ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ:10100108 フェイト・オブ・ザ・ブラック・ロータス #2

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ:10100108 フェイト・オブ・ザ・ブラック・ロータス】#2

2014-06-09 23:05:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

闇の中、UNIXメインフレーム群のLED光がホタルめいて明滅する。そこは大ブッダ座像の背後に聳え立つ、制御モノリスの内部。そこに宗教色は一切存在しない。窓の無い壁ぞいに整然と積み上げられた無数のUNIXは、タワー型駐車場めいて格納された車か、あるいは旧式の電子墳墓を思わせる。 1

2014-06-09 23:12:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

地階より上に床は無い。代わりに、中央部には太い銀色の柱が一本立ち、回転昇降リフトが備わっている。本来、これらのUNIXで作業しようとする者は、地階からリフトに乗り、目的のUNIX端末まで上昇せねばならぬ。しかし彼女は、屋上からロープに吊られた状態でハッキングを行っているのだ。 2

2014-06-09 23:17:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼女はどこからこの制御室へと侵入したのか?……屋上である。地上階は、荘厳な黄金マンダラやオブツダンで装飾された二足歩行兵器ホーリー・ヤブや、聖職者用拳銃で武装したクローンヤクザボンズによって守られているからだ。……では、彼女はいかにしてこの制御モノリスの屋上に到達したのか? 3

2014-06-09 23:23:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……答えは無論、ニンジャの力である。だが彼女自身がニンジャというわけではない。彼女の名はナンシー・リー。アマクダリ・セクトの非道行為を暴くフリージャーナリストにして、試算懲役数千年のヤバイ級ハッカーだ。そしてナンシーは、対ソウカイヤ時代からのニンジャスレイヤーの盟友でもある。 4

2014-06-09 23:29:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『何もかもが、ブディズムの皮を被った紛い物ね。ブッダもさぞ怒ってるでしょう』ナンシーは深呼吸しながら端子を引き抜き、静かに壁を蹴って姿勢制御を行った。額の汗を拭う。『褒められるのは、インセンスくらいなもの』かすかに漂うオーガニック・センコの香りが、彼女のニューロンを慰めた。 5

2014-06-09 23:38:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーはサイバーサングラスに表示された猶予時間を見る。『少し遅いんじゃないかしら、ニンジャスレイヤー=サン』……2時間前、彼女はネオサイタマの死神と共に、この制御室へ密かに侵入した。むろん、彼がいなければ脱出は不可能である。そして今、彼女の横にニンジャスレイヤーの姿はない。 6

2014-06-09 23:47:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

作戦失敗は死を意味する。だが彼女はまだ取り乱さない。手元の自動ウィンチを操作し、巧みに五段上の端末へ到達する。今日のために、彼女はクライミングロープの入念なトレーニングを行ってきた。『でも、なるべく早くして頂戴ね……』彼女はスゴイテック社製のケーブルで直結接続し、ダイヴした。 7

2014-06-09 23:58:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

01110111011……ナンシーの論理肉体は72個のファイアウォールを欺き、制御モノリス内を飛翔する。彼女の目的はふたつ。ひとつは無論、この施設の制御システムを手中に収める事。もうひとつは、タダオ大僧正がソウカイヤ時代から行ってきた非道行為や違法行為のデータを回収する事だ。 8

2014-06-10 00:05:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーは多次元マンダラめいて視覚化されたシステムの奥深くへと辿り着き、顔をしかめた。『どうも、胸が苦しくなるわね』……集められた少年ボンズたち。その背に刻まれた管理用ブディズム・タトゥー。成長とともに濁る彼らの目。記録抹消。システムの奥深くに格納された、隠蔽の痕跡。 9

2014-06-10 00:16:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーの青くロジカルな瞳にも、しばしば炎が燃える。タダオ大僧正は己の地位とマネーのために、数々の社会不正を行ってきた。そうした邪悪光景も無論、彼女のジャーナリスト信念を突き動かす。だがそれよりも強く彼女の魂を揺り動かすのは、よりシンプルな、弱者を虐げる権力への怒りである。 10

2014-06-10 00:28:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そこから通信制御系へ接近したナンシーは、論理視界に不穏な電子ノイズを感じた。外部からのアクセスだ。強大なハッカーの気配!『**素早い茶色の狐が怠惰な犬を飛び越す**……!』それゆえ彼女は、光の如きタイプ速度でハッカー・チャントを唱え、瞬時にサーバ間を移動して身を隠したのだ。 11

