【twitter小説】猫の管理人#2【ファンタジー】

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――猫の管理人#2

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　ギルド前にたむろしていた猫はやがて次々と去っていった。レウンは驚きつつも、その日の仕事があったので裏の納屋から蒸気式掃除機を取り出して街に向かった。街は相変わらず猫だらけだ。観光客が猫と遊んだり追いかけたりしている。 30

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　しかもこの猫たちは大分行儀がいいのだ。露店の店先から食べ物をくすねたりしないし、フンを道端でしたりしない。喧嘩や無駄吠えで騒音をあげたりしなかった。これも例の管理人がうまく制御しているからなのだろうか、苦情もなかった。 31

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　その日の仕事もいつも通り終わり、レウンはギルドに装備を返却して帰路についた。今日は外食しよう、カフェで何か食べようかな……気紛れにそう思った。夜になって街は明かりが灯り、街中に渡された色とりどりの紐やそれについた赤や黄色の布を照らす。 32

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　よく行くギルド近くのカフェにレウンは寄ることにした。食事のメニューが豊富でボリュームもあるカフェだ。レウンはそこでキノコの辛味麺を注文した。赤いスパゲッティのような料理だ。これはレウンのお気に入りメニューだった。 33

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　夜景のよく見える窓際の席について、レウンは麺を食べ始めた。その背後でまた一人客がカフェに入店する。マントを着た魔法使いだ。周りの人はその魔法使いの風貌に何一つ驚くことは無かった。魔法使いは紅茶を注文し、レウンの背後にゆっくりと近寄る。 34

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「レウン様、隣よろしいですかにゃー？」 　彼は丁度麺を食べ終わり振り向く。そしてぎょっとした。夢で見た猫の管理人が背後に立っていたのだ。その頭は完全に猫のそれだ。周りの客も店員も全く気にしていないようだ。これはいかなる魔法か！ 35

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　レウンは慌てて口元を紙ナプキンで拭き、管理人に向かって囁いた。 「何だって急にやってきたもんだ、夢で会うんじゃいけなかったのかよ」 　管理人はニコニコ笑っている。何でも、直接会って話したかったという。 36

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　２杯の紅茶を管理人は持っていた。そのひとつをレウンに差し出す。街を行き交う蒸気式自動車のヘッドライトが二人を時々照らした。 「これは僕のおごりだにゃー。このたびは大変迷惑をかけたにゃー」 　レウンは黙って紅茶を受け取った。 37

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　わざわざ直接会って話をしに来るということは、何か重要なことを言いに来たに違いない。レウンは紅茶を飲みながら管理人の出方を窺った。管理人は紅茶に手をつけぬままゆっくりと話を始める。 「この街に来たのは大切な目的があったからにゃー」 38

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　管理人は紅茶を一口飲むと言った。 「この街も紅茶がおいしいにゃー。我々は各地で猫を集めて回っているにゃー。北の街から南の街まで、東の街から西の街まで。灰土地域中の野良猫を集めて理想郷へと導くのだにゃー」 39

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「理想郷……？」 「そうだにゃー。我々はいつの日か猫の楽園を作るのだにゃー。それはまだ計画段階なんだが……猫の手がたくさん集まれば計画は早まるにゃー」 　猫の楽園……確かに、厳しい野生で生きて人間に駆除されるよりはずっといい世界だろう。 40

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「この街に集まっている猫たちは、そういう居場所を失った猫たちばかりだにゃー。皆快く楽園への旅を了承してくれたにゃー。もう1万匹も集まったにゃー。気付いていないかもしれないが、表にいるのはわずかで、土台の裏とか屋根裏にいっぱい潜んでいるにゃー」 41

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　そんなに！　レウンは口が開いたままになってしまった。しかし、この管理人、それほどの猫を御するとはただの魔法使いではないだろう。ただの猫がこれほどの魔力を使えるわけが無い。その辺のことを聞いてみるレウン。 42

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「ふふ、僕も昔は人間だったにゃー。でも悲しい出来事があって、それから人間をやめて猫になったにゃー。これでも人間だった頃はかなりの力を持つ魔法使いだったにゃー。でも、いまはそのすべてを猫に使うことにしたにゃー」 43

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　人間をやめるほどの悲しい出来事とはいったいなんなのだろうか。詳しく聞くことをためらわせた。きっと何か猫に関連がある出来事だったのだろう。猫の顔をした魔法使いは少し遠い目をして再び紅茶を口にした。そしてしばらく沈黙が続く。 44

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　先に沈黙を破ったのは管理人の方だった。 「僕の理由なんて大したことじゃないにゃー。それよりレウン様、あなたに伝えたいことがあるにゃー。大事な話にゃー」 　自分に！？　レウンはどきりとした。猫が自分に何の用なのだろうか。 45

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　レウンは猫が特別好きというわけではない。かといって嫌いでもない。今まで生きてきた中でおおよそ猫に深くかかわったことなど一度もなかった。そんなレウンにこの猫の魔法使いは何を頼もうと言うのか。 46

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　管理人は少し間をおいてから話を切り出した。 「レウン様、猫になる気はないかにゃー。僕の魔法の力があれば、あなたは猫になれるにゃー」 　猫にだって？　自分が！　レウンは目を見開き驚愕した。 47

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　猫になるなんて、生まれてこのかた一度も想像したことはなかった。それを今、この管理人は言ってきたのだ！ 48

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　猫の管理人は、街を巡り歩いている理由は猫を集めるためだけではないという。 「街で出会った人……その中に、猫と親和性の高そうなひとに夢で接触しているにゃー。それは猫と縁が無くても、猫のように、自由に生きたいというひとだにゃー」 49

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　なるほど、確かに仕事に振り回され、恋人ともなかなか会えないこの生活が好きというわけではない。嫌いではないが、どこか自分に合っているかどうかが分からないのは確かだった。しかし急に猫になれと言われても……レウンは困惑した。 50

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「待ってください。私はいままで人間として生きてきました。これから急に猫になれと言われても、自分の人生をここで急に無に帰すのは心苦しいのです。私はいままで人間の中で生きてきて、様々なしがらみに縛られています」 51

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「そのしがらみが不幸の元だにゃー。思ったことは無いのかにゃ、このまま不本意な流れに身を任せて、本当の自由を知らないまま動けなくなっていくのは虚しいと……。レウン様にはチャンスがあるにゃ。猫の世界で自由に生きるチャンスが」 52