古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #19

更新十九回目のまとめです。 熊野から青葉への話。そして青葉の会わなければいけない艦娘とは。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「えっと、青葉に話って何?」 「それは本人にお話ししますわ」 何か不吉な予感を感じて、私の横を通り過ぎる熊野の横顔に問いかけるも、答えはつれなかった。熊野が私たちが来た角を曲がって足早に青葉と古鷹ねーさんの元へ向かう。私は加古の手を引っ張って慌ててそれを追った。

2014-04-15 22:29:40
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

廊下の先のさっきと同じ場所に古鷹ねーさんと青葉の姿があった。近づいていく熊野の姿を認めた青葉の身体が強張ったのが、遠目にも見える。熊野はためらいもなく歩き、あっという間に青葉の目の前にやってきた。私と加古もそこに駆け付ける。 「ごきげんよう、青葉。少々お時間をいただけまして?」

2014-04-15 22:35:47
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「はい……」 思いがけず力強い熊野の言葉に、青葉が俯きながら返事を返す。古鷹ねーさんが心配そうな顔で青葉と熊野の顔を交互に見て何か言おうと口を開いたけれど、それを熊野が有無を言わせぬ口調で遮った。 「古鷹さん。申し訳ありませんけれど、青葉をお借りしてもよろしくて?」

2014-04-15 22:41:42
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古鷹ねーさんが何も言えずにおずおずと頷く。黙礼した熊野が「こちらへ」と青葉を促し、歩き出した。青葉も黙ってついていこうとする。そこで我に返った私は、慌てて熊野の背中に声をかけた。 「待って!私も行くわ!いいでしょ!?」 熊野が振り向いて、私の顔をじっと見つめてきた。

2014-04-15 22:47:37
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拒絶されるかと思いきや、意外にも熊野は「構いませんわ」と言ってきた。すっかり眠ってしまって私にもたれかかっている加古を古鷹ねーさんに託す。ええい、肝心な時にいつもこいつは。 「ちょっと待っててね、古鷹ねーさん。絶対大丈夫だから」 古鷹ねーさんが子供のように小さく頷いた。

2014-04-15 22:53:19
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古鷹ねーさんが私を心から信頼してくれているのがわかった。熊野の話が何かはわからないけれど、古鷹ねーさんの信頼を裏切るようなことはさせない。そう決意して私は熊野と青葉の後を追った。

2014-04-15 22:56:11
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重巡寮の裏手の海に面した人気のない丘で、熊野が青葉に向き合った。私は少し離れて青葉の斜め後ろに立つ。風が少し肌寒い。夕日は今にも水平線の向こうへ沈もうとしている。逆光で熊野の表情はよく見えないけれど、相変わらず俯いている青葉の顔を見つめ、観察しているかのようだった。

2014-04-15 23:04:37
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青葉は今まで一言も発していない。熊野はその昔青葉と共に日本に帰る途上で雷撃を受け、青葉がその場に置いていかざるを得なかった艦。ついに日本に帰ることなく沈んだ艦。その沈没に青葉の責任はないけれど、青葉はそれも背負い込んでしまっている。そんなことを思っていた時、熊野の右手が閃いた。

2014-04-15 23:11:40
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熊野の平手打ちが青葉の頬に命中し、パアンと大きな音を立てた。衝撃によろめいた青葉がその場に尻餅をつく。 「青葉、大丈夫!?」 一瞬あっけにとられていた私は慌てて青葉に駆け寄る。 「な、何するんですか!」 青葉が頬を押さえながら熊野に叫ぶ。すると、思いがけず熊野がふっと笑った。

2014-04-15 23:18:24
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「少しはいい顔をするようになりましたのね。わたくしの心配も杞憂でしたかしら」 熊野が一人で納得して頷いている。さっぱり話の見えない私と青葉はそれをあっけにとられながら眺めていた。 「『煮るなり焼くなり好きにしてくれ』などと言おうものならこの場で海に沈めて差し上げるところでしたわ」

2014-04-15 23:23:47
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その言葉に思い当たることがあった。熊野が続ける。 「衣笠さんには申し上げましたわね。わたくしは腹を立てていたのですわよ、青葉」 状況のつかめない青葉が口の中で「それは、昔の」と言いかける。 「違いますわ。青葉がわたくしの顔を見るたびに後ろめたそうな顔をしていたことを、です」

