ヒア・カムズ・ザ・サン #4
真っ白のコンクリート壁、やはり白塗りの瓦屋根、強化ガラスの巨大な玄関フスマの両脇には立派なワータヌキ像が飾られ、ノレンにミンチョ文字で「経」「済」「成」「長」と書かれたこの建物こそが電子振興センターであり、今やその周囲には金網と鉄条網が張り巡らされて、市民の立ち入りを拒む。 1
2014-03-19 22:07:01かつて、地域振興の為、公的資金を使って建てられ、そのまま利用者もほぼ無いままに放置され、清掃業者と受付窓口業務の若干の雇用を生み出していた建物であったが、今は違う。この地の電子拠点として稼働し、実際役に立つようになった。専らアマクダリ・セクトの計画のためだけに。2
2014-03-19 22:13:11そして今、本来の利用者たるべき住民を恐ろしげな鬼瓦と天下紋のノボリ旗によって拒むこの建物の周辺には、破壊された飛行ボット2機と死亡したクローンヤクザ1ダースが転がり、サツバツたる眺めを形成している。地面を汚す緑の液体は空気に触れて酸化し、赤色に変わり始めている。 3
2014-03-19 22:18:06金網には引き裂かれた箇所がある。人ひとりが通れるぐらいの裂け目を越えて敷地内に入り、建物の横へ回ると、今度は破壊された小窓が発見できるはずだ。その窓枠から薄暗い資料室の室内へ入り、そのまま廊下へ出て、前へ。すると3つ目のショウジ戸が開いている。赤黒のニンジャの背中あり。4
2014-03-19 22:26:47この部屋はUNIX制御室だ。「ヌンヌンヌンヌン……」赤黒のニンジャの手元からドロイド音が聴こえてくる。何らかのハッキング行為である。そのまま後ろから掴みかかり、押しつぶし、引き裂いて殺すべし。だが赤黒のニンジャがその2秒前に振り返り、チョップを繰り出した。「イヤーッ!」 5
2014-03-19 22:32:44「虫ケラァ!」腕を振り、チョップを弾き返すと、「イヤーッ!」赤黒のニンジャは逆の手を鳩尾に叩き込んだ。「グワーッ!」鋼鉄の身体を衝撃がさざ波めいて伝う。よろめき一歩後退。カラテを構える。赤黒のニンジャも戦闘体勢だ。「虫ケラァ」彼のニューロンに帰還命令が届いたのはこの時である。6
2014-03-19 22:36:38赤黒のニンジャの更なる攻撃を待たず、瞬時に踵を返すと、もと来た道を走りだす。建物から飛び出し、金網を突破し、地面を蹴って方向転換し、区画から区画へ走り、空白地……管制塔……アグラする使役者010110ヌウーッ!」ヘファイストスは目を開き、ドゲザするコーナラーの額から手を離した。7
2014-03-19 22:43:17ヘファイストスの目は血走り、吐く息は荒い。それは当然、コーナラーから記憶を吸い出す行為が彼のニューロンにかける多大な負荷のせいだけではない。予感は的中した。赤黒のニンジャ、即ちアマクダリ・セクトの敵、即ちニンジャスレイヤーである。 8
2014-03-19 22:51:10先程のインシデント……電子振興センターUNIX拠点のネットワーク・ノイズの1秒間のオフライン化、冗長性による即時復旧……の原因は、間違いなくこれだ。ヘファイストスは立ち上がった。「立て!コーナラー=サン!」「ハイ!」コーナラーはバネ仕掛けめいてドゲザから立ち上がった。 9
2014-03-19 22:54:00イクサの直前に呼び戻したのはバッドタイミングであったろうか?ヘファイストスは沈思黙考する。あのままニンジャスレイヤーとこのコーナラーが戦闘しておれば、倒せただろうか?わからない。記憶を更に遡ると、コーナラーは別の場所で既に数度交戦。倒しきれずにいる。持ち帰った情報は値千金だ。10
2014-03-19 22:59:36まず、切断後に復旧されたネットワークは非常にマズい!正常を擬態しているにすぎない。ニンジャスレイヤーは単身この地に乗り込んできたわけではない。コーナラーは更に一人、女のニンジャを相手にしている。彼らは別の同行者を護っていた。「ハッカーだ。コシャク!」ヘファイストスは唸った。 11
2014-03-19 23:03:25管制塔を囲む空白地の防衛システムは強力無比。ニンジャであろうと同じこと、立ち入ることはできぬ。だがその制御システムが万一無力化されれば……「ニンジャスレイヤーを殺せ!」「ハイ!」コーナラーはバック転でザゼン・ルームを飛び出していく!「イヤーッ!」ヘファイストスも走り出る! 12
