『語り合い』

烏の語り部コルニクス。 雲雀の語り部アウラダ。 語り部同士の『語り合い』。
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アウラダ @lemures2

語り部はとある酒屋で、大勢の客を相手に話をしていた。 酒樽の上にちょこんと座り、その周りに酒屋の客…主に仕事を終えた髭の男たちが集まっている。 「私、『語り部』の”アウラダ”よ。物語を語ってあげるのがお仕事なの!」 話し相手となっている男達は、皆気の良い者たちのようだ。

2014-08-29 20:11:47
アウラダ @lemures2

ーへえ、そりゃあ夢のある仕事だなぁ。 客の1人が、まるで子供を褒めるように言った。 しかし語り部はそれを聞くと、少しだけ声を低くして言う。 「そう?でも『語り部』って、案外最低な仕事よ。」 よく理解ができない顔をする男達に、語り部は無邪気な笑顔を向けた。

2014-08-29 20:22:02
コルニクス @lemures0

少し街から離れた位置で、語り部はその”街”を見下ろしていた。 辺りは木々に囲われ、人の気配は一切しない。 語り部は左肩に背負った荷物から、オカリナを取り出した。 少しの逡巡。 語り部がオカリナに口を付け、そして聞いた事の無い曲を奏でる。 それは静かに、街へ響いた。

2014-08-29 20:37:55
アウラダ @lemures2

語り部はふいに、視線を窓へと逸らす。 パッと立ち上がり勢い良く窓を開けた。 そして「どうしたんだ」と問う客の声は一切無視し、窓から顔を出して風の音に耳を済ませる。 「…ふぅん。」 語り部は窓を閉め、店の客に問う。 「ねえ、このお酒貰って行っていいかしら?」

2014-08-29 20:41:24
アウラダ @lemures2

ーそれは俺の酒だ。好きに持って行きな。 気の良い客はそう言って、語り部に酒の壺を持たせる。 「ふふっありがとう!大好きよ!」 そう言って語り部は頬にキスをし、酒屋の客に手を振って出て行った。 そして再び風に耳を済ませると、一直線に街の向こうへと掛けて行く。

2014-08-29 20:46:08
コルニクス @lemures0

一旦オカリナから口を離し、周囲を少し見渡した。 「……。」 そして再び、オカリナを奏でる。 同じ曲を、同じリズムで繰り返す。 それは『語り部』である者のみが知る旋律。 遠くに居る者へ呼びかけるように、オカリナの旋律は再び響く。

2014-08-29 20:53:21
アウラダ @lemures2

@lemures0 木々を掻き分け、『語り部』の前に『語り部』が姿を現した。 ワンピースの汚れをパタパタと叩いて、アラウダは「ふぅ。」と息を整える。 「どうもこんばんわ、もう1人の『語り部』さん♪ 貴方のお名前は?」 ザワザワと風が通り抜けた。

2014-08-29 20:59:20
コルニクス @lemures0

@lemures2 オカリナを口から離し、そして現れた『語り部』へ振り返る。 「…私は”コルニクス”。烏の『語り部』だ。君の名は?」 風に外套が、緩やかにはためいた。

2014-08-29 21:02:22
アウラダ @lemures2

@lemures0 「私は”アウラダ”。雲雀の『語り部』よ。」 両手を後ろで組んで、楽しそうに微笑みを見せる。 やがて風がやむと、相手へ歩み寄りながら「お酒なら持ってきたわ。」と言って、酒壺を揺らす。

2014-08-29 21:06:06
コルニクス @lemures0

@lemures2 「…”アウラダ”。君の事は知っていたよ。女性の語り部は珍しいからね。」 穏やかに微笑んで、アウラダを目の前に座るよう促し、自らもその場に腰を下ろした。 「…今日、この街へ?」

2014-08-29 21:08:43
アウラダ @lemures2

@lemures0 指示された通りにその目の前に横座りをし、「街へ来たのは昨晩よ。」と答える。 「私も貴方を知っていたわ。”垂れ流しのコルニクス”!」 クスクスと悪戯っぽく笑って言った。 そこに悪気は全く感じられない。

