朝ピノ3

朝ピノ3
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伊月遊 @ituki_yu

朝ピノ 三日目 私は今、とある大きな寺に居る。 先日より何故か記憶が良く飛びがちで、ふと気が付くと全裸でゴミ捨て場に眠る自分。これが連日続いているのだ。 流石に幾日と続けば無視はできない。この件を思い切って知人に相談すると、それは霊障の一種だという言われたのである。

2014-07-18 23:27:11
伊月遊 @ituki_yu

次いで、こういった事に詳しい人物を紹介するとして、ここを教えられたのである。 普段の私ならばその様な世迷い言、何を馬鹿なと一笑に付してそれで終いではあるのだが、あまりにも真剣に話すその知人を見ていると、どうにもそれが一概に嘘だと断じてはならぬ様に思えるのだ。 #朝ピノ

2014-07-18 23:31:00
伊月遊 @ituki_yu

「朝ピノ、ですか」 互いに座して向かい合う私と住職。 年の頃は三十の半ばを回った辺りであろうか。人と成りの良さそうな、柔和な印象の坊主である。 私は「ええ」とだけ短く答えると、住職は軽く「なる程」と頷いた。 #朝ピノ

2014-07-18 23:32:56
伊月遊 @ituki_yu

手元の湯飲みで麦茶を一すすり。 それから住職は顔を上げて、「近頃多いですね」と一言。 何の事だろうかと思うや、住職は「朝ピノ、ですよ」とため息をつく。 「最近巷では若者達の間で朝ピノが人気なのだそうですね」 「ええ、そう聞きます」 #朝ピノ

2014-07-18 23:36:47
伊月遊 @ituki_yu

「唐突な事をお聞きする様ですが、貴方はピノという名をどんな字で書くかご存知でしょうか」 「字?」 いきなりの質問に面を食らう。 そんなもの、ただカタカナで書く商品名であろう。ピノはどうやってもピノである。 #朝ピノ

2014-07-18 23:38:27
伊月遊 @ituki_yu

その事をそのまま口に出すと、 「広く知られる物はそうですね。しかし、その実は違うのです」 と住職は答えた。 「本来ピノという物は、毘納と書き、びのう、と読みます」 「びのう、ですか」 「はい。それが訛っていき、現代ではピノと呼ばれているのです」 #朝ピノ

2014-07-18 23:40:30
伊月遊 @ituki_yu

「元々は神道の教えから来ている物でして、毘を納めるという、つまり、魔除けの意味合いを込めたものなのですが、ご存じでしたでしょうか」 と言い、こちらをみやる住職。 魔除け、だと? ピノなどどこにでも売っている、ただの氷菓子であろう。突然何を言い出すのであろうか、この男は。#朝ピノ

2014-07-18 23:42:44
伊月遊 @ituki_yu

「五人です」 「えっ」 「貴方で五人目なのです。朝ピノについてこの寺に来た方は」 私は内心驚きを隠せなかった。 まさか、しかし。数秒の内に瞬く思考と否定の数々。それを塗り潰すように、住職は次の言葉を発したのだ。 「貴方も、全裸でゴミ捨て場に寝ていたのでしょう?」 #朝ピノ

2014-07-18 23:46:59
伊月遊 @ituki_yu

瞬間、私の喉から歪んだ音が鳴る。意識せずに息を飲んでいたようだ。 馬鹿な。何故。取り留めの無い思いが頭中を回る。 男の言葉は確かに事実だ。私は朝、全裸でゴミ捨て場に寝ていて、この寺に相談しに来た。 しかし、何故”一言も説明せずに、この男は事情を知っている”のだろうか。#朝ピノ

2014-07-18 23:51:15
伊月遊 @ituki_yu

「言ったでしょう。五人目だって。 貴方と同じ様に、全裸でゴミ捨て場に寝ていた方が四人。そして、その誰もが皆、朝ピノなるものを行っていたのです」 淡々と続ける住職の言葉とは真逆に、私の心の臓は息を吸うにも苦労するほど鼓動していた。 #朝ピノ

2014-07-18 23:59:56
伊月遊 @ituki_yu

「朝ピノとは本来、朝毘納という正式な儀式です」 いう言葉に始まり、蕩々と住職は説明する。 しかし今の私にその様な言葉は通らず、辛うじて理解出来た事といえば、素人が出鱈目にこの儀式の真似事を行えば、悪しき忌み神に取り憑かれてしまうという事だけであった。 #朝ピノ

2014-07-19 00:04:13
伊月遊 @ituki_yu

荒唐無稽な世迷い言。そう言えてしまえれば、どれだけ幸せな事であろう。 しかし幾ら否定すれど、心の底ではそれを既に認めて居るのである。 例え千の詐欺師であろうとも己自身に嘘は付けまい。 「単刀直入に言えば貴方は既に悪しきものに憑かれていて、この場で取り祓う必要があります」#朝ピノ