2014-04-15 23:30:30
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熊野が腕を組み、噛んで含めるように青葉に言った。 「わかりませんの?度々青葉にそんな顔をされては、まるでわたくしが自分の沈んだ責任を青葉に押し付けているかのようではありませんか。筋違いも甚だしいですわ。熊野が沈んだのは、全て熊野の責任です。横取りされてはたまりませんわ」

2014-04-15 23:36:21
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いまだ尻餅をついたままの青葉は、呆然と熊野の言葉を聞いていた。 「青葉にはそんなつもりはなく、ただただそうせずにはいられなかったのでしょうけれど。それはわたくしに対して礼を失しているというものです」 熊野が力強く言い切る。それを聞いていた私は、胸がすくような心持ちだった。

2014-04-15 23:42:46
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どうよ、青葉。あんたが気に病んでいたことは本人には何でもなくて、あんたが気に病んでいること自体が本人のためにならない、そんなこともあるのよ。私はよく言ってくれたと熊野に歩み寄り、その手を取ってぶんぶん振る。一通り私のされるがままになったのち、熊野の唇がかすかに動いた。

2014-04-15 23:49:45
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あるいは罪滅ぼしのつもりで自分を強いて古鷹さんと仲直りしたのかと思いましたが、杞憂でしたわね。私にだけ聞こえる声の小ささで、熊野は言った。もしそんなことだったら、本当に誰のためにもならない。熊野は熊野なりに青葉のことを想っていてくれた。私はそのことが無性に嬉しかった。

2014-04-15 23:54:16
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「さて、青葉」 「ひゃいっ!?」 青葉の前に立って言い放った熊野に、青葉が間の抜けた返事を返す。 「これまでわたくしに働いた無礼は、先ほどの平手打ちで水に流して差し上げます。以後、この件でのわたくしへの気遣いは一切無用です。わかりましたわね?」 こくこくと青葉が頷いた。

2014-04-16 00:00:37
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉の返事を確かめた熊野がふっと力を抜いてそれまでの厳しい表情を解いた。 「今度、島風も誘って食事でも致しましょう。当然青葉のおごりですわよ?」 青葉が苦笑した。 「もう、なんでですか」 島風の砲術長と熊野の砲術士が兄弟で、青葉に乗っていた司令官の息子だったことを私は思い出した。

2014-04-16 00:06:56
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戦線で三人が顔を合わせて食事をしたこともあったらしい。熊野が、あのいつも走り回って大人しくしていられない島風と、同じくじっとしていられない青葉と一緒に一つのテーブルを囲んでいるところを想像して、私は可笑しくなった。その時、背後から誰かの声がした。 「あーっ、熊野いたあ!」

2014-04-16 00:12:59
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声のした方を見るとすっかり暗くなった重巡寮の裏手を鈴谷が全力でこちらに向かって駆けてくるところだった。 「あら、どうしたんですの鈴谷」 鈴谷と対照的に呑気な声を出す熊野の前に駆け付けた鈴谷が、熊野の肩をがっしとつかむ。 「なんで部屋の片づけ鈴谷一人に任せてどっか行ってるわけ!?」

2014-04-16 00:18:04
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「あら、ごめんあそばせ。青葉が古鷹さんと仲直りされたと三隈姉様から聞いたものですから」 熊野の返事に鈴谷ががっくりと首を落とした。 「勘弁してよ!鈴谷あんなん触れないんだからさあ!」 「何のことですの?」 熊野が首をかしげる。青葉と私は再びあっけにとられてそれを眺めていた。

2014-04-16 00:22:05
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「何って熊野がベランダに山のようにためたミカンとかオレンジの皮だよ!干しっぱでカラッカラになってカビ生えて下の方とか腐葉土みたいになってる!」 あまり想像したくない光景ね。もっとも熊野はそうは思ってないみたいだれど。 「ミカンの皮はお風呂に入れると肌がピカピカになるんですのよ?」

2014-04-16 00:26:37
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「あんなん入れたくないって何度も言ったじゃん!お願いだから早く捨ててよぉ!」 鈴谷は熊野にすがりついてもはや涙声で訴えている。けれど、熊野はふうとため息を一つついただけだった。 「ねえ、何ため息ついてんの!?」 「こんなに愛していますのに、伝わらないことってあるんですのね……」

2014-04-16 00:30:24
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

えっ、と鈴谷が固まった。またこれかと私も内心ため息をつく。 「全ては愛する鈴谷に綺麗になってもらいたいためでしたのに……」 「え、あう……やっ、でも……」 憂い顔でため息をつく熊野を前にして、鈴谷がゆでだこのようになっていた。青葉の背中を押し、二人を残して私たちはその場を去った。

2014-04-16 00:35:54