2014-08-29 21:11:42
コルニクス @lemures0

@lemures2 「そうか…では貴方はまだ、この街についてはよく知らないか。」 木の枝を中心に集めながら、独り言のように呟く。 そして無邪気に笑うアラウダの言葉に、思わず苦笑いをした。 「…”垂れ流し”だなんて酷いな。」

2014-08-29 21:15:37
アウラダ @lemures2

@lemures0 「知らないわ。でも貴方がしてる事はそういうことでしょう?」 コルニクスが木の枝を集める様子をジッと目で置いながら、アウラダは言う。

2014-08-29 21:18:31
コルニクス @lemures0

@lemures2 「…そうだろうか。」 語り部は静かにそう言って、ようやく枝を集める手を止めた。 「…酒壺だけか?」 語り部はアウラダに問う。

2014-08-29 21:23:11
アウラダ @lemures2

@lemures0 「ええ、酒壺だけよ。中身はたくさんあるけれど。」 酒壺を掲げその壺を揺らすと、中で液体の揺れる音がした。 「…ねえ、私も聞きたいわ。枝はたくさんあるけれど、火はどうやっておこすの?」

2014-08-29 21:25:26
コルニクス @lemures0

@lemures2 「マッチを持っているよ。」 小さな荷物から、古びた箱を取り出す。 そしてマッチを一本手にするが、火は灯さず、困ったような笑みを浮かべた。 「…貴方は本当に、酒壺しか持って居ない様だね。」

2014-08-29 21:29:43
アウラダ @lemures2

@lemures0 「別に大丈夫よ。コップが無くたって飲めるわ!」 そう言うと酒壺の栓を抜き、「早く始めちゃいましょう。」とコルニクスを急かす。

2014-08-29 21:32:27
コルニクス @lemures0

@lemures2 「……。」 困った笑みを浮かべたまま、語り部は無言で火を灯し、アウラダと自らの間に焚き火を拵える。 「…準備は整ったよ。」

2014-08-29 21:35:30
アウラダ @lemures2

@lemures0 「そうね、私もよ。」 焚き火の明るさに顔を照らされながら、アウラダの声が告げる。 「…『語り部』同士の”語り合い”。 『今夜は貴方と”語り”ましょう。烏の語り部、コルニクス』。」 アウラダが酒壺から一口、酒を飲み込んだ。

2014-08-29 21:40:08
コルニクス @lemures0

@lemures2 「ああ、『今夜の”語り”は貴方と共に。雲雀の語り部、アウラダ』。」 アウラダから酒壺を受け取り口元へ持っていった。 だがやはり、寸前で躊躇する。 「……アウラダ、やはり何か注ぐ物を持ってこないか。」

2014-08-29 21:44:04
アウラダ @lemures2

@lemures0 「ええっ、何よ気にしちゃって。どうせただの儀式みたいなものよ。」 アウラダは不満そうに眉を寄せた。 「いいからガバーッと口つけちゃいなさい!私、貴方が口を付けて飲んだって気にしないわ!」

2014-08-29 21:48:01
コルニクス @lemures0

@lemures2 「……。」 語り部は無言で苦笑を返し、酒壺から酒を少しだけ飲んだ。 そしてアウラダへ酒壺を手渡す。 「…どちらが先に”語ろう”か。私はどちらでも構わない。」

2014-08-29 21:50:35
アウラダ @lemures2

@lemures0 酒壺を受け取って、酒をゴブリと飲み込む。 「ううーんそうねぇ…。」 そして、口元の酒を拭いながら、酒壺を差し出しつつ考える。 「貴方の方が『語り部』は長いでしょう?なら貴方から”語る”べきだわ。」

2014-08-29 21:55:13
コルニクス @lemures0

@lemures2 コルニクスは差し出された酒壺を、右手で制して断った。 「…多分ね。それじゃあ、この街の『物語』を語ろう。…今後の貴方の助けになれば良いな。」 そうしてコルニクスは『語り部』へ”語る”。 ”語り合い”は、始まったばかりであった。

2014-08-29 22:02:37
アウラダ @lemures2

@lemures0 やがてコルニクスの”語り”が終わると、もう殆ど半分以下になった酒壺を地面に置いた。 「悪くはないわ。でもそれだけよ、コルニクス。」 髪の毛をくるくると指先で弄って言う。 「お酒の手は止まらなかったもの。」

2014-08-29 22:42:08