ff6二次創作【約束交換】

こちらの話(http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3755375)の内容の補足として書きおろしたものです。近いうちライブツイを行った際、解説にまとめの内容を追加予定です。
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みなみ @minarudhia

全てが解決したジドールの入口前で、ここ数日の間に揃った顔触れは再び別れようとしていた。それぞれの行く先へ。「じゃあ、皆気をつけて」先立って別れを告げたのはティナ。その腕にはモブリズの村へのお土産がどっさりと抱えられている。「ティナも元気でね」「うん」

2014-08-12 03:35:15
みなみ @minarudhia

ティナはモブリズまでセッツァーのファルコン号に送ってもらう手筈となっている。ストラゴスとインターセプターも同様だ。そうでなくとも、ジドールからサマサまではかなりの距離がある。「リルム、本当にわしは待ってるゾイ」「うん、おじいちゃん、私が帰るまでにくたばるんじゃないよ!」

2014-08-12 03:37:37
みなみ @minarudhia

そのやり取りにロック、セリス、マッシュが笑い出す。こんな風に仲間とやり取りできるのは久しぶりだった。「それじゃ早いところ行くぞ」セッツァーはタバコの火を揉み消し、一同を促す。マッシュは、来た時と同じ手荷物を無造作に肩へ担ぎ上げた。

2014-08-12 03:40:06
みなみ @minarudhia

「マッシュ、エドガーによろしく伝えてね」「…ああ」仲間に見送られ、一足先にマッシュは歩きだした。しかし、まっすぐ帰るわけにはいかぬ。「…あいつ、どこへ行ったんだ」今日一日中姿を見せていない、事件解決に最も大きく関わった一人を探すため、マッシュは手頃な場所を捜し始めた。

2014-08-12 03:42:59
みなみ @minarudhia

何も言わずにさよなら、は卑怯すぎる。自分にも非があるのに。マッシュは首を巡らせ、必死に捜す。ふと道にバナナの皮でも置いているのではと思ったが、生憎そのような物もなく。時間だけが過ぎようとしたため、マッシュは肩を竦め、一度チョコボ屋へ寄ることにした。

2014-08-12 03:45:52
みなみ @minarudhia

チョコボを借りてなお、マッシュは相手を捜していた。そして、遂に見つけた時にはすでに辺りも暗くなってきた頃だった。コーリンゲンの近く、モンスターを仕留め食事にかかっていた白銀の竜を認めてマッシュはチョコボを歩ませた。「………フィスト!」

2014-08-12 03:48:48
みなみ @minarudhia

食事の最中だけあって口をモンスターの体液でまみれさせた竜は、マッシュに気づくやうろたえるようにしてみせた。構わずマッシュが近寄ると、一瞬後竜の身体が光を放ち、長い黒髪と銀の目の若い娘に変わる。「…マッシュ…?」袖で口元を拭い、フィストは彼が近寄るに任せた。

2014-08-12 03:52:35
みなみ @minarudhia

「やっと捜したぜ。お前、どこかに行っちまうから面倒だったんだぞ?」チョコボを彼女の前に停めてマッシュは降りた。「なぜ…」「言っただろ、約束事、守らなきゃいけないって」迎えに来たんだ。そう告げるマッシュにフィストは遠慮がちに俯いた。

2014-08-12 03:55:38
みなみ @minarudhia

あの日、一人と一頭が初めて出会った日。淋しげなフィストを見兼ねたマッシュが放った口約束。「…あれは、いいの。私から破ったのも同じ。あの森は手放さなければいけなかった。もう、私には帰る場所もないけど、あなたが私を無理に迎える道理も…」「あるさ」「…あるの?」「ああ」

2014-08-12 03:59:29
みなみ @minarudhia

フィストの視線が探るようにマッシュを見回す。何度も何度も、彼の言葉の嘘誠を探ろうと。「…理由を聞かせて…」フィストはやや厳しい表情へ仮面を変えた。「返答次第では、あなたをどうするかもわからない」「そこまで怖いこと言うなよ。……俺も、寂しいんだよ」

2014-08-12 04:04:55
みなみ @minarudhia

寂しい?フィストは怪訝そうにマッシュを見る。一見、明朗快活なこの男は、実の所裏では兄にさえも言えない思惑を抱えているのだ。家族だからこそ、言えないものを。「俺は今は兄貴の側に甘んじている。けれど、一生そうする事を許されてはいない」「なぜ…」「俺はもう、王位継承者ではない」

