さて「遺伝子」のお話です。「"遺伝子は設計図"」でGoogle検索かけると3万件くらいヒットします。文脈として「そうではない」ものも含んではいますが、一般的によく使われる喩えですね。でも、遺伝子は設計図のようには出来上がったものに対応していません。
2009-11-08 14:42:47それで、「遺伝子はレシピのようなもの」という喩えが、ドーキンスあたりから出てきました。私が翻訳をした『心を生みだす遺伝子』(岩波)では、原著者のゲアリー・マーカスがやはり「レシピ」を使っています。 この本絶版になりますが文庫化されます。http://ow.ly/AoQ8
2009-11-08 14:45:08「遺伝子=レシピ」の喩えの例として「パウンドケーキ」でお話ししてみましょう。パウンドケーキは、小麦粉、バター、卵、砂糖を元々は1ポンドずつ配合するところに名前の由来がありますが、卵を卵黄と卵白に分け、卵黄に砂糖を加え、室温に戻して攪拌したバターに加え、小麦粉をさらに加え、
2009-11-08 14:50:27さらに泡立てた卵白を加えてから、型に入れてオーブンで数十分で焼き上げる、というのがレシピです。出来上がったパウンドケーキはどんなに細かくしても、「この部分がバター、この部分が卵」という対応関係はもはや成り立ちません。こういう「非一対一対応」「不可逆性」という点が遺伝子の働き方
2009-11-08 14:52:32としてまずあります。それから、遺伝子は柔軟に使い回せるものである、ということもあります。レシピの喩えで言えば、今日は1ポンドずつだと多いから、半分に減らそう、とか、卵が小さめだから、それに合わせて他の材料もちょっと減らそう、などのように、置かれた状況によって使い方を変えられます。
2009-11-08 14:54:27もう少し現代的な観点を取り入れるとすれば、環境によって遺伝子の働き方が変わるということが、もっと一般に伝われば良いと思っており、こういう「エピジェネティクス」の話を少しずつ市民向けの講演会などに取り入れています。DNAの塩基配列は滅多に書き換わりませんが、
2009-11-08 14:57:18@sendaitribune 遺伝子は柔軟に使いまわせるというところ、とても大切なポイントですね。1つの遺伝子は1つの働きしかしないと考えていらっしゃる方の多いこと、、、。
2009-11-08 14:58:21状況に応じてと言うのはそうなのですが、レシピも設計図もそれを使う他者がいる言葉なのが引っかかっています。場とか状況は必要ですが、どちらかというと自己組織化されてパンケーキができる感じを伝えたい。RT @sendaitribune:置かれた状況によって使い方を変えられます。
2009-11-08 14:59:40DNAやクロマチンというDNAの鎖が巻き付いているタンパク質に化学修飾が加わるのです。例えば、ストレスや食習慣などによって。運動などもそういう可能性があるでしょう。だから「遺伝子に運命が書き込まれている」と考えるよりも、「遺伝子をいかに上手く使うか」が大切なのです。
2009-11-08 15:00:27そしてDNA配列情報に加えて、そのスイッチがオンオフかと言うものが、その時点でのゲノムのレシピのようなものであって、それが自分の作ったものや周りの状況によって変えられるのだと言うこと。一方で、そういった時系列のプログラムも初期胚のゲノム情報+細胞の持つ情報に多くは埋め込まれている
2009-11-08 15:02:44うちの研究成果の例として一つ挙げておきましょう。それは、脳の中にある「神経幹細胞」というタネのような細胞を活性化して、神経細胞をたくさん作らせる、というお話です。その前に、皆さん、脳の神経細胞は3歳くらいが数のピークで、後は死んでいくだけ、
2009-11-08 15:02:46お酒を飲んだらもっと死んでいく…(笑)という風に思っていませんか? 私が大学生の頃はそう思われていました。でも、違うんです! 脳の中の例えば「海馬」のような部分では、死ぬまで神経細胞が産生されます。これは海馬に「神経幹細胞」が存在するからです。
2009-11-08 15:04:22神経幹細胞という未熟な状態の細胞は、分裂して、自分自身(=神経幹細胞)を生みだすとともに、神経細胞を作ります。神経細胞自体は神経伝達機能に特化した細胞なので、もはや分裂することはできないのですが、幹細胞というタネの細胞があるために、いつまでも神経細胞を作り続けることができるのです
2009-11-08 15:06:23で、このような現象のことを「神経新生neurogenesis」を呼びます。これ以降は「神経新生」の方が短い言葉なので、こちらを使わせて頂きます。神経新生は、季節毎に歌を覚えるカナリヤなどの鳴禽の研究をきっかけに「再発見」されました。実際は1960年代に報告されたのですが。
2009-11-08 15:08:00この話ははしょります。で、繁殖シーズンに雄の鳴禽は新しい歌を覚えて、雌に求愛のラブソングを歌うことでつがいを探します。雌は複雑な歌を歌える雄をつがいとして選びます。性選択ですね(人間の世界でカラオケがこれに対応するものかは不明ー笑)。
2009-11-08 15:09:53なんとなくミツバチの生態と似ているような気がしますが? RT @sendaitribune 神経幹細胞という未熟な状態の細胞は、分裂して、自分自身(=神経幹細胞)を生みだすとともに、神経細胞を作ります。神経細胞自体は神経伝達機能に特化した細胞なので、もはや分裂することはできないの
2009-11-08 15:12:04で、このとき鳴禽の雄の脳の中で歌学習に関わる部分で「神経新生」が生じていることが分かったのです。これが1983年のGoldman & Nottebohmの論文。これ以降、ラットやマウスだけでなく、サルやヒトでも神経新生が生じるということが次々に調べられ、
2009-11-08 15:14:19@sendaitribune の発言から思いついたこと。未熟な状態の個体が、機能特化した個体を生むとともに、同じ未熟な個体を生む。特化した個体はそれ自体で同じ個体を残せない。しかし、未熟な個体があり続ける限り種と機能は持続する。アイデアの状態に応用できそうな気がする。
2009-11-08 15:15:15業界的に認知されるようになったのが1990年代の後半。そこから10年かけて、一般向けにも話が浸透しつつあるという段階です。神経新生は学習と関係し、学習能力の高いラットでは神経新生が良い一方、学習させると神経新生が向上します。逆に、ストレスによって神経新生は低下します。
2009-11-08 15:16:33動物実験において抗鬱剤に神経新生向上効果があることから、鬱と神経新生の関係に着目されています。また我々やいくつかの研究グループは統合失調症などの精神疾患にも関係するのではないかと考えています。このあたりはまだ、一般の方向けに「絶対そうです」と言える段階ではないと思いますが。
2009-11-08 15:19:05ですので、神経新生を向上させることが、学習効果を高めたり、精神疾患の予防・治療に繋がるのではないか、という点については、世界中で着目されて「神経新生向上剤」の開発が進められています。私たちも内在する神経幹細胞を活性化し、神経新生を向上させる方法に取り組んでいます。
2009-11-08 15:21:41そこで注目したのは「脂質」です。脳はとっても「脂っぽい組織」で、乾燥重量の約60%が脂質です。中でも多い成分はドコサヘキサエン酸(DHA)やアラキドン酸(ARA)という脂質で、これらは「多価不飽和脂肪酸」と呼ばれます。コレステロールなどは飽和脂肪酸。
2009-11-08 15:23:07