ウィアード・ワンダラー・アンド・ワイアード・ウィッチ #3

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
1
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ウィアード・ワンダラー・アンド・ワイアード・ウィッチ】#3

2014-08-09 22:44:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(あらすじ:放浪ゾンビーニンジャのジェノサイドが流れ着いたナカニ・ストリートでは、覇権を巡ってヤクザとギャングが抗争を行い、住民らは明日をも知れぬ生活を強いられていた。現れたジェノサイドが小競り合い中の双方の兵隊を虐殺しサルーンに居座ったため、両勢力に緩衝地帯が生まれ抗争は鈍化)

2014-08-09 22:50:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(だが両勢力のトップ「ブラックハンド」と「ドレッドノート」は共に残酷なるニンジャであり、互いを実際憎んでいる。彼らはジェノサイドをヨージンボーに引き入れ、相手の勢力を一気に叩き潰そうとしていた。そこへ、この街で生まれ育ったコードロジストのお尋ね者、ホリイ・ムラカミが流れ着き……)

2014-08-09 22:54:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ぽた、ぽた、と、アルコールの滴る音が死者の耳に届いた。「……arrrgh……」丸テーブルに向かいウイスキー瓶を傾けたまま、蝋人形めいて固まっていたジェノサイドは、目を覚ましたように低い唸り声を上げた。それを眠りと呼ぶに相応しいかは解らない。腐りかけた脳が起こす行動不能現象だ。 1

2014-08-09 23:02:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((くそったれめ)))ジェノサイドはグラスの中身を呷り、立ち上がる。それから酒場の大時計を睨み、カウンターへ歩いた。時間の欠落。(((何か喰わなくちゃならねえ……肉を)))ジェノサイドが己の腐敗し続ける肉体を癒すには、補食が必要だ。肉を。ただの肉では駄目だ。ニンジャの肉を。 2

2014-08-09 23:09:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼が求めるのは真の安らぎだ。それには欠落した記憶を取り戻さねばならぬ。だがその記憶にはウジが沸いている。(((ブッダ、てめえの墓を掘り返して小便かけて、もう一度埋めてやりたい気分だぜ)))スカーフで口元を隠し、ハットを目深に被る。恐怖と緊張の臭い……爺さんと娘は強張っている。 3

2014-08-09 23:17:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジェノサイドは元殺し屋だ。恐れられるのは慣れている。このリヴィングヘル状態は、ブッダが彼に与えた酷薄な裁きなのかもしれぬ。「サケをくれ」血の付いたくしゃくしゃの万札を取り出し、それをカウンターに置いて老人に言った。「強いのだ。シャドウタイガーを」「ヨロコンデー」老人は頷いた。 4

2014-08-09 23:23:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この相撲サルーンはいい。客に敬意を払う。今はいないが、スモトリが爪弾く曲もいい。このような店は減ってきた。静寂を好むゾンビーが身を隠し、酒を飲み、音楽に浸れるような、奥ゆかしく猥雑な店が。「arrggh」ジェノサイドは香水代わりのシャドウタイガーを呷った。強く華やかなサケだ。 5

2014-08-09 23:31:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ジェノサイド=サン、邪魔して悪いんだが、また面倒な事になっちまったよ…」ツルギ・マスダ老人は、ヤクザの交渉人が置いて行ったマキモノを、カウンターの上に置いた。「……」ジェノサイドはすぐには答えず、サケ・グラスを揺らしていた。老人が目配せすると、ホリイが一部始終を話し始めた。 6

2014-08-09 23:40:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お願い。あなたが何を求めているか解らないけど、きっと相応の代価を払うから」ホリイが言った。ツルギ老人も所々に合いの手を入れた。「頼む、ジェノサイド=サン、何とかならねえか。この街が少しでもマシになるんなら、ずっと俺の店に泊まってくれていいんだ。酒代も、宿泊代も、要らねえさ」 7

2014-08-09 23:52:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((ブッダ、くそったれのアスホールめ)))ジェノサイドは何も答えず、再びサケを呷った。事態は複雑になるばかりだ。彼はこの街の抗争にニンジャが絡んでいるところまでは嗅ぎ付けている。だが問題は、ニューロンの腐敗だ。このところ現実は、まるで途切れがちな古いシネマめいて覚束ない。 8

2014-08-09 23:58:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

闇雲に乗り込んで行き、出てきたニンジャを殺して肉を喰う…そう簡単に行くものではない事は解っている。イクサで自制心が吹き飛べば、彼はストリート全体を血の海に変えるだろう。それは望まない。ましてや二人に、自分がニンジャ喰らいである事を明かしたくはない。特に、女には刺激が強かろう。 9

