病理医ヤンデル先生の診断について
@Dr_yandel 質問なのですがら手術前にどんな病気なのか診断するのはわかるのですが、手術後に切り取った部位を診断する意味ってどんなのがあるのでしょうか。例えば胃がんで切り取った胃のどのようなことを調べるのでしょうか
2014-05-21 12:34:16「手術前にどんな病気か診断する」のはわかるが、「手術しちゃったあとで診断してどうするの?」という質問 たいへんよくわかります。ところが現代医学というのはこの「診断という行為をいろいろなきっかけで繰り返す」ほうがむしろ当たり前なのです。それをこれから説明します。
2014-05-21 12:44:06世の中には、「診断というのは一種類で、わかるかわからないかはともかくどこかに『真の診断』というのがあり、その診断はずっと覆らない」というイメージがあります。ところが、実際には「診断というのは非常に長い作業で、治療を行いながら少しずつ精度を高めていかなければいけない」のです。
2014-05-21 12:45:14一例として先ほど質問であった胃癌をとりあげます。胃癌というのは何種類もの治療法がありますが、これは「胃癌がどれくらいすすんでいるか」によってそれぞれ「お勧め度」がかわってきます。
2014-05-21 12:46:58「すでに転移している可能性が高い胃癌」に対して、胃カメラで狭い範囲だけを切り取ってくる治療はあまり意味がありません。逆に、「ほとんど転移の可能性がない胃癌」に対して胃を全部とってしまうのはちょっと乱暴です(一部でもいいかもしれない)。
2014-05-21 12:47:40同じ胃癌と言っても、「どれくらい進行しているか」によって、その治療は変えられるべきです。この「進行度」については、手術の前に十分に検討するのですが、手術の前に「全ての決着をつけておく」ことはできません。
2014-05-21 12:48:40画像に写らない狭い範囲でどんな変化が起こっているかはわかりません。細胞レベルでの「凶悪性」の違いはそもそも画像にはなかなか反映されません。リンパ節などへの転移の有無も、術前検索の精度は高まっていますが完全ではありません。
2014-05-21 12:49:33全ての疾患において、「現在の医療では100%予測が不可能」な面があります。では、100%予測が不可能なら治療はできないのか、というとそうではありません。「いろいろな確率を天秤に掛けた上で、もっとも患者さんにとってメリットが大きいと思われる治療をまず選択」します。そして……
2014-05-21 12:50:37「治療の過程で得られた臓器(手術検体や、生検検体)」という、「非常に多くの情報を含んでいるヒント」を病理医がすみからすみまで検索することで、「術前には知り得なかった情報」を拾い挙げると同時に「術前検討の妥当性について評価し、精度管理する」ことができます。
2014-05-21 12:51:44まとめると、「臨床診断」に「病理診断」を足し合わせることで、「不確実な中でよいと思って進めた治療にさらにオプションやマイナーチェンジを加えることができる」ということです。
2014-05-21 12:53:12転移の可能性が高いとわかれば、手術後にCTやMRIなどの検索をする頻度(何ヶ月に一度やるか)などを変更したりできます。手術のあとに抗がん剤や放射線療法を追加することもできます。
2014-05-21 12:53:39医学生や医師であればわかる用語としては、 「検査前確率」×ある検査の尤度比=「検査後確率」という計算を繰り返して(ベイズの定理を用いて)診断を進めていくのと同じイメージで、 「臨床診断」×病理診断による尤度修正=「総合臨床診断」を行う、ということになります。
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