西沢大良による故黒沢隆への追悼文

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西沢大良 @tairanishizawa

5日前、建築家・黒沢隆が3ヶ月前に亡くなっていたという衝撃のニュースを聞く。しばらく黒沢さんのことが頭から離れない。 いま黒沢さんを研究する若者がいるのかわからないが、黒沢さんの仕事について、思うところをツイートします。(追悼文がわり)

2014-06-09 04:21:27
西沢大良 @tairanishizawa

→黒沢さんは頑固なモダニストでしたが、なぜあんなに頑固だったのかと言えば、「英国」の近代を重視していたからです。つまり、「近代の発生」を重視していたからです。米国や独仏の近代は、ことその点においては二番煎じです。黒沢さんにとって近代建築の根拠は「英国」の近世末期にありました。

2014-06-09 04:22:19
西沢大良 @tairanishizawa

→近世がどれほどのたうち回って近代を生み出したかは、英国の18〜19cを見るとわかる。だから黒沢さんが近代建築という時、20cの米独仏の例よりも、19c以前の英国の試行錯誤を念頭においていた。また黒沢さんが工業化という時も、20cの重工業よりは19c以前の軽工業を念頭においていた

2014-06-09 04:23:26
西沢大良 @tairanishizawa

→だから黒沢さんは、近世の英国で起きた出来事はほぼ全て知っていた。ある意味で黒沢さんは、アングロマニア(英国趣味)だったと思う。事実、好んだ飲み物もファッションも思想も、イングリッシュ・トラッドだった。黒澤さんの近代建築にたいする評価は、英国で暮らすアッパーミドルのようだった。

2014-06-09 04:24:23
西沢大良 @tairanishizawa

→もちろん黒沢さんは、他国の近世についても膨大な知識をもっていた。日本の近世についてもよく知っていた。何度かお会いした時、さすがにこれは知らないだろうと思ってレアな話題を降ると、即答で詳しい解説と評価を返されて、唖然としたことが何度もある。

2014-06-09 04:25:07
西沢大良 @tairanishizawa

→日本の室町から戦国(近世建築の前半史)に生じた建築の変化についても、どこで調べたのか分からないというほど良く知っていた。しかも、トドメに「この時代にも当時なりの個室群が発生したわけです」とニヤリと笑って総括されて、あやうく説得されかかったことがある。あの証明は強かった。

2014-06-09 04:26:38
西沢大良 @tairanishizawa

→黒沢さんの個室群住居は、だから「家族の解体」みたいな目先の話ではないのです。「家族の何々」と言う建築家は、今の家族を前提にあれこれ考える。でも黒沢さんの頭のなかには「家族」なんてものはない。「家族」にアプリオリな価値を置かないことが、いわゆる住宅作家との違いです。

2014-06-09 04:27:22
西沢大良 @tairanishizawa

→黒沢さんの頭にあったのは、50年後か150年後かわからんが、かならず人間は個になるというもの。そうなるまで核家族なりDINKSなりが生じるが、それらは幼虫が成虫になるための生みの苦しみだと。つまり家族とは、幼虫と成虫の間のサナギのような仮死状態だ、というパースペクティブです。

2014-06-09 04:29:06
西沢大良 @tairanishizawa

→だから個室群住居を見るには、モダンリビングのように見てはならないのです。むしろ熱力学の第一法則のように見るべきです。エネルギー保存則のような客観性をもって、善悪を超えて人間は個になります、というのがあの住宅。その時のために、今から実験を積み重ねておきましょう、という実験住宅です

2014-06-09 04:29:35
西沢大良 @tairanishizawa

→もちろん黒沢さんは生涯、自作の個室群住居に住んでいた。私(西沢)は黒沢さんのパースペクティブに完全に同意したわけではないけれど、日本に黒沢さんのような建築家(歴史家でなく建築家です)がいてくれたことを誇らしく思う。合掌。

2014-06-09 04:30:20