アーバン・レジェンド・アブナイ #1

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【アーバン・レジェンド・アブナイ】#1

2014-09-02 15:45:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『列を飛ばさない、列を飛ばさないのが奥ゆかしい……自由時間はあと20分……しかし5分前には部屋へ……』サイレン塔から中庭へとモラル放送が届けられる。白い壁に貼られた「保釈金一発ローン」「ヨロシサン製薬フレッシュ治験」などの欺瞞ポスターは、陽光に晒されいかにも居心地が悪そうだ。 1

2014-09-02 15:54:14
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陽光?そう、陽光だ。ネオサイタマでは年に数度しか差さぬ陽光が、タマ・リバーの中州に浮かぶ巨大監獄島、スガモ重犯罪刑務所に降り注いでいたのだ。病んだ黄色い日差しの下、囚人たちは中庭に出て、腕立て伏せや懸垂を楽しんでいた。「ザッケンナコラー!」「スッゾコラー!」トラブルもある。 2

2014-09-02 16:02:28
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BLAMBLAMB!けんすい鉄棒の周辺では順番待ちトラブルが絶えず、何度も監視塔から強化ゴム弾が撃ち込まれている。「アバーッ!」頭を撃たれた男が動かなくなり、医務スタッフが駆けつけた。監視塔のマッポが無言でヤッタ・ポーズを作り、隣で悔しがる同僚から万札を受領した。腐敗世界! 3

2014-09-02 16:08:37
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無論、そのような理不尽が全囚人を襲うわけではない。曲がりなりにもここは、NSPDの運営する監獄島だからだ。(何故彼らは危険と解っているのにイザコザを起こすんだ?)他の囚人達と同じオレンジ色のツナギ服を着たイシカワは、運動もせず、建物の影の下でひとり静かに正座し、恐怖していた。 4

2014-09-02 16:15:39
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イシカワは看守ではなく、他の囚人に恐怖心を抱いているのだ。「ハッハー!見ろよ!腕立て300回もしちまった!エッ……300回!?ハッハー!」グランドで笑う偉丈夫、連続スモトリ殺人鬼タガチマ・イッペイ、通称オニバスタードは、殺した人数だけスモトリ型のキルマークを腕に刺青している。 5

2014-09-02 16:23:31
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あれに締め上げられれば数秒で死ぬだろう。「ハッハー……アァン…?」タガチマがこちらを睨んだような気がした。イシカワは恐れ、視線を横のバスケコートに逸らした。「ウツブアディマウーマン、ナスマーン、ナスマーン」バスケコートの端では、陰気な車椅子の男がブッダの聖句を逆詠唱していた。 6

2014-09-02 16:32:32
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アブナイ!その男はブラックメタルバンド「キルタンク49」の元ベーシストだ!かつてこの男は下半身をサイバネ小型タンクと結合してジンジャに乱入。その場に居た全員を殺した。彼は本名を含め黙秘を続けており、真相は定かではない。イシカワは目を合わさぬように立ち、より隅の日陰へ向かった。 7

2014-09-02 16:36:57
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イシカワは安全地帯で腰を下ろす。2、3分も経つと、再びスイッチが切れたように、ポカンと白い塀を眺めた。自由時間は長い。何もする事がない。周りには誰もいない。監視塔以外は誰も自分を見ていない。それは安らぎ。「晴れやがって…」彼は毒づく。晴れたせいで全房の強制点検が始まったのだ。 8

2014-09-02 16:45:56
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プリズンに投獄されてしばらくの間、イシカワは暗黒メガコーポによる報復を恐れていた。彼らが塀の中まで暗殺者を派遣したとしても、何ら不思議は無いからだ。だが一年も経つと、張りつめていた警戒心は急激に薄れていった。「あれは結局、どこからどこまでが、俺の妄想だったのか……」 9

2014-09-02 16:53:16
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イシカワは曇り始めた空を見上げ、棒切れを拾った。彼はそれを所在なく左右に動かした。やがてそれは……無意識のうちに……ある謎めいた図形を描き出す。中央に丸。その周囲には4つの致命的なトゲトゲ。おお、ナムアミダブツ!それはもしや……スリケンでは!?「おい、あんた」後ろから声! 10

2014-09-02 17:00:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイエッ?」イシカワは我に返り、振り向いた。「そりゃ……スリケンか?」そこには神妙な顔つきの囚人が立ち、顎髭を撫でていた。鋭い眼光。元はヤクザだろう。「アイエッ!?」男の視線を追ったイシカワは、自分が砂の上に描いた危険な図形に気づく。彼は慌てて立ち上がり、靴で踏み消した。 11

