かように「歴史」は、常日頃から現代社会の諸問題に関心をもち、その歴史性に注意を払っている歴史家によって紡がれます。 それ故に、歴史家がどのような時代に生きているかによって、研究手法や問題関心は当然変容してきます。
2014-08-02 15:24:30我が国でいえば、1960年代までは日本の「政治経済的後進性」を克服するため社会経済史に専ら関心が集中されました。 80年代になっても戦後歴史学の残光はいまだまぶしく、文化史的研究は、当時のヴェテランには、やや軽いものと考えられていました。
2014-08-02 15:25:20徹底したマルキストであった高名な歴史家が(それゆえにこそ)民衆史、そして文化史による歴史像の書き換えを図っていったさいにも、これを消化しきれない諸先輩―特に近代史の方―は多くいたのです。
2014-08-02 15:26:15まして「最近の研究者は『アナール学派』とかに影響されているんでしょう?」などと短絡的に仰る方には、あわれみを禁じえませんでした。 「新しい歴史学」について何も読んでいない、ただ不勉強を露呈しているだけだったからです。
2014-08-02 15:27:15しかし90年代以降、社会経済史から政治文化史へと研究手法の変化は明瞭になってきました。今でこそ社会や経済、政治制度も「文化」の1つであることが広く知られるようになりましたけれど、当時は実に新鮮に受け止められた、または動揺を引き起こした領域だったのです。
2014-08-02 15:28:21そして新しい方法論に基づき、史料の再検討が始まりました。新たな観点、新たな問題意識から読まれた史料は、別の意味を持つようになります。 これまで重要な意味を持たないとされてきた史料が一級のそれになることもあります。
2014-08-02 15:28:54たとえば”童話”などは「上部構造」の最たるものであって、日常生活のエピソード以上の意味を与えられなかったのが、当時の民衆による世界観、人々の想像界、想像力を表象するものとして分析されるようになりました。
2014-08-02 15:29:42こうして歴史学の成果は積み重ねられ、歴史における「史実」は書き換えられてゆきます。 かつて存在した過去は変わりません。しかし「歴史」は変わるのです。より正確に言うなら、我々が手にする「歴史像」は変わりうるのです。
2014-08-02 15:30:11これは当然のことで、すでに戦後だけでも70年近く、左様なことが繰り返されてきました。そして多くの場合、歴史がぬりかえられるのは、新史料の発見よりも、方法論的革新のほうが多いと思います。 (了)
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