即興小説”深夜特急”「ホーフィンチ」

立夏🕊獣の仕業/D.C.Inhighs @ritsu1125

今夜の深夜特急は前編を立夏が書いて後編を伊織さんが書く合作 【前編:立夏】6/5（木）24:00-25:00 【後編:伊織】6/7（土）24:00-25:00 タイトル、内容は即興ですので勿論未定ですが、ぼんやりと「童話」を書こうとだけ決めています。 #深夜特急24

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Twitter即興小説深夜特急「ホーフィンチ」前編（writer立夏） #深夜特急24

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ホーフィンチ1◆ええ、ひときわ冷たい風が吹いたならこの村には霜が来ます。 朝一番外を歩く人の早朝六時くらいの足音がしゃくしゃくと霜柱を踏みしめているのが聞こえてきます。 その人は水や氷菓子売って生計を立てていますから朝露の研ぎ澄まされたのを滝の下まで採りに行きます #深夜特急24

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ホーフィンチ2◆私はこの家の長男です。生まれも育ちもこの村です。一年出稼ぎに行っておりましたので貴方とはすれ違いでした。 ここに私の妹がおります。 妹は冬になると雪になってこの辺りに吹き抜けてしまうので今は姿を見ることができません。 #深夜特急24

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ホーフィンチ3◆もし時候が良くて目に見える姿だったとしても全身がふわふわの茶色いむく毛で覆われてボールのようにじっと転がっているので一緒にお手玉で遊んだり言葉を交わしたりは難しいのです。 妹がこのようにしているのは数年前の丁度やっぱりこのくらいの冬の始まりでした。 #深夜特急24

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ホーフィンチ4◆その日は意外に暖かくてついうっとりとしてしまったので私達兄妹は布団を敷いて早々に眠りについたのです。 風が強くて銀杏の葉が家の奥までかさかさとやってきておりました。なまぬるい風でした。 #深夜特急24

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ホーフィンチ5◆私は夢と現世の間を行ったり来たりしながら妹の寝息を時折聞いていたのですがふとそれが止んだので何故だか胸騒ぎがして妹の方へ体を向けました。 妹は布団から上体を起こして遠くに見える満月をぼうっと見つめていました。 #深夜特急24

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ホーフィンチ6◆怖い夢でも見たかと私が声を掛けても妹は振り返りもせず、ただ山間を風がごうごうと鳴る音が私たちの夜の上を通り抜けていくのでした。 #深夜特急24

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ホーフィンチ7◆「ざんぶりがくる」と妹は言いました。そうして風の端を追い駆けるように視線をさっと西の方へ動かすのと一緒に鈍色の煙を吹かして米袋くらいの大きさの毛玉に変身したのです。 #深夜特急24

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ホーフィンチ8◆私達にはたくさんのお金が必要になるようになりました。 何しろ毛玉になった妹は良く食べるのです。私は紅葉や楓を採ってくるのはできましたが、虫のやり方は分かりません。そこで運良く蜘蛛やバッタを数匹持って帰っても見る間もなしに平らげられて、 #深夜特急24

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ホーフィンチ9◆ああ早くヤマメや鮎の肉が食べたいと言うんです。妹はこれまでそんな風に言ったことはなかったんでびっくりしてしまいました。私に魚を獲るなんてできませんから友人や知り合いにお願いするんです。 #深夜特急24

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ホーフィンチ10◆でも彼らは私の採った木の実や葉っぱは要りませんから自然お金が必要になりました。 こつこつと貯めていたお金がなくなってしまったものですから出稼ぎに行くと妹に告げました。すると妹は急に吹雪に姿を変えて家の中をびゅうびゅう吹き荒れるのです。 #深夜特急24

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ホーフィンチ11◆手紙や羽根飾りのついた外套が部屋の中をぐるぐる舞って私はそれが外に飛んで行かないように必死で抑えていました。 一年で戻ってくると何度も説得してようやく吹雪は止みました。 #深夜特急24

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ホーフィンチ12◆家中が雪塗れになって書籍の類はすぐに外で石で伸ばして干しておかなければなりませんでした。 せっせと本を運び出す私の背中に妹が言いました。 「ざんぶりが」 #深夜特急24

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ホーフィンチ13◆振り返ると妹は見た事のない大きくて真黒な鳥になっていました。「ざんぶりが帰ってくるよりも先に戻ってくるんだ」それだけ言い残すと妹はたくさんの土埃を巻き上げて西の空へ飛んで行き次の日の夕方までうちには戻りませんでした。 #深夜特急24

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ホーフィンチ14◆その晩は月が一層美しくて私と妹は震える月を一心に見上げておりました。 妹は何処まで飛んだのでしょう、分かりませんが黒い翼にはガラスのような雪解けの粒がきらきらと輝いておったんです。 #深夜特急24

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ホーフィンチ15◆兄様は、と、妹は月明かりのように清かに、小さな声で私を呼びました。 「兄様は何かが起こってすっかり終わってしまってから、『あれの原因は何々だったに違いない』と言うんだ」 私は兄様とは反対なんだ、と妹が言いました。 #深夜特急24

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ホーフィンチ16◆「私には何かが始まるときに、その始まりの行き着く先のことが分かる。ざんぶりが来ると、ここには何も無くなる。兄さんの好きな紅葉も楓も、キタキツネの可愛らしい足跡もみんな消えてしまう」 #深夜特急24

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ホーフィンチ17◆私は妹に、ザンブリとはなんなのかと聞きました。妹が応えない間、とても長い時間が経ったようでした。風に吹かれた粉雪が、か細い筋を付けながらさらさらと音を立てて小道を転がっていきました。 「人間よ。灰色の姿をした、大きな人間」 #深夜特急24

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ホーフィンチ18◆妹はそういった切りになってまたゆっくりと毛玉になってそのまま小さくなって見えなくなりました。翌朝日が昇る頃に私は出かけました。妹は朝の涼風になって私の緑のスカーフを揺らしていました。 #深夜特急24

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ホーフィンチ19◆でも私はそんなのは全然気にならないみたいに胸を張ってずんずんと歩いていきました。あっという間にお腹が空いてきて、昼間に食べようと思って持ってきたのを今すぐ食べたいような誇らしい気持ちでした。 #深夜特急24

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ホーフィンチ20◆村の境目になっている小川の橋を越えた時でした。端の上に人間のはだしの足跡がありました。それを見たら急に不安な気持ちになって、今までの意気揚々としたのも途端にしぼんでしまって心細くて、私は家に戻って妹の膝で眠りたいような気持ちになりました。 #深夜特急24

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ホーフィンチ21◆胸がどきどきして泣き出したいような気持ちで走り出して、そのまま橋を渡ろうとすると強い力で私は橋の手前に押し戻されました。そこにははだしの足跡がありました。私は私を射抜く強い視線を感じたのです。足跡が、動き出しました。 #深夜特急24

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ホーフィンチ22◆足跡はぺたり・ぺたりと音を立てて、村のほうへと進んで行ったのです。 #深夜特急24

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ホーフィンチ23◆ざんぶりが来て何もかもがすっかり終わってしまってから私はよくひとりぼっちで考えるのです。ひとつはあの足跡は足跡ではなかったんだということです。もうひとつは妹の翼に付いていたガラスは雪解けの粒なんかではなくて妹の涙だったのだということなんです…。 #深夜特急24