- minarudhia
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「リルム、疲れたのかな…。頭の中に、昨日オペラ座で聴いたあの歌が聞こえてきて、最初は怖かったんだけど少しずつ気持ちよくなってきて…」 「…お前も、あの歌聴いたのか?俺もだぞ」 「私も聴いたわ」 「わしもじゃ。…ふむ、これはどうもただ事ではないのう」
2014-08-22 22:08:39六人が、あのオペラで聴いた歌を聴いている。 それも、眠りに就いた夢現の中で。 その時、玄関からノック音が三回聞こえた。 「誰じゃ、こんな時間に」
2014-08-22 22:12:42アウザーが使用人に取り次ぐよう言う。 玄関へと消えた使用人は、まもなく食卓に戻るやこう告げた。 「自警団が旦那様に御用との事です。昨日のオペラの件で聴取したい事があるとか」 「なんじゃと」
2014-08-22 22:15:38「アウザーさんですね」 アウザーが出ると、ぱりっとした質感のコートに身を包んだ軽装の男が二三人立っていた。 その中でも、一番歳のいった者が、ごほんと咳払いを一つ。 ロマンスグレーといった風情のハンサムで、鼈甲のフレームの眼鏡をかけた知性的な男だった。
2014-08-22 22:16:58「わしがアウザーじゃが」 「実はですね。昨日オペラ座で起きた殺人の件でお話を伺いたいのです。オペラ座の観客で、あなたが血まみれの――筋骨隆々の男と一緒にいると話した者がおりましてな」 (…げ…)
2014-08-22 22:18:56話し声を聞いた他の五人が青ざめる。 「その男に殺人の容疑がかかったのですよ。今その男はいずこにおりますかな?」 ねっとり探るような言葉にアウザーが考えあぐねる。 それを見たマッシュが、いきなり動き出した。
2014-08-22 22:20:37(ちょっと、バカ!!) マッシュの行動に四人が小声で叫んだ。 一方マッシュの方は、いつもの大雑把な口調からうって変わって丁寧な口調で対応に出ている。 おそらく自身が事件に関わっている事に対する重大さに慎重なのだろう。
2014-08-22 22:22:31「…あなたに間違いありませんね。ご同行願いますよ」 マッシュのなりを見た男は手元のメモをちらと見て頷く。 「待った!俺も重要参考人として同行をお願いしたい」 「ロック!」 続いてマッシュの横に並ぶロックをセリスが思わず呼びとめる。
2014-08-22 22:23:48「あなたは?」 「こいつの仲間です。ですが、犯人はこいつじゃありません。…良ければアウザーさんの同行も構いませんか」 「おいおい」
2014-08-22 22:27:38呆れるセッツァー。 それを横目に、最年長の男へ後ろの男が何か耳打ちをした。 構わずロックは続けた。 「物的証拠はありませんが、俺達は犯人の姿を目撃しています。オペラ開演中に起きたことを聴いていただけるのならありがたいんですが」
2014-08-22 22:32:57耳打ちが終わった辺りで、最年長の男はロックの方を向いた。 「…いいでしょう。現在この事件は我々自警団としてもまだ調査中の段階でしてね。是非とも情報を提供願いたいところです」 「仕方あるまい…」
2014-08-22 22:33:18ロック・アウザー・マッシュの三人が自警団に連れて行かれた後、セリスとリルムががっくりと腰を椅子の上に落とした。 セッツァーはテーブルの上でソリティアーに興じながら、タバコをくゆらせている。
2014-08-22 22:36:57「下手に隠すよりは却っていいんだろうよ。ましてやマッシュの奴だ、そう隠し事が上手な男じゃないだろあいつは。どこぞの王様と違ってな」 「それはますます否定できないわね…」
2014-08-22 22:39:07「それよりもさ!これからどうするの?マッシュは捕まるし、オペラ座で起きたあれだって何なのかわからないし!死んだ人間が歩いたんだよ!?」 リルムがダン!とテーブルに両手を叩きつけるように置いた。 セッツァーが顔をしかめながら、カードを持つ手をひらつかせた。
2014-08-22 22:40:36「……何のためにお前んとこのじじいがいるんだよ」 「へ?」 セッツァーの言葉にリルムは眼を大きく見開いた。 「ストラゴスの事に決まってるだろ。あの物知りじいさんならこういう事に案外詳しいかもしれないしな。それに…」 セッツァーはカードからリルムに視線を向け、なお続けた。
2014-08-22 22:43:03「俺はあの女が臭いと思ってる。マッシュに対して妙なこだわりを持ってる様子のあの女だ」 「あの女の人…?」 「確かに、ちょっと怪しいわよね。人間離れした雰囲気があるし、それに…この落し物…」 セリスが相槌を打ちながら、昨日ロックから受け取った白銀の美しい鱗を出した。
2014-08-22 22:45:09「それをストラゴスのじいさんに送ってみようぜ。もちろんオペラ座の件の事を書いた手紙も書いてな。お偉いさん方に任せるとかそういう問題じゃなくなったのも事実だろ」 「じゃあ、私が手紙を書くわ。伝書鳩の手配はどうしようかしら」
2014-08-22 22:47:07「リルムが頼んでみる!ここには随分お世話になってるし、使用人さんならちゃんとした手配はしてくれると思うし」 「なら、それで決まりね」
2014-08-22 22:47:13「―――というわけです」 「ふぅむ…」 自警団の詰め所でロックは昨日起こった出来事を話していた。 詰め所には十人近く人がごった返しており、暇のいの字もない程の慌ただしさである。
2014-08-22 22:49:28