『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』誤りと議論のポイント
-姉妹まとめ-
拙著『これでわかったビットコイン』、西部さん『貨幣という謎』、吉本さん・西田さん『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』、野口さん「仮想通貨革命」 #ビットコイン に関する本が出揃いました。それぞれよいことも書いてあると思いますが誤りや議論したい点があるのでまとめてみます。
2014-06-18 15:14:05吉本佳生さん、西田宗千佳さんによる『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』。経済と技術の両方の視点から書かれた意欲的な本だと思いますが、 #ビットコイン そのものに関する記述の割合が意外なほど小さく、またその部分に誤りが散見されます。
2014-06-19 05:56:03吉本佳生さん、西田宗千佳さんによる『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』。ブルーバックスで、ボリュームもある本なので、楕円曲線暗号の解説から始まるのかなと期待していたのですが、そうではありませんでした。この本には楕円曲線暗号は出てきません。
2014-06-19 06:01:39吉本佳生さん、西田宗千佳さんによる『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』。Kindle 版を読みましたので、以下のツイートでのページの参照は、2825を分母とする数にしています。
2014-06-19 06:03:08『「中本哲史」と名乗る人物が執筆した論文を元に…』 #吉本佳生 #西田宗千佳 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』133→よく見る表記ですが、本人は漢字で「中本哲史」を名乗ったことがあるのでしょうか。日本語版の論文には誤訳があり、書いたのは本人ではないと思います。
2014-06-19 06:11:06例えば、日本語訳された論文では最初の方で「暗号化された証明に基づく」と書かれていますが、証明が暗号化されていないことは本人ならよく分かっていることで、ここは「暗号学的な証明に基づく」などといった表現にするでしょう。
証明が暗号化されていないのは、誰でも証明を検証できることにビットコインのシステム全体が立脚しているからです。
(サトシが)『論文執筆以外のシステム開発に関わったかどうかも不明です』 #吉本佳生 #西田宗千佳 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』144→サトシ名義は、参照ソフトウェアのソースファイルに著作権表示がありますし、最初のマイニングに成功したのもサトシのようです。
2014-06-19 06:14:31#吉本佳生 #西田宗千佳 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』144→2010年の中頃までは、サトシは開発チームでの貢献があったといいますし、ソースファイルの著作権表示も "2009-2010 Satoshi Nakamoto" となっています。
2014-06-19 06:16:24『…マウントゴックス側の対応は不完全であり、本来は存在しない"ビットコインの不正な引き出し"が多数おこなわれたとみられています』 #吉本佳生 #西田宗千佳 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』578→表現が誤解を生みそうな気がします。Mt.Goxによる主張の件です。
2014-06-19 06:18:57#吉本佳生 #西田宗千佳 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』578→例えば「送金済みであることに気づかずに多重に送金した事例が数多くあったとマウントゴックスは主張しています」のような表現の方が誤解を生みにくいかな、と思います。
2014-06-19 06:20:15そしてこの主張は、スイスの研究者らによる解析で、事実ではないらしいことが分かっています。
では、実際には何が起こったのか、得られている情報からはなかなか読み取ることが難しいのですが、どういうことが考えられるかは以下のレポートで考察してみました。
http://member.wide.ad.jp/tr/wide-tr-ideon-bitcoin-transaction2014-00.pdf
『暗号化によって事実上、その中身をみたり利用したりすることができないデータ…ビットコインがまさにそれですが…』 #吉本佳生 #西田宗千佳 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』1109→ビットコインでは秘匿化という意味での「暗号化」は行われておらず、中身は見られます。
2014-06-19 06:22:30ビットコインで取引(送金)の内容が秘匿化されていないのは、本質的に重要なポイントだと思います。
なぜなら、そのことによって、ビットコインのネットワークに参加する誰もが取引の正当性を確認できるようになっており、そのことにシステムの健全性が立脚しているからです。
取引の内容が暗号化されている、という誤った見方に立つと、なぜビットコインのシステムが健全に維持されうるかという議論ができなくなると思います。
もちろん、実際に健全に維持されるか、というのは、他の設計上の問題もあり、それ自体が議論されるべきテーマだと思います。
『「中本氏」がどこまでビットコインのシステム開発に関わっているかも不明です』 #吉本佳生 #西田宗千佳 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』1171→もちろん匿名の人物の言動なので本人と言い切れませんが初期コードはサトシによるもので2010年まで開発に関わったようです。
2014-06-19 06:26:39『マイニング…により、「世の中にひとつしかないデータ」が生まれるわけですが、ビットコインの場合、その個数は有限で、理論上2100万BTC分、とされています。これは中本氏が決めた上限です』 #吉本佳生 #西田宗千佳 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』1195→矛盾が。
2014-06-19 06:29:13#吉本佳生 #西田宗千佳 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』1195→実際にサトシが決めたかも知れませんが2100万BTCという数は論文には出てきません。著者らはサトシが開発に関与したか不明と考えているのですから、決めたのなら論文に書いてあったことになり、矛盾します。
2014-06-19 06:32:13#吉本佳生 #西田宗千佳 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』1195→また「個数」という表現について、1 satoshi (10^{-8}BTC) を単位に考えれば確かに「個数」と言えるかも知れませんが、何を数えているかを明確にする必要があると思います。
2014-06-19 06:34:24『「秘密鍵(パスワード)」』 #吉本佳生 #西田宗千佳 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』1236→公開鍵暗号系における秘密鍵と、パスワードを読者に混同させるような書き方は、私はよくないと思います。
2014-06-19 06:36:35元の文脈を再現すると、
『ビットコインの消失を防ぐ方法もあります。ビットコインの暗号を解く「秘密鍵(パスワード)」を使う方法です』
とあり、この文の意味が取れません。
言うまでもなく、ビットコインの用語ではプライベートキーと呼ばれる秘密鍵と、その秘密鍵を保護するためにウォレットで設けることができるパスワードとは、異なる概念です。
プライベートキーが消失することが、それを用いることにより送金できるコインの消失に直結するわけですが、それをどのように防ぐと考えていらっしゃるのか、この前後の文章を読んでもよくわかりません。
『秘密鍵を知っていれば、自分がいまいくらビットコインをもっているかを把握できます』 #吉本佳生 #西田宗千佳 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』1236→秘密鍵を知っている必要はありません。公開鍵を知っていれば把握できます。もちろん自分の秘密鍵は保持している必要が。
2014-06-19 06:41:49正確には「公開鍵 (のハッシュ値) を知っていれば」ですね。
(ビットコインにおける「アドレス」は、公開鍵を特定の方法でハッシュ値にしたものです。)
下のツイートではそう書いています。
『当然ですが、他人には取引情報が覗かれることはありません。その反面で、秘密鍵を覚えていないかぎり、自分も取引情報を覗けません』 #吉本佳生 #西田宗千佳 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』1236→公開鍵(のハッシュ値)を知っていれば、他人でも取引情報を覗けます。
2014-06-19 06:44:14(取引手数料について)『…高い場合でも 0.001BTC…以下です』 #吉本佳生 #西田宗千佳 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』1280→確かに慣習的・相場的にはそう言えるかも知れませんが、手数料は送金側が勝手に決め、マイナーがそれを受け取るかを判断します。
2014-06-19 06:51:04#吉本佳生 #西田宗千佳 『暗号が通貨になる「ビットコイン」のからくり』1280→参照実装では、千バイト以上の取引データには千バイト毎に0.0001BTCの手数料を指定します。従って、希とは思いますが、10KB以上の取引データがあれば手数料は0.001BTCを超えます。
2014-06-19 06:56:54