな艦娘達が沢山いる。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 12:28:07
キタユキ @k_t_y_k

錆で赤くなった格子の門が開き、先ほどの長い黒髪の人がトラックに戻って来た。「私は車を入れてくるから、先に中へ。提督は玄関で待ってるから、ご挨拶して。詳しい説明はそれからよ」僕と同じぐらいの背の彼女は建物を指差す。彼女は軽巡、矢矧。れっきとした艦娘だ。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 12:31:54
キタユキ @k_t_y_k

矢作はまた運転席に戻り、先に車を敷地の中へ進めていった。「…行こ」初雪が僕の荷物を背負って、よたよたと前を歩き出して、すぐ立ち止まる。何か見つけたのだろうか。追いかけて門をくぐると、綺麗に手入れされた植え込みに、不自然にロープが置かれている。変に生臭い。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 12:37:42
キタユキ @k_t_y_k

「…忘れ物、届ける…」初雪が荷物を片手に纏めて、赤い縄を掴んで引っ張る。予想以上に長い。「…めんどくさい…このままいく…」止めるのも聞かず、初雪はズルズルと縄を引きずって建物に向かっていく。僕は縄が何かに絡まってないかを確認してから、早足で追いかけた。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 12:42:59
キタユキ @k_t_y_k

「ようこそ、横須賀鎮守府大阪支部…ID何番だっけ?とにかく、歓迎します」豪華なシャンデリアに、高そうな家具。見上げても天井が遥か遠くにあるようなエントランスホールに、艦娘達が集結していた。図鑑でしか見たことのない戦艦や空母が、僕らへ好奇の目を向ける。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 12:46:59
キタユキ @k_t_y_k

「私がここの提督。名前は…別にいいか。めんどくさいし、うちの艦娘と同じで『提督』とか『司令』と読んでくれればいい。その方が通じるし、私も本名で呼ばれるよりは気が楽」危うく彼女の名字を呼びそうになって、喉の奥に押し込めた。彼女は提督。この艦娘達の指導者だ。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 12:49:46
キタユキ @k_t_y_k

「で、お前は何て呼んだらいい?見習いくん。見習いくんでいい?本名プレイ好き?いやそれにしてもほんま大きなって。まだ足柄とかいんぞ?今畑におるから、後で会いにいき。キンタマとらんようには言うたあるから」提督が手を伸ばしてくる。頭を撫でたいらしいが、届いてない。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 12:52:40
キタユキ @k_t_y_k

「初雪も久しぶり。元気か?可愛がってもらってるか?」提督は初雪にも手を伸ばすが、初雪は僕の後ろに隠れてしまった。初雪に挨拶しなさい、と言うが、「…この人、誰」と服の裾を掴んでくるだけで前にでようとしない。「まあ覚えとらんのも無理ないわな。5年も経ってるし」 #加賀さん観察日記

2014-03-04 12:56:49
キタユキ @k_t_y_k

初雪は元々この鎮守府の工廠で産まれたのを、父が僕のためにと貰ってきた。鎮守府の建造任務で産まれる余剰艦娘は、駆逐艦なら所定の手続きを経て民間で飼育することが許されている。初雪もその一人だ。逃げ出してここに一人で戻ってきたこともあったのだけど、覚えてないらしい。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 12:59:02
キタユキ @k_t_y_k

「まあいいや。改めて、ようこそ、≪ヨコスカ・アサイラム≫へ。上に割り振られたとはいえ、こんなクソの掃き溜めに秘書艦見習いと共に乗り込んできた、勇気ある新米に敬礼」一斉に床を擦る音。100近い艦娘達が、僕らに右手を挙げている。あまりにも壮観で、圧倒される。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 13:02:46
キタユキ @k_t_y_k

「じゃ、とりあえず部屋に案内するから。荷物おいたらまたここに集合。色々説明するから。お前らは解散」提督は僕を手招きして、歩き出す。相変わらず豪快な人だが、苦労してるのだろう。髪が真っ白になっている。帽子を目深に被っててわからないが、目も充血しているようだ。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 13:04:49
キタユキ @k_t_y_k

