「千の想いを」～第三章・境界・固定イベント「演習」#2～

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

【バトルパート２　長門陸奥vs龍田天龍】

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

――先行する長門の斜め後ろで後続しながら、陸奥は疑問を浮かべ答えを求めるように目の前の背中を見詰める。長年見続けてきた背を、追い続けてきた背を。問いを言葉にするのは容易ではあったが、それはしなかった。 遥か前方では既に戦いが起こっている。絶え間無く銃声と爆音が聴こえてくる。

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

疑問。 どうして自分達はまだこの位置にいるのか。 他の４人に較べて自分らは船足で及ばないのはわかっている。榛名と夕立と名乗っていた２人に至っては並べる艦娘の方が稀であろう。 が、明らかに姉は全力で進んでいない。とうに戦線に参加できていてもおかしくはない筈なのに。

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

何かを、待っている。自ら戦いの中心に赴き相手を倒す前に、何かが訪れるのを待っている。 陸奥はそう判断した。逆に、それ以外の理由がどう考えても見当たらなかった。 答えが出たのなら、自問はそれで終わる筈だ。 が、陸奥にとって『長門を待たせる何か』の存在が気に入らなかった。

長門＠指輪 @BIG7_NAGATO1

@tiyodadayo 陸奥、いつ会敵してもおかしくはない。 気を抜くなよ？

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

振り向く事もなく告げられた言葉に『自答』はいよいよ『確信』へと変わる。 会敵を望んでいる。何者かが自分達に挑んでくるのを待っている。いや、それどころか『楽しみにしている』。姉が。長門という名の最強が。 それが、気に入らない。 敵は戦闘経験も碌に無い支援艦隊だというのに。

陸奥 @erxtcyvubyvubin

@BIG7_NAGATO1 @tiyodadayo え、ええ…分かっているわよ。 何時までも新人扱いしないでくれるかしら？

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

返答がすらりと言えなかった事をかすかに悔いる。佐世保から戻ってきて、自分の成長を見てもらえる機会だと思っていた今回の演習が、開けてみれば相手は支援艦隊だという時点で陸奥の中でわだかまりは既に生まれていた。ならば速攻で終わらせてみせようと意気込んでいたというのに。

長門＠指輪 @BIG7_NAGATO1

@Mutsu_bs1 @tiyodadayo ふっ、そうだったな。 佐世保での活躍はよく耳にしていたよ

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

…。 陸奥が一度瞼を伏せ、静かに開く。 佐世保での自分の話、届いていてもおかしくはない。むしろ届いていないわけがない。それだけの活躍と実績を果たしたと自他共に驕りを抜きにしても認めている。 同様に姉の話も聞いていた。 そう、聞いていた。 姉の武勇は嫌が応にも知れ渡る。

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

向こうで長門に憧れる艦娘もいた。決して少なくはない。 それは同時に自分にも影響を与える。 曰く、 「長門さんの妹なんだ、いいなぁ」 「長門さんのサインをもらってきて下さい」 「長門さんの妹なんだから強くて当然よね」 「長門さんの」「長門さんの」「長門さんの」「長門さんの」。

陸奥 @erxtcyvubyvubin

@BIG7_NAGATO1 @tiyodadayo 　ザ　 コ 軽巡や重巡をいくら狩ったって…長門の戦果に比べれば微々たる物よ…

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

上官や彼女らの言葉に悪意が無いのはわかっている。単純に好意や善意なのは理解している。皮肉がゼロであったかと聞かれれば、悲しきかな人の世、皆無というわけにもいかないが。 どれだけ敵を屠っても、どれだけ強くなっても、どれだけ名を上げても、姉の名が付属されてきた。

長門＠指輪 @BIG7_NAGATO1

@Mutsu_bs1 @tiyodadayo はぁ…やれやれ、そんな事では足元を掬われるぞ？ （良かれと思って佐世保に行かせるよう提督に頼んだが逆効果だったのか…？）

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

疎ましいわけではない。嫌なわけでも不満なわけでもない。 姉を尊敬し、姉の背を追ってきた自分にとって、姉の名と並べられる事は嬉しく思っていた。誇りにすら思っていた。 故に。 今回の演習も姉の力と姿を、改めて実感できる機会だと思っていた。

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

陸奥が目を細めて前方を注視する。 軽巡とは信じられない程に重武装している薄緑の娘が見えた。 水上移動に無駄な運動が多い栗色の娘が見えた。 それの後ろに続く、弓を携えた小柄な娘が見えた。 ウェーブのかかった髪と眼鏡が特徴的な娘が見えた。 向こうからは自分達を視認できてはいない。

陸奥 @erxtcyvubyvubin

@BIG7_NAGATO1 @tiyodadayo 余計なお世話よ、この先どんな相手でも私一人で十分。 長門には悪いけど、出番はないわ …姉さんに私の気持ちは絶対に分からないわ（消え入るような小さな声で

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

強い口調で返し、足を止める。気配を察して長門も立ち止まり、振り返る。 姉の視線を受けながら、陸奥は専用の大砲を背から降ろし、腰を落として構える。名のある芸術家の彫った彫刻のように、無駄を一切合切削ぎ落とした完璧なフォーム。 普段であれば九一式徹甲弾を籠めるが、流石に今回は違う。

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

距離はたいした事ない、と彼女は判断する。 並の艦娘であれば「無理無理」と即座に手を振る距離ではあるが。 同じ程度の距離で何度も当ててきた。嵐で激しく揺れていようと、敵に囲まれていようと。 目標を見定める。どれも鈍重で、動きも単調。狙われている事に気付いていないとは言え、粗末。

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

目線をずらす。世界で最も尊敬する存在へと。 砲撃に許可を必要とする旨はこの演習では下されていない。事実、今戦闘を行っている４名はほぼ好き勝手に戦っている状態だ。 ここから狙撃する事に問題があろうはずがない。 それでも、陸奥は長門の言葉を待った。

長門＠指輪 @BIG7_NAGATO1

@Mutsu_bs1 @tiyodadayo …好きにするといい。 ただし、奴らを深海棲艦と同じだと思うと大怪我をするぞ。 （私の判断は間違っていたのか…！　くそっ！）

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

長門の表情に変化があったわけではない。世界の誰も彼女の内心を読み取る事なんて叶いはしないだろう。 それでも陸奥には理解できてしまった。 肉親同士だけの理屈を度外視した察知と、死線を幾度も超えた者だけが持てる五感の超越と第六感の成長が、両方併さる事で心情を読解させた。

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

『無駄だ』。 長門は陸奥の砲撃に対して、そう判断していた。 瞳を、見開く。 標的はこちらに気付いてもいない。気付いたところでどうしようもない。 ならば何故この砲撃が無駄になる？ 避けられる？　かわされる？　防がれる？ いやいや違う。 外す？　外すから無駄になると？

陸奥 @erxtcyvubyvubin

@tiyodadayo 所詮は支援艦隊ね。この一撃で決めてあげるわ！ 主砲、副砲一斉射！

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

引き金を引く。 主砲と副砲から放たれた２発の弾道は陸奥の読みと寸分違わず、脳内に描いた放物線を完全になぞって風を切る。 数秒も経たない内に、あの軽巡と妙な気配を持った航空母艦は意識を失うだろう。少なくとも戦闘続行は不可能となる。 外す？　無駄？ そんな事は、有り得ない。