2014-08-12 04:08:50
みなみ @minarudhia

マッシュは話し出す。「俺と兄貴がまだ離れ離れになる前から、城には色んな事があった。その度に家臣達の争いを嫌ってほど見てきた。その頃に俺は、フィガロという国が嫌になってたんだ。兄貴を残して国を出て行った俺に、兄貴が万が一何かあった時国を継ぐ権利はない。兄貴を国が必要としているしな」

2014-08-12 04:13:55
みなみ @minarudhia

「…」竜の化身たる娘は耳を傾けたままだ。「本当は俺も兄貴も願ってるんだ。戦いが終わったら、また二人一緒にいられたらってな。でも、そうもいかないんだ、もう。わかっていたけど、戻れないんだ。あの頃に」マッシュは長々とした話を区切り、フィスト同様俯き。「…一緒にいた子供の頃には」

2014-08-12 04:17:10
みなみ @minarudhia

「…兄の代わりになれということなの?私は…」フィストは聞いた。「近いがそうじゃない、な。他の皆はやるべき事もしたい事も決まってるし、今まさにそれを実行している。…俺は、兄貴を支える以外、何も思い付かないし、あまり俺の踏み入れられる場所もないんだ。変な話だよな」苦笑い。

2014-08-12 04:21:56
みなみ @minarudhia

「ダンカン師匠からも言われたよ、自分から教えることは何もないってな。だから、俺は、自分で場所を作らなきゃならないんだ。自分の生きる場所をさ。それを、できるならば兄貴から近い場所に作ろうと思ってる。すぐに帰ってこれる場所をな。…それを、手伝ってついでお前も住んだらいい」

2014-08-12 04:24:46
みなみ @minarudhia

「くどいことを」フィストは溜息をつき、軽く髪をかきあげた。「わかったわ、あなたの言いたい事。そこまで言うのなら、一緒に住んであげる」「なら…」「タダで、とは言わない」フィストの眼は光った。「人間が竜に何かを求めるなら、それなりの対価がなければ」

2014-08-12 04:27:12
みなみ @minarudhia

「…対価?」「契約、が一番かしらこの場合は。あなたが私に共に暮らす伴侶であることを望むなら、私はあなたの何かになる事を望む。隷属されようとも」マッシュは首を横に振った。「俺はお前をそんな、奴隷みたいにしようとは思わない」「対等は難しいわよ?」

2014-08-12 04:31:30
みなみ @minarudhia

フィストはぴしゃりと有無言わさず断った。「辛うじて対等であるべき関係を結びたいのなら………私をあなたの番いにでもする?」「えっ」「ともかく、竜が簡単に人間の言う事に従うにはそれなりの対価が必要なの。…それでも…」フィストは息を長く吐いて聞いた。

2014-08-12 04:36:21
みなみ @minarudhia

「それでも、あなたは、あなたの約束に従って私をあなたの家に迎えたい?」「………もちろんだ」マッシュは頷き、頭を掻いた。「…で、その契約ってのは」その問いが終わらないうちにフィストの白くしなやかな腕が差し延べられた。「?」「手を出して」

2014-08-12 04:39:09
みなみ @minarudhia

「…こうか?」マッシュが片腕を出した途端、フィストの爪がその掌に突き刺さる。「って!」痛みに抗議するマッシュを気にも留めず、フィストが手の爪を走らせればつうと傷口から血が流れてきた。「私も…」それが済めば、フィストは今度は自身の手の平を爪で傷つける。同様に赤い血が流れ落ちた。

2014-08-12 04:42:31
みなみ @minarudhia

「いいわ。…手を、重ねましょう」血の滴る手の平を二人は近づけていく。そして、ほんの数ミリほど近づいた途端、フィストが指を絡める勢いをマッシュの手を強く握り、手の平を密着させた。「ぅああっ!!」熱さを伴う痛覚にマッシュが叫びを上げた。「く、ああっ!」

2014-08-12 04:47:22
みなみ @minarudhia

叫びは彼だけではなかった。フィストもまた、痛覚を覚えて口から叫びをほとばしらせていた。髪を振り乱し、白い喉をさらけ出して肌に汗を滲ませる。二人の手の平の間からは青白い炎にも似た光の揺らめきがちりちりと焼くような音を立てた。

2014-08-12 10:49:23