2014-09-02 17:06:57
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「まあ慌てんな……座れよ、兄弟」男はヤクザスマイルを作り、イシカワの肩に手を回しながら言った。次の瞬間には耳元で囁く。(((周りは見るな、俺はお前に危害を加えん)))ドスダガーめいた鋭い声で。イシカワは従った。この手慣れた所作……元は強力なグレーターヤクザだったに違いない。 12

2014-09-02 17:13:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何であんなに慌てたんだ」「特に何も……いったい何の話を……」イシカワは全身から汗が吹き出すのを感じた。「とぼけるンじゃねえよ……スリケンだよ」ヤクザが静かに言った。「スリケンだなんて、そんな、まさか……馬鹿馬鹿し」「ニンジャを見たんだろ」「アイエッ!?」イシカワは恐れた。 13

2014-09-02 17:20:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あんまり大きな声出すンじゃねえよ。ニンジャって言われて、何でそんなに焦ってんだ?」「な、何も、焦ってない」イシカワは答えた。「テメエはすぐ顔に出るな。その傷、埋め込み型サイバーサングラスのボルト跡だろ。ハック&スラッシュの現行犯でブチ込まれたか?」「あ、あんたには関係ない」14

2014-09-02 17:29:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺ァ不思議なのさ。刑務所にブチ込まれる程のワルが、何でそんなに焦るかねえ」男は言った。ニンジャはフィクションの産物だ。吸血鬼やドラゴンと同じ、子供騙しの存在だ。それにここまで過剰反応するとなれば……「可能性はふたつ。あんたサイコ野郎か?それとも、本物のニンジャを見たか?」 15

2014-09-02 17:36:34
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「自分でも実際解らない」イシカワは頭を押さえながら言った。そして、何かを思いついた。「…あんたは、あんたはどうなんだ?見たのか、ニンジャを」しばしの沈黙。ヤクザは頷いた。「そうだ」「あんたがスガモにブチ込まれた理由も、ニンジャ絡みの事件なのか?」イシカワの顔が明るくなった。 16

2014-09-02 22:01:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ああ、そうだ」ヤクザは苦い顔を作って頷いた。暗く重い秘密を背負うピルグリムめいた表情で。イシカワは目を大きく見開いた。「ニンジャは実在するんだな?俺の妄想でも、都市伝説でもなく……」「てめぇはニンジャに遭遇して生き残った。そうだな?」「ああ」「恐れ入ったぜ、大したタマだ」 17

2014-09-02 22:08:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「単純に幸運だっただけだ」イシカワはかぶりを振った。「ツキも実力のうちだぜ。……自己紹介が遅れた。俺の名はヤマヒロだ」ヤクザが言い、ケジメされた厳つい手で握手を求めた。相手を真の男と認めるかのように。イシカワは大きな栄誉を味わった。これもまた、グレーターヤクザの手練手管だ。 18

2014-09-02 22:15:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イシカワだ」彼も名乗った。ヤマヒロが返した。「……先に質問しとくが、イシカワ=サン、俺がこれから聞く話は、マッポにも聞かせたか?」「ニンジャ部分は話してない。狂人扱いされてアサイラムに放り込まれると思ったから」「サエてるな」ヤマヒロが頷く。「じゃあ兄弟、話してもらおうか」 19

2014-09-02 22:22:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……俺は向かう所敵無しの、調子に乗ったハッカーだった。暗黒世界なんてチョロいもんだと、いい気になっていた。ハック&スラッシュのビズは、実際4連続でアタリを引いていた……」イシカワが語り始めた。いつの間にか、そうなっていた。語り始めたからには、もう後戻りはできなかった。 20

2014-09-02 22:29:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「華々しい暮らしか?」「そうでもない。装備に必要な分だけ取り、あとは全額ドネートしていた」「ドネート?」ヤマヒロが聞き返す。「ああ、おかしな話だろ。どうかしてたんだろうな。それが俺の趣味だった。難病バンクの登録患者を適当に……まあ少々の好みを加味して選び、匿名で寄付する」 21

2014-09-02 22:36:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハック&スラッシュで作ったカネを、寄付?」「おかしかったんだ、俺は。現実感がどんどん剥離していった。UNIXゲームみたいに」彼は手を振った。「ある難病少女を救うために、あと少しで目標金額達成だった。加えて俺がトップ。勿論それに何の意味も無い。患者とは会わないし自己満足だ」 22

2014-09-02 22:45:06