2014-03-19 23:08:05仲間とのIRC通信確立よりも先にヘファイストスが目指したのは管制ルーム!その隅、警戒色のレバー装置!「普通は触らない」と書かれたガラスカバーを「イヤーッ!」チョップで叩き割ると、力任せに引き下ろす!ブガーブガーブガー!照明が点滅し、UNIXモニタに「再設定開始」の文字が走る!13
2014-03-19 23:13:39「な……」ヘファイストスはガラス窓の外を見やり、凍りついた。彼のニンジャ視力は遠い空に明滅する薄緑の光を確かに認めた。「ナイミツ」彼が呻くように口に出したのは、アマクダリ・セクトのハイ・テック秘密ステルス輸送機の名称だ。即ち、薄緑の光を放つあの機体に乗っている者は……。14
2014-03-19 23:18:23「……」ニンジャスレイヤーを出迎えたのは、闇の中へ走って逃げてゆく一匹のバイオネズミの後ろ姿ただ一匹であった。アジトはもぬけの殻だ。ニンジャスレイヤーは眉根を寄せる。レジスタンスの者達は、襲われ、連行されたか?否……戦闘の痕はない。彼は戦略机に駆け寄った。 16
2014-03-19 23:22:27そこには石で重しをされた紙の切れ端があり、「スミマセン。急ぎ合流必要で」という言葉が殴り書きされていた。ニンジャスレイヤーは立ち尽くした。合流?奴隷化されていない別の村人が見つかったか?彼は強い胸騒ぎを覚えた。この後先考えぬ拙速さ。何かマズい。 17
2014-03-19 23:29:27……残念ながら、ニンジャスレイヤーの懸念は現実のものとなった。その時、レジスタンスの者達は、ミヨボから合流地点として指定された公園に到着していた。彼らはブッシュの中に身を潜め、時を待った。息を殺し、互いの眼光を見交わし、彼らは待った。やがて、一人の男が姿を現す。ミヨボだ。 18
2014-03-19 23:38:07「皆いるか」ミヨボは言った。ガサガサとブッシュを鳴らし、コバチが這い出した。「他の連中は?」「ドーモ。コバチ=サン。ミヨボです」「アイサツはいい。つけられていないか。他の連中はどこだ?」「皆同行してきてる」ミヨボは弱々しく言った。「コバチ=サン。すまん」「何がだ」「家族……」19
2014-03-19 23:43:48「どうした?」「俺、兵隊でもセンシでもない、だから、家族が人質に取られると、」BANG!音を立てて、引きつったミヨボの頭が破裂した。首なしの身体は驚愕するコバチの目の前でたたらを踏み、仰向けに倒れた。すぐ傍の立木に、ミヨボの頭を貫通破壊した飛来物が突き刺さった。スリケンだ。20
2014-03-19 23:45:59「な……」コバチは後ずさった。「アイエエエエ!」ブッシュの中から、一人、また一人と、レジスタンス達が悲鳴を上げて飛び出す。だがすぐに「アイエエエエ!」彼らはその場で立ちすくみ、ホールドアップしていった。ナムアミダブツ!四方八方からアサルトライフル銃口と光が突きつけられたのだ。21
2014-03-19 23:50:53「スッゾオラー」包囲ヤクザトルーパーの一人が前へ出た。片手にアサルトライフル、片手にIRCスピーカー装置を持っている。『貴様らは終わりだ』女の声がスピーカーから発せられた。『下手な動きを取れば皆殺しにする。貴様らには情報提供の義務がある。ここでこのまま尋問する』22
2014-03-19 23:57:04「助けて!奴隷に戻」BRRRTTT!「アバーッ!」マズル光が闇を裂いた。命乞いをしたその者は死んで倒れた。スピーカーから再び女の声が発せられた。『下手な動きを取るなと言ったはずだ。愚鈍な非ニンジャの屑が一度で命令の意味を理解できない事は当然ゆえ、初回は許す。次は皆殺しだ』23
2014-03-20 00:04:03コバチの横でホールドアップを維持しながら、オミロはなかば離人症めいて、この状況を眺めていた。(((とんだ間違いをしちまった。何で俺はこいつらについてきちまったんだ。そもそも、あの赤黒のニンジャを目の当たりにしながら、何でこいつらを止められず、流されちまったんだ))) 24
2014-03-20 00:08:49