ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ10100245:メニイ・オア・ワン #2
(これまでのあらすじ:ニンジャスレイヤーはネオサイタマを支配するニンジャ組織アマクダリ・セクト「12人」のうち、マジェスティ、ブラックロータス、メフィストフェレスを殺害した。だが彼らはネオサイタマ表社会における名士でもある。ニンジャスレイヤーとナンシー・リーは実名指名手配された)
2014-09-06 21:33:45(ナンシーはアマクダリ・セクトの強大なハッカーニンジャ、アルゴスのカウンターハッキングを受けた。想像を遥かに上回る彼のタイピング速度によって、ナンシーはUNIX施設を用いたリカバリーを余儀無くされる。警察機構の包囲網が狭まる。ハイデッカー。そして悪名高きならず者集団、49課)
2014-09-06 21:39:09(夜間オフィスに忍び込み、ハッキング行為を再開したナンシーのもとに到達したのは、49課の無慈悲なデッカー(刑事)、タフガイとスポイラー。彼らは警察であり、ニンジャでもある。ナンシーは逮捕されたのだ! #1 まとめ: togetter.com/li/713623 )
2014-09-06 21:42:17プロココココ……プロココココ……UNIX音とLED光で満たされた薄暗い船橋のカーボンフスマが開いた。威厳溢れる足取りで戻ってきた中年女性は、治安維持機構「ハイデッカー」の長官、ジャスティスである。彼女はコートの裾を翻し、中央の指揮官席に座った。「状況を」 1
2014-09-06 21:50:08「こちらを」ハイデッカー事務官の一人が駆け寄り、レーザーポインターでサブモニタを示した。ネオサイタマ市街区地図が表示されている。交通の要所に点滅するマーカーが意味するのは検問所ユニットの設置状況だ。「粛々と進行しております。遅延はありません」「よろしい」 2
2014-09-06 21:55:46別のサブモニタがライブ映像を展開した。4つのローターで飛行する鬼瓦輸送機が、黒塗りの巨大な長方形物体を鋼鉄のワイヤーで吊り下げている。鬼瓦輸送機は交通規制された交差点に、その物体を無造作に落下させた。ナムサン。これこそが今回導入された簡易検問所ユニットである。設置に1秒! 3
2014-09-06 22:01:36隔壁には「厳しい」「お上」「絶対的」といった文言が白インクでショドーされ、犯罪者のみならず市民達をも本能的に恐れさせる。市民達はしかし、これも治安維持の為、自分達の為にハイデッカーが尽力している証拠なのだ、と自らを納得させ、隔壁から流れるリラグゼーション音楽に耳を傾けるのだ。4
2014-09-06 22:07:04このシステムはニチョーム地区を隔離する行程でその有用性を実地に検証済であり、今回、フジキド・ケンジの行動を大義名分に、躊躇なくネオサイタマ全域に投入された。ジャスティスは「今夜逮捕者数100倍目標」のショドーを見た。「そしてフジキドの挑発行為」事務官が躊躇いがちに切り出した。5
2014-09-06 22:13:27「……」ジャスティスは脚を組み、組んだ手を膝の上に乗せた。彼女は事務官をひと睨みしたのち、天井のエンブレムを見上げた。「天下」の漢字を意匠化したエンブレム!アマクダリ・セクト!「奴め」彼女は呟いた。フジキドが立てた黒い旗は既に三つ。フジキド……ニンジャスレイヤーの目的は明白だ。6
2014-09-06 22:22:06「ナンシー・リーの確保は完了したか」「残念ながらまだです」事務官が目を伏せた。「しかし、アマクダリ・ネットは彼女の所在地をほぼ割り出しております。クマナミ・ストリートの封じ込めもじきに完了します」「ほぼ?じきに?そんな無駄口を私にきくな!」「申し訳ありません!」事務官は失禁! 7
2014-09-06 22:33:27ジャスティスは検問所設置状況と検挙者数ゲージの増加を見ながら眉根を寄せる。アガメムノンのハナミ儀式。ニンジャスレイヤーの攻撃をトリガーとする非常事態シーケンス。2つが同時進行している。今夜は重大な夜となった。いや……ニンジャスレイヤーもそれを狙ったのだ。 8
