「千の想いを」~第三章・境界・固定イベント「演習」#4~
- mamiya_AFS
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天龍の斬撃を腕甲で防ぐのも何度目だろうか。長門は静かに考える。 防具の対刃性能は確かに優秀ではあるが、砲弾すら一刀で両断した天龍の太刀筋に本来ならとうに限度を超えている筈だ。刃が触れる瞬間に腕をわずかに引き、衝撃を逃す事のできる長門だからこそ、いまだ形状は保っているに過ぎない。
2014-03-29 20:00:24戦い始めてからまだそれ程の時間は経っていない。 だが長門は既に天龍と龍田の強さの本質を見抜くに至っていた。 真逆の方向で極められた2人の『武』の完成形を。 『剛と柔』の体現であるかのような姉妹の戦い振りに、長門は素直に驚嘆し敬意を覚える。 途方も無い程の努力と鍛錬が見えたから。
2014-03-29 20:09:18天龍の返しの裏側で意味する所を読み取り、長門はわずかに辛いものを胸に感じる。 天龍の攻撃は誰が見ても凄まじいものだ。異を唱える者はいないだろう。 それでも長門には理解できた。彼女の腕力と膂力はそこまで高い域ではない。 その能力に限れば、夕張や鬼怒達の方が上であろう。
2014-03-29 20:14:24つまる所、天龍の攻撃力は他の能力に起因していた。 単純に、彼女は長門以上に『目が良い』。 これを述べたとして、首を傾げる者は多いだろう。 何しろ天龍は片目を失っており『視野』と『遠近感覚』を半分以上失っている。これは艦娘としては致命的な欠点と言える。
2014-03-29 20:19:18表現を変えよう。視力の問題ではない。いや、片目分でも視力や動体視力は異様に高いのだが、本題はそこではないのだ。 隻眼となったからこそ身に着けた能力かも知れないが、彼女は瞳孔で得る事の出来る情報によって形成される世界の、更に上の次元で世界を見ている。 否、感じている。
2014-03-29 20:23:50その証拠に、天龍は右から受ける攻撃よりも、左から受ける場合の方が『反応が圧倒的に速い』。 左目が見えていないのだから、当然左は死角となり、速くなるどころか遅くなるのが通常だ。むしろ、そもそも反応できないケースもあるだろう。 だが天龍は反対に、左側こそ超反応を示す。
2014-03-29 20:26:56微細な音も聴き逃さない聴覚を始めとして、嗅覚や肌で感じる空気の移動すらも情報として処理しているのは間違いない。本人は感覚でしか掴めていないであろうが、既に『視覚』が到達できる限度を超えて、零細に天龍の中で世界を築かせている。 自分も目を抉ってみるかな、と長門が戯言を思う程に。
2014-03-29 20:34:16総合して天龍は敵の隙を決して見逃さない。どんな達人であっても隙や視覚は果てしなくゼロには近付ける事はできても、決して無くなりはしない。これは道理であり必然。天龍はそれを『認識』できる。その一点が彼女の強さに他ならない。 実際、長門の全身には幾条もの斬り傷が刻まれている。
2014-03-29 20:38:21同時に天龍の能力は『剣』という彼女の戦闘スタイルを昇華させるに至っている。 豆腐を手の平の上で切った時の事を思い出してほしい。包丁は、皮膚に強く押し付けたとしても『切れない』事は知っているだろう。 これは剣や刀にも同じ事が言える。 引かなければ、刃は何も斬れない。
2014-03-29 20:43:44斬りたい対象に刃が触れた刹那の瞬間に、得物を引く技術。 達人と呼ばれる偉人達は、これが見極め実演できる者を指す。 考えてもみてほしい。彼女が扱う銘刀がいかに優秀な刀であったとしても、飛来する砲弾に刃をぶつけただけで斬れるわけがない。有り得ないのだ。
2014-03-29 20:47:19先刻の離れ業を実現させたのは、天龍の目の良さによる『見切り』と、積み重ね続けた鍛錬があって始めて可能となる。 自己の能力と特性を理解し、ただひたすらに闇雲に我武者羅に究め続けた1つの完成形なのだ。
2014-03-29 20:50:39@15tennryuu @tiyodadayo そうか…だがそうであったとしても、ここまで良く鍛え上げたものだ。 十分賞賛に値するよ
2014-03-29 20:18:31再び雷鳴の如き斬撃を振るう天龍を迎え討ちながら、長門は横で同じようにぶつかり合う妹と天龍の姉を見据える。 向こうもまた、一進一退の攻防を繰り広げ続けていた。
2014-03-29 20:57:05薙刀を構え、龍田が一歩踏み込む。豊富過ぎる戦闘経験故に、反射的に防御へと傾く陸奥の身体と意識。それを嘲笑うように龍田は脱力を明確に示して踏み込んだ足を戻す。気勢を削がれる形で一度傾いた戦闘態勢をニュートラルへと戻すその瞬間に、龍田の操る刃先は始めて陸奥の急所を狙って振るわれる。
2014-03-29 21:04:25恐るべき反射能力で以ってギリギリで回避し、攻撃後に絶対に生じる隙を狙って拳を突き出す。 陸奥の放つ一撃は余裕で相手の身体の一部を破砕する筈なのに、ひらりと舞い上がり回避され、振り抜いた腕に腰を降ろされ、ひらひらと手を振られる始末。 完全に弄ばれていると言えた。
2014-03-29 21:10:43苛立ちと共に腕を振り払うが、既に相手は宙返りをする余裕を見せながら逃れている。 本来ならどうしようもない筈の着水の瞬間を狙っても、何故か軌道上で待ち構えられている柄に弾かれ、滑るように移動する龍田を捉えられない。
2014-03-29 21:14:11@Mutsu_bs1 @tiyodadayo 刺し違えるだなんて…だったら、尚更負けるわけにはいかないわぁ〜 天龍ちゃんの前で、辛い顔なんて、楽しくなさそうな顔なんて、絶対にできないもの…!
2014-03-29 21:03:18背中を見せたと思ったら攻撃が飛んでくる。 攻撃が来ると踏んでカウンターを試みても、最初から防御に専念されている。 攻めると見せ掛け引き、引くと見せ掛け攻める。 文字にするのなら簡単だが、実際に体現して相手の裏をかき続ける手練れは、そうはいない。
2014-03-29 21:18:36