鎮守府はとても広い。元々湾岸部のリゾートホテルで、手入れは殆どしてないというけれど、ドアノブや手摺の内装はそれを裏付けるように厳かで豪奢だ。初雪はまだ僕の後ろにいる。提督はまるでバスガイドのように身振り手振りを加えながら、僕と初雪を連れて廊下を練り歩く。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 18:17:16
キタユキ @k_t_y_k

「…えー、こちら3階。駆逐艦のフロアね。あ、ちなみにここ、無駄にオーシャンビュー。誰も見ないけど、昔は幽霊が出てさ、涼風がビビってクソ面白かった。ま、結果笑い事じゃなくなったのはオカルトサイトでお馴染み」ガラスごしに海が見える。曇ってきたせいか、波は鈍色だ。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 18:20:19
キタユキ @k_t_y_k

「一時期大変でなあ。幽霊は出るわ、使ったらあかん武器は出るわ、スパイはおるわ、ようわからんことは起こるわで。私もようわからんままにここ使ってたってのが正直だけど。あ、もう今は何も出ないから。お清めバッチリ。ガサ入れバッチリ。…毒ガスの除去もな」 #加賀さん観察日記

2014-03-04 18:22:40
キタユキ @k_t_y_k

提督は帽子のつばを下げ、口元を歪めた。「ニュースにもなって大変だったよ…地下から致死性の毒ガス。艦娘に影響はなかったけど、私が棺桶に片脚突っ込んぢまった。ま、あいつらでいう、ダメコンがあって助かったけどね」自分を嘲笑うかのように、掠れた笑い声を漏らす。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 18:26:48
キタユキ @k_t_y_k

「初雪ちゃん、ちょっとこっちき」提督は窓から向き直って、僕の後ろの初雪を手招く。初雪はおずおずと僕の背中から顔を出した。僕の上着は伸びるほど引っ張られていて、初雪がどれ程彼女へ警戒心を抱いているかが嫌というほどわかる。「初雪ちゃん、私、人間?それとも…艦娘」 #加賀さん観察日記

2014-03-04 18:30:35
キタユキ @k_t_y_k

提督は充血した目を頬肉で押しやって、にんまり笑いかけた。その笑みを見た初雪はまた僕を盾にして、子猫のように唸ってみせる。「…どっちの匂いも…する…変…近づかないで…うー」「な、ダメコンの結果がこれ。体が毒でダメになったから、脳と脊髄だけ移植した。駆逐艦にな」 #加賀さん観察日記

2014-03-04 18:37:50
キタユキ @k_t_y_k

艦娘の体は、半分がヒヒイロカネと呼ばれる金属。でももう半分は人間も全く同じ成分で…正しくは、人間そのものからできている。この地球に存在するヒト科の女性は、誰だって艦娘になれる。僕の妹が病気で死んだ時、「元気な艦娘になってね」と送り出した。死ねば皆、艦娘になる。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 18:42:40
キタユキ @k_t_y_k

生きた人間が艦娘になる場合は、大体新しい艦娘が作られる時だ。僕はまだ勉強中だから、詳しくはこれから習うことになる。ただ、僕の横にいる初雪と、目の前にいる提督が、全く同じ体の構造をしていると言われても俄かには信じられなかった。事実なら、医療技術の進歩は残酷だ。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 18:46:31
キタユキ @k_t_y_k

「最初はリハビリとか大変だったし、今みたいに動くようなるまで3年かかった。そこから完治で1年。鎮守府は軍に差し押さえられて、皆は保健所で一時保護。そこからスカウトされた奴は他の鎮守府に行ったり、断固としてここに残ったり…でも、危険度の高い奴は、軒並み殺処分な」 #加賀さん観察日記

2014-03-04 19:08:53
キタユキ @k_t_y_k

そこまで話した後、提督は、上着に口元を埋めるように顎を引いた。病的なまでに白い肌に、灰色のファーが付いた白地のコート。目が帽子で隠れてしまった今、彼女の全身は真っ白だった。図鑑で見たヴェールヌイが、確かこんな姿だったけど、僕の記憶にある写真は蒼い目をしていた。 #加賀さん観察日記

2014-03-04 19:36:21
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