2014-06-10 00:37:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーは追跡された草食動物めいて警戒した。『……逃げ切れたかしら?』物理肉体にまで震えが生じている。WHOISを叩くまでもなく、彼女はその宿敵の名を知っている。……アルゴスだ。アマクダリ・セクトが擁する、恐るべきハッカー。そしておそらくは十二人のひとりだ。 12

2014-06-10 00:45:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アルゴスの気配が消える。『……どうやら、目的は私じゃなかったみたいね。定時通信かしら。それとも、緊急通信?』ナンシーは再び飛翔を開始した。この正体不明の敵、アルゴスによるネオサイタマIRC 監視は極めて強力で、隙がない。ゆえに今回の作戦では、潜入ハッキングが必須だったのだ。 13

2014-06-10 00:56:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーは再びビズに取りかかった。ハッキングは順調だ。だが作戦はどちらかが失敗すれば終わる。猶予時間が刻一刻と過ぎてゆく。『ねえ、どうしてるの?』流石の彼女も、じりじりと不安感に苛まれ始めた頃、ニンジャスレイヤーからの通信が届けられた。『ナンシー=サン、1個目の旗を掲げた』 14

2014-06-10 01:08:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……一方その頃タダオ大僧正は、サキハシ知事の緊急入院を受けて開催された、ネオサイタマ・ブディズム界のIRCサイバー円卓会議に参加していた。これに参加するのは、ネオサイタマの各教区にカテドラルを持つ有力アークボンズたちだ。 15

2014-06-10 14:08:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フォホホホホ……そのようなわけで、ブッダの慈悲により、サキハシ知事は一命を取り留めました。現在の政治体制には、いささかの揺らぎもありません。すなわち、戦争継続です。そのケアを何よりも優先し考えねば。市民の心のケアを」「なるほど」「一理ある」他のアークボンズたちが同意した。 16

2014-06-10 14:15:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「よって、電子ハカバ計画とサイバー・ネンブツ計画の倫理問題解決を全力で押し進めたい」「なるほど」「一理ある」タダオ大僧正は参加者の反応を見て、満足げに頷いた。彼の目には、ホログラフ投影される他のアークボンズたちの顔が、数字にしか見えない。数字、すなわちマネーパワーである。 17

2014-06-10 14:20:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「…しかしサイバー・ネンブツ計画は、危険な電脳麻薬の類では?」勇気ある声があがった。トコシマ教区のスナオカ大僧正だ。バックにどこかの暗黒メガコーポがついたか、あるいは聖職者の矜持か?タダオにとってはどちらでも同じだ。このような弱小マネーパワーが己を邪魔立てすることが許せぬ。 18

2014-06-10 14:26:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ではブッダの聖句を引用しよう。我々は、我々が考えた存在になれる」タダオ大僧正はスナオカの声を無視した。「されば、常に頭の片隅にブッダの教えをハードコードすれば、ブッダの事を常に考え、ブッダ状態に近くなる。ネオサイタマを安寧が満たす。それこそがサイバー・ネンブツ計画……」 19

2014-06-10 14:33:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それは許されぬ」スナオカは食い下がった。「重要なのは、個々人が己の頭で考える事だ。いかなる者になりたいかを」「そのような時代は過ぎ去った!今は暗黒と戦争の時代!誰もが追いつめられ疲弊しておる!マントラ唱える時間も無し!市民はもう十分に苦しんでおる!」タダオは声を荒立てた。 20

2014-06-10 14:40:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そして咳払いし、柔らかな笑顔に戻った。「我々は新たな選択肢を提供するだけだ。さもなくば、このような時代に悟りを開けるのはカチグミだけ。それではいけない。門戸を狭めてはならない。より多くの市民から、広く浅く、恒久的に、カネを……いや、信仰を集めなくてはいけない。そうでしょう」 21

2014-06-10 14:45:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「その通りだ!」「流石はタダオ=サンだ!」中堅マネーパワーの大僧正らが賛同した。カネもまた真理なのだ。タダオは手元のIRC端末に目を落とし、緊急通信を知る。「フォホホホ……では始まったばかりですが、私はこれで。後はよしなに……」「お待ちください」スナオカ大僧正が呼び止めた。 22

2014-06-10 14:50:31