【twitter小説】失くした右腕#3【ファンタジー】
腕集めはニヤニヤとしているばかりだ。クレイシルムの腕には心当たりは無いらしい。彼はゆっくりとこちらに間合いを詰めてくる。正面からぶつかったら負けるのはレックウィルの方だ。奇襲のタイミングを奪われたのはまずかった。 63
2013-10-18 16:06:17レックウィルは右手につけた指輪を撫でる。すると青い火花が散り、彼の姿は闇に消えた。透明化したのだ! 透明化もまた魔法使いのよく使う魔法で、指輪にはその力がこめられていた。レックウィルは素早く移動し再び奇襲のチャンスを窺う。 64
2013-10-18 16:11:02だが、またしても腕集めの方が一枚上手だった。腕集めの腕の一つが光る指先で不思議なサインを示す。すると、一瞬にして廃工場は光に包まれた。光源の魔法の亜種だ。その光は……透明のはずのレックウィルの影を浮き彫りにした! 65
2013-10-18 16:15:49「姿隠して影隠さず……だよ」 腕集めはその巨大な腕をレックウィルめがけて振り回す。光に眼が眩んだレックウィルは避けることが出来ずに強烈な一撃を受けることになった。そのまま吹っ飛び、錆びたドラム缶の山に激突する。 66
2013-10-18 16:19:59ガラガラとがらくたの山が崩れ、レックウィルの姿は見えなくなった。だが、かなりの痛手を負ったであろう。レックウィルはそのままがらくたの山から這い出すことはなかった。腕集めは鼻を鳴らすと、そのままゆっくりとその場を立ち去った。 67
2013-10-18 16:25:21腕集めが彼に止めを刺さなかったのはほんの気まぐれだった。力の差は歴然としており、いま始末する必要性すらなかった。廃工場の外は完全に闇に包まれ、夜空には月が輝いている。腕集めは気になっている言葉があった。 68
2013-10-18 16:30:57クレイシルム画伯の腕……それが気にかかっていたのだ。戦闘用の腕はもう必要数集めた。画家の腕を手に入れるのも悪くない。腕集めは、腕を振り上げ錆びたゲートを粉砕し工場の敷地から出ていった。そして、彼はそのまま夜の闇に消えていった……。 69
2013-10-18 16:35:26ミレイリルは小屋の中でレックウィルを待ち続けていた。疲れて寝てしまっていたが、小屋の明かりは消さずにいた。暇なので温めておいた夜食のキノコスープはもう冷めていた。ミレイリルは夢を見ている。 70
2013-10-18 16:39:28夢の中でレックウィルはどこか遠くへ旅立ってしまっていた。まだ学びたいことがたくさんあるのに……ミレイリルは泣きながら追いかけていった。しかしレックウィルの足はどんどんはやくなり、闇の向こうへその姿は消えていく。 71
2013-10-18 16:43:23朝起きてもレックウィルは事務所に帰ってこなかった。何かトラブルでもあったのだろうか。しかしじっと待っているだけでは事態は進まない。そう思ったミレイリルはクレイシルムの亡霊の元に行ってみることにした。 73
2013-10-19 17:08:27亡霊がいる場所は家主から聞いていた。一応霊障防護のペンダントを身につけていく。本当に霊と戦闘になったら首の皮一枚繋げる程度には役立つだろう。ミレイリルは自分のスクーターを小屋の裏手から引っ張り出した。 74
2013-10-19 17:12:06不安は確かにあった。レックウィルは有能な霊障エージェントだ。だが、失敗のある日もあるだろう。ミレイリルは彼の無事を祈った。どんな仕事かも告げずに行ってしまった。まさかこれが今生の別れにはなるまい……彼は有能なのだ。 75
2013-10-19 17:17:36クレイシルムの屋敷の近く、緑あふれる林道にミレイリルはやってきた。確かに、坑道の入口にクレイシルムの霊は佇んでいる。ミレイリルはスクーターを降り彼に挨拶をした。心配はしていたが、彼は優しい笑顔で挨拶を返す。 76
2013-10-19 17:20:25レックウィルが来れないので代わりに来た、腕の行き場は分からないが誰かに憑依している可能性はある……ミレイリルはクレイシルムの霊に進捗を報告した。クレイシルムはしばらく思い当たる弟子を考えている。ミレイリルはアトリエで見た絵の話を振った。 77
2013-10-19 17:25:44「絵を見ましたよ。未完成には見えないほど素晴らしい絵でした……特に、描きこまれた人形の表情がそれぞれ個性があって……」 それを聞いたクレイシルムは、驚きの反応を見せたのだ! 「人形の表情だと……私はそこまで描いてないぞ」 78
2013-10-19 17:29:45「えっ、確かに……もしかして!」 誰かが絵の続きを描いているのだ! そうとしか思えなかった。それができるのは、クレイシルムの腕を受け継いだものだけだろう。ミレイリルはクレイシルと共にアトリエに行くことを提案した。 79
2013-10-19 17:32:52「アトリエで待っていれば、誰かが絵の続きを描きに来るはずです。そのひとこそ、画伯の腕を持っている人です!」 「しかし……何故だろう、この場を離れたくないんだ」 自縛霊が場所を移動したくないのには理由がある。 80
2013-10-19 17:39:47ミレイリルは以前勉強したことを思い出す。霊は、一般的に自分の死んだ場所を動きたくない。その場に魂が固定されていて、移動するとどんどん霊は不安定になっていくのだ。ミレイリルは迷った。危険を冒してまで画伯に来てもらう必要はあるだろうか。 81
2013-10-19 17:42:40そのとき、林道をこちらに向かって歩いてくる影があった。ミレイリルはそれに気付く。背中からたくさんの腕を生やした異形の怪物……彼女は息をのんだ。 ゾンビだ。霊障危険指定3級……恐ろしい危害をもたらす可能性のある、肉体を持った霊障事案……。 82
2013-10-19 17:45:24「クレイシルムさん逃げて!」 ミレイリルは叫ぶが腕集めはそれよりも早くクレイシルムの元へ突進する! だがクレイシルムも死霊なのだ。生まれて間もなくその力は強い。腕集めはクレイシルムに近寄れず、弾き飛ばされた。 83
2013-10-20 15:23:16「ぬぅ、お前も死霊か……死霊同士の戦いは不毛だ。やめよう。ふふ、お前の腕の気配がするぞ……」 腕集めはにやりと笑い、クレイシルムを迂回して林の奥に消えた。その方向には……クレイシルム邸がある! 84
2013-10-20 15:27:51「どうしよう、急がないと……あいつ、腕のありかがわかるんだ」 「お嬢さん、私が護衛しよう。少し離れるだけなら大丈夫さ」 そういってクレイシルムはミレイリルを抱き上げた。そのまま風のように走る。死霊になるということは、それまでの肉体とは別な力を持つこと。 85
2013-10-20 15:30:19