2014-07-19 00:10:10
伊月遊 @ituki_yu

と言い、おもむろに懐より何かを取り出す住職。それは一片のピノであった。 「マンゴー味にございます」 住職は言う。 #朝ピノ  pic.twitter.com/qQoryH8hG3

2014-07-19 00:15:32
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伊月遊 @ituki_yu

「これを、どうしろと?」 言わずともに既に分かっていた。しかし、聞かずには居られない。 「食するのでございます。貴方様が」 その答えは、一言一句全てが予想していた物であった。 食す。ただのそれだけである筈の行為が、今の私には到底遠い物に感じて仕方ない。 #朝ピノ

2014-07-19 00:18:35
伊月遊 @ituki_yu

「貴方がここで朝ピノなる物をすればまた悪しきものが湧き出でるのでしょう。そこを拙僧が封ずるという事です。如何か」 「しかし」 「辛い気持ちは分かります。しかし、今しか無いのです。今以外無いのです」 その後暫しの押し問答。その末、私は遂にこの場で祓いを行う事に決めたのだ。#朝ピノ

2014-07-19 00:22:04
伊月遊 @ituki_yu

「では……」 と小さな卓に置かれ、ずいと出されるは一粒のピノ。いや、毘納である。 このような物、特段気にせずとも良い。これは氷菓子。ただの氷菓子であろう。 そう心に言い聞かせようとも、やはりこれを目の前にすると、途端にマンゴーの爽やかな芳香が感じられてしまうでは無いか。#朝ピノ

2014-07-19 00:27:14
伊月遊 @ituki_yu

ふと意識してしまうともう駄目である。 なんの変哲も無いこの小さな和室には、気が付けば毘納の発する南国の香で満ち満ちていた。 まるでここだけが日本では無く、南国に浮かぶリゾートであるかの如き。 嗚呼、目を閉じればそこに、朱に染まるる地平の限りが見えてくるようでは無いか。 #朝ピノ

2014-07-19 00:31:19
伊月遊 @ituki_yu

「意識を強くお持ち下さい。毘に取り込まれ掛けてございます」 住職の言葉にハッと我に返った。 恐ろしい。またも自分を見失って居た様で、気が付けば額にはじっとりと脂汗が浮かんでいた。 竦むな。怯えるな。 「邪ッ!」 震える肩に活を入れ、一挙動の内に私はピノを口に入れた。#朝ピノ

2014-07-19 00:37:57
伊月遊 @ituki_yu

きたきたこいつよ、口ん中入れた瞬間にもう雄が疼いて仕方ねえ。もう完全に雄獣モードキマったっつーの。 「オーー!イイ!イィーーーー!」 たまんねぇぜ。 俺はすぐに全裸になって部屋の外に向かって走り出したのさ。 #朝ピノ

2014-07-19 00:41:45
伊月遊 @ituki_yu

そして外へのふすまに手をかけようとした次の瞬間、「活ッ!」っつーエロい声が背中ん方から聞こえてきたと思ったら、いきなり身体が動かなくなっちまった。 自分の身体を見るといつ付いたか分かんねえ紙切れやらがびっしり張り付いてて超ヤラシーぜ。 思うように動けねえ、スゲーヤベー!#朝ピノ

2014-07-19 00:45:09
伊月遊 @ituki_yu

少しの間ヤベーヤベーって盛ったのも束の間、今度はド派手な音立てて目の前の壁が吹っ飛んだ。もう壁粉々、木片とかもスッゲー飛んでてヤバいってハッキリわかんだね。 「よっ!良い朝ピノしてんじゃん!」 でもって見ると連結したマジ雄エロのガチムチ色黒六尺兄貴達が勃ってたのさ。#朝ピノ

2014-07-19 00:52:05
伊月遊 @ituki_yu

そいつら見た瞬間あっと言う間に身体が自由になりやがった。 背中ん方から「拙僧の法力が効かない!」とかエロ声が聞こえてきて超感じるぜ。段々盛り上がって来やがった。 「おめぇもピノ好きなんやろ!ほれ!」 兄貴達はガンガンと坊主の口にカッチコチのピノをねじり込み始めたのさ。#朝ピノ

2014-07-19 00:56:19
伊月遊 @ituki_yu

もう辛抱たまんねえぜ! そのまま本堂の方へ全力ダッシュして、金ぴか大権現の前で盛大な朝ピノ! 木魚でポクポク、般若心経の大連呼。一コールの度に解脱!解脱!って雄臭ぇうなり声と一緒にすげえ功徳が積めて、もういつ悟りを開いても分からねえ。菩提樹なんていらねえ、マントラ上等さ。#朝ピノ

2014-07-19 00:59:18
伊月遊 @ituki_yu

そろそろフィニッシュだ。 「おめぇら、雄、見せてみ!」 威勢の良い胴間声を合図に、次々と兄貴達がピノを口に放り込み出す。 そして全員が完全にガンギマった頃には、もう勇ましくって勇ましくって、益荒男魂が極まりきってやがった。 獣じみた声を上げて本尊目がけて朝ピノだぜ。#朝ピノ

2014-07-19 01:04:47