2014-09-06 22:43:55ニンジャスレイヤーの手によって「12人」に実害が及ぶ状況は最悪の事態として予め想定はされていた。然り、想定内だ。「12人」の誰かが死亡もしくは行動不能となった場合、今回のカウンター・プロトコルが発動し、彼をスケープゴートにした治安維持システム強化にスムーズに移行する仕組みだ。9
2014-09-06 22:50:10(何をするかと思えば、旗とはな)ジャスティスは口の端を歪めて笑った。(幼稚極まる示威行為)ニンジャスレイヤーがいたずらに市民を恐怖させればさせるほど、ハイデッカーの地位は強固になる。渡りに船といってよい。だが楽観にはまだ早い。ナンシー・リーの確保に時間がかかりすぎている……。10
2014-09-06 22:55:45「バッカオメー!先にシャッターしめちまって……真っ暗じゃねえか」「スミマセン」スポイラーは左腕のライトをつけて闇を探った。「電気は……」彼は腕部液晶モニタを開き、倉庫の電力源をサーチした。「今、電気つけます」ガゴン……レバーを引き上げる。点灯。「便利だな!ビールも冷やせるか」12
2014-09-06 23:06:34「どこ?ここ」ガレージ内を見渡したナンシー・リーは、拘束されて武装オープンカーに座らされたままだ。「知るか」タフガイはその場で腕立て伏せを始めた。「フーッ、適当な倉庫をフーッ、借りただけだ」「気が合うかもね。さっきの私と同じ事してる」「フーッ、バカが。俺らは公権力バンザイだ」13
2014-09-06 23:16:03「署に連行しないの?ミスター公権力さん」ナンシーは尋ねた。「フーッ、してほしいのか?嘘つけ……フーッ、だがあいにく、俺らにゃ俺らのやり方が、フーッ、やり方がある。お前には黙秘権がある……」「あらそう」ナンシーはシートにもたれ、目を閉じた。 14
2014-09-06 23:26:19「通信が確立しましたよ」車の傍でしゃがみ込み、UNIXブースターに左腕を接続していたスポイラーが、タフガイを振り返った。タフガイは腕立てを続けながらそちらを見た。「フーッ、デッドエンド=サン、フーッ、やけに時間かかってやがるじゃねえか」「それがどうも、寄り道していたッてんで」15
2014-09-06 23:31:28ナンシーは片目を開けてスポイラーのUNIXブースターを見た。「ご大層なもの使ってるじゃない。そんなもの使って、強制排他的通信?LANを使わないの?NSPDのネットワークは?ねえ、私、ニセ警官に捕まったのかしら」「フーッ、俺らをナメるなよ、姉ちゃん。インタビューするのは俺らだ」16
2014-09-06 23:38:07「じゃあ、したら?」ナンシーは言った。「黙秘権を使ってみたいわ」「悪いが」タフガイは腕立て伏せを終え、トランクのクーラーボックスからスパイスビールの瓶を取ると、王冠を歯で外し、ラッパ飲みした。「今回それは俺らの仕事じゃねえンでな。おい、後何分だ。寄り道だと?」「それが……」17
2014-09-06 23:45:10「何だよ」「ノボセ=サンが一緒なんですよね」「ブーッ!」タフガイはビールを噴いた。「寄り道ッてのが、どうも、そういう事みたいで。ナンシー・リーの身柄確保をデッドエンド=サンに伝えたじゃないですか?それがどうも、ノボセ=サンに……」「面倒くせえな。年寄りは早寝早起きしろよ」18
2014-09-06 23:48:07「ノボセ?」ナンシーは思わず口に出した。タフガイとスポイラーが同時に見た。ナンシーは目を閉じた。スポイラーはUNIX画面に目を戻した。「マッポネットに、ハイデッカーからウチへの名指しの報告要請が掲示されてます」「シカトだ」タフガイは即答した。「何様だ。調子に乗ってンじゃねえ」19
2014-09-06 23:55:58「参ったな」スポイラーは舌打ちした。「連中、クマナミ地区の封鎖を始めたみたいです。検問ユニット輸送機の動員を他より優先してる」「ここに合流できンのか?」「ウーン」スポイラーは道路図とデッドエンドのビークルの現在地を確認する。「ちょっとマズイかも……」「寄り道してッからだ」20
2014-09-07 00:05:45言うが早いか、タフガイは武装オープンカーに飛び乗り、エンジンを始動した。スポイラーも素早くUNIXブースターを折りたたみ、助手席に戻った。「あら、場所変えるの?」後部座席からナンシーが問うた。「おう。わりィが、ちょいと追加のドライブだ」武装オープンカーがいきなりバック! 21
2014-09-07 00:13:42