【第二部-弐拾壱】二人を見守る五月雨 #見つめる時雨

五月雨,由良
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五月雨視点

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

夜の港に座り、星空を眺める。今夜は涼しくて、風が心地いい。…こんな空を見ると、あの時を思い出す。身動きがとれなくて、空を眺めることしか出来なかった、あの時を。…あと、一週間くらいかな。私の…あの日まで。

2014-08-20 22:05:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

最近ね、"声"が大きくなってきたんだ。前から聞こえていたけれど、何を言っているのかがわかるようになったのは、丁度大規模作戦が終わった頃…。その声はね、私にこう言ってくるの。"そこはお前のいるべき場所じゃない。還ってきなさい"って。とても、綺麗な声で。

2014-08-20 22:10:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…この前、春雨がここに着任した。勿論、また会えたのは嬉しいんだけど、同時に、とっても辛くなる。春雨が沈んでいく光景が、頭に蘇ってきて…。…春雨だけじゃない、夕立も、夕張さんも、由良さんも…みんな、みんな…。

2014-08-20 22:15:19
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

最近、あの頃の記憶がどんどん清明になってきて、毎晩夢にまで見るようになって…。前はたまに見るくらいだったのに…。苦しくて、たまらない…。

2014-08-20 22:20:23
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

夢で、ずっと声がする。潜水艦を見逃したのは誰だって。曳航できなかったのは誰だって。…夕張さんが沈んだのは、誰のせいだって…。ねぇ、私は…ここにいていいのかな。あの声の言うように、私はここにいていい存在じゃない…のかな…。

2014-08-20 22:25:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…艦娘となってまた再会できた夕張さん。ちょっと片づけが苦手で、夜中まで起きてて、たまに徹夜までしちゃっててて、由良さんによく叱られてて。でも、機械に熱中してるときの横顔はすごく綺麗で、可愛くて、水雷戦隊の旗艦をする夕張さんは、カッコ良くて…。

2014-08-20 22:30:24
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…私が任務で大破してしまって、私が責められるべきなのに、旗艦の夕張さんは嫌味のひとつも言わないで、ずっと気遣ってくれて、私が治るまで待っていてくれて…。何で…何でそんなに夕張さんは優しいんだろう…。私なんて、私なんて…。

2014-08-20 22:35:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…気づいたら私は、夕張さんを好きになっていて、自覚したときは、すごいドキドキして、胸が熱くなって…。でもきっと、夕張さんは由良さんが好きで、由良さんも夕張さんが好きで…。ううん、そもそも私が夕張さんを好きになんか、なっちゃいけなかったんだ…。だって私のせいで、夕張さんは…。

2014-08-20 22:40:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…体が重い。まるで、座礁したみたいに動かない。暗く、冷たい海から這い上がりたいのに、脚が引っかかって動けない。そんな感覚が、私を包む。…いっそこのまま沈んでしまえたら、楽になれるのに。真っ黒で、温度のない…意識の底へ…。

2014-08-20 22:45:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「こんばんは」 …あれ? 誰かが私を呼んで…。 「五月雨ちゃん、どうしたの、こんなところで」 …由良さん? 「…寝ちゃってる? 五月雨ちゃん、五月雨ちゃん」

2014-08-20 23:05:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

視界が開けた。真っ暗になった海が波音をたてている。そして隣に、由良さんが座っていた。 「あ、起きた。ダメだよ、こんなところで寝ちゃ。海に落ちたらどうするの?」 由良さんが心配そうな目で私を見ている。あれ、私…さっきまで何をしてたんだっけ…。

2014-08-20 23:10:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「大丈夫? 具合悪い?」 由良さんが私の手に触れる。触れているのだけれど…触れられているという感覚が、私には感じられなかった。 「…いえ、すみません、大丈夫です」 「…そう?」

2014-08-20 23:15:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「由良さんこそ、どうしてここに?」 「え…?…気分転換よ」 そう言って目を逸らす由良さんの様子を見て、私には思い当たるものがあった。きっと…。 「夕張さんですか?また」 「…え、違…えっと…」 言い淀む由良さんを見て、少し笑ってしまった。ああ、この人達は…もう。

2014-08-20 23:20:23
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…由良さんは、夕張さんのどこが好きなんですか?」 「…どこって…どちらかと言えば、嫌いかな…」 「じゃあ、どこが嫌いなんですか?」 「…そうね…人が散々注意しても徹夜を止めないし、部屋もすぐに散らかすし、空気読めないし…」

2014-08-20 23:25:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「何か、きりがないわ…」 心底嫌そうに溜息をつきながら項垂れる由良さん。ここに来る前も、きっと夕張さんの嫌いな部分を見て、怒って、その場を去ったのでしょう。…こういう場面、何度か見たことがある気がします。でも、由良さんは夕張さんに会いに行くのはやめないんですよね。

2014-08-20 23:30:23
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

こんな風に言ってはいるけれど、やっぱり由良さんも夕張さんの傍が好きなんですよね?そして夕張さんも、そんな由良さんを待っているのでしょう。…いいな。羨ましいな。私も、由良さんのいるその場所に座りたかったな…。 「そういえば夕張さん、今夜新装備のチェックしたいって言ってましたね」

2014-08-20 23:35:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…何で今夜始めるかなぁ…。明日でいいじゃない…」 「すぐに見たいんじゃないですか?」 「…はぁ」 また大きな溜息。そんなにすると、幸せが逃げちゃいますよ。 「…明日は一緒に出掛けるって約束したのに…」

2014-08-20 23:40:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…由良さんが両足を抱えて膝に顔を埋めたまま、静かになってしまいました。私の耳には、波の音だけが届いていました。…由良さん、きっと明日のことをとても楽しみにしてる。でも夕張さんはきっとまた熱中して、徹夜しちゃう。そうなると明日にはフラフラで…。

2014-08-20 23:45:21