2014-08-10 00:05:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((そう、この女だ)))ジェノサイドは僅かに首を動かし、ホリイを一瞥した。酒。相撲バー。ウェスタン・ギターの音。どこかへ逃げようとする女。腐敗するニューロンの片隅にこびりついた記憶。おそらくは生前の。(((何故俺はこの女をかくまった。面倒事が増えるのは解っていたろう))) 10

2014-08-10 00:11:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ここ最近、物忘れが激しくなっちまったが……」不意に、ジェノサイドは口を開いた。「嬢ちゃん、忘れねえうちに一個聞かせちゃくれねえか。以前、俺と会ったことがあるか?こういうバーかサルーンで」「……?無いわ」「昔……殺し屋だった頃の俺とも?」「無いと思う」「そうかよ」 11

2014-08-10 00:16:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

しばしの沈黙。ホリイは嘘をついてでも話を合わせるべきだったかと、やや表情を固くした。「……なら嬢ちゃん、なんで俺に助けを求めた?」「さあ……本当に切羽詰まっていたから、もう解らないけど……」ホリイは言った。この男にはどうも嘘をつけない。「たぶん、神父の格好をしていたから」 12

2014-08-10 00:26:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハッ!」ジェノサイドは自嘲気味に笑い、サケを飲み乾した。(((この格好のせいか!)))……何故自分が、黒いカソックコートを着ることに固執するのか。その理由すらも、今となっては朧げにしか思い出せない。ニンジャの肉を喰らいニューロンを再生しても、記憶までは復元されないからだ。 13

2014-08-10 00:30:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それで、嬢ちゃん、あんたが俺のゲイシャになって、交渉を手伝うと言ったな」ジェノサイドは立ち上がった。袖の奥でじゃらりと鎖が鳴った。「そう」ホリイは頷いた。肝の座った女だ。頭も切れる。ここしか帰る場所は無く、生存に全てを賭けている。いい女だ。そういう女の頼みは、断り辛い。 14

2014-08-10 00:43:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『ドッソイ!』不意に、酒場の電子呼び出し音が鳴る。こんな時間に誰が。ツルギ老人が訝しみ、UNIX端末のところへ歩いていった。そして外の相手を確認すると、血相を変え二人を手招きする。「こないだ来たギャングの交渉人だ。車椅子に乗ってやがる。奴ら、もう待っていられねえって顔だな」 15

2014-08-10 00:58:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

酒場の外には、車椅子のGNマサルVIがいた。前回送った交渉人は彼が射殺し、代わりに自分でジェノサイドを雇うためにやって来たのだ。『これは最後のバーゲンに近い』彼はシャッター前でIRCをタイプした。『私を殺すなら殺せ。彼をヤクザに取られる前に、ファミリーは行動を起こすだろう』 16

2014-08-10 01:04:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺ァ、長いことサルーンやってるからよ、覚悟決めた野郎の顔ってのは解るんだ。相手がサイバーサングラスをかけててもよ。このギャングは、まさしくそういう顔だぜ」ツルギ老人はそう説明した。「逆に言やあ奴ら、本気で旦那の力を欲してんだ。本気で交渉する気だ。騙し討ちはされねえだろう」 17

2014-08-10 01:09:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ややモウロクしてはいるが、ツルギ老人はこうした機微を読む力に長ける。だが彼は交渉代理人にはなれない。ジェノサイドと組んでいると思われると厄介だからだ。「今会えって事?」ホリイが察し、フードを目深に被る。ツルギ老人がカウンターの下から旧式の武骨なサイバーサングラスを手渡した。 18

2014-08-10 01:17:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「丁度いい。俺の時間も省ける。会ってやる」ジェノサイドは重いブーツで床を軋ませながら、ゆっくりとシャッターへ向かう。ホリイはやや急ぎ足で、彼の横に寄り添う。「なあ、嬢ちゃん。名前はどうすんだ。本名は、ちいとマズいだろ。通り名を考えろ」ジェノサイドが小声で言う。ホリイが頷く。 19

2014-08-10 01:25:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ウィッチ…」ホリイは呟いた。咄嗟に思いついたのは、頭の中にエコーし続けるその蔑称だった。追っ手もコードロジストの秘密までは知らぬ。だがそれだけでは不足。自分はジェノサイドのゲイシャなのだから。「……ワイアード・ウィッチ」「そりゃ、おっかねえ名前だな」ジェノサイドが笑った。 20

2014-08-10 01:33:38
1 ・・ 5 次へ