アーバン・レジェンド・アブナイ #3

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【アーバン・レジェンド・アブナイ】#3

2014-09-11 15:21:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(あらすじ:タマ・リバーに浮かぶ監獄島、スガモ・プリズン。ニンジャ事件に巻き込まれた末に投獄された、元ハッカーのイシカワ。彼は別のニンジャ事件関連者と思われる囚人、元ヤクザのヤマヒロと出会った。心強い理解者を得たとイシカワが安堵した矢先……彼は死んだ筈のシゲオの幻を見るのだった)

2014-09-11 15:27:30
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「アブナイ」「割り込まない」「更生して」「世界平和」……重犯罪囚人たちに向けられた手厳しいモラル・ショドーが、食堂室のコンクリート壁に貼られている。しかしこれらの空虚なスローガンは、もはや看守たちにすら顧みられることはなく、油汚れで朽ち果てようとしている。 1

2014-09-11 15:34:40
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「ジンジャで十二人殺した」「デッカーを殴ったことがある」イシカワの前に並んでいる屈強な囚人二人が、逞しい上腕二頭筋とタトゥーを誇示しながら、シャバでの武勇譚を競い合う無益行動。「私語厳禁!私語厳禁!」配給の老人看守が壊れたラジカセめいて繰り返し、配膳皿へ合成ヤキソバを盛った。 2

2014-09-11 15:40:18
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イシカワは剥がれたタイルで足を滑らせながら、ヤキソバをもらった。「私語厳禁!私語厳禁!」老看守は繰り返す。誰も注意を聞かない。入口でライオット銃を構える厳めしい警備マッポも、サイバーサングラスの下では万札を賭けたIRCショーギをプレイ中。スガモ・プリズンは老朽化し予算不足だ。 3

2014-09-11 15:47:44
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無論、監獄島への出入りはハイテク検問で厳しく取り締まられ、対空砲もある。しかし外部の目が届かぬ所では、予算カットと穏やかな腐敗が進行中だ。誰もこの刑務所から逃げ出したり、暴動を起こそうとしないからである。重犯罪者はまず間違いなく、シャバに敵を持つ。ここの方が遥かに安全なのだ。 4

2014-09-11 15:56:54
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『コブチャです』自動サーバーが非人間的な電子マッポ音声を発し、湯のみにコブチャを注いだ。イシカワはテーブルのすみに座り、チャを飲んで、食料を胃に詰めこむ。「ヤマヒロ=サンは、ウサギ棟か…」彼は溜め息をついてひとりごちる。彼はニワトリ棟であり、一緒になれる機会は少ないと解った。 5

2014-09-11 16:04:03
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今日もネオサイタマには、重金属酸性雨が降りしきる。昼でも監獄内は暗い。ガゴンガゴンガゴンキー…壁の大型ファンが錆びた音を立て、天井のタングステン灯は漏水でしばしば火花を散らす。「ネズミ棟の改修工事、いつ終わる」「予算なんて、永遠に降りねえんじゃねえのか」横で囚人らが談笑する。 6

2014-09-11 16:08:42
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イシカワは突如、誰かの視線を感じた。冷や汗を垂らしながら、広い食堂内を見渡した。オレンジ色のツナギを来た囚人たちが多数。中央では、次ローテーションの囚人らが配膳エリア前に長い列を作っている。その人ごみの向こう……遠くのテーブルに、その男はいた。傷だらけの顔。青い目。シゲオだ。 7

2014-09-11 16:14:45
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そのシゲオは囚人服を着て、コブチャを飲みながら、冷たい目つきでイシカワを見ていた。目を逸らす事なく、遠くから、彼をじっと凝視し続けていた。何かを言いたそうな顔で、じっと。「アイエエエエエ……」イシカワは椅子から転げ落ちた。「おい、どうしたよ、ニボシ野郎」隣の囚人が笑った。 8

2014-09-11 16:21:26
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「いや、な、何でも無い」イシカワは額の汗を拭い、深呼吸して立ち上がった。そして再び、シゲオがいた方向を見る。囚人の列が邪魔でよく見えない。列が進んだ。目を凝らすと……そこは空席だった。「何だ、また幻覚か……?どうなってんだ」「おい、ここを出てアサイラムにでも行ったらどうだ?」 9

2014-09-11 16:26:46
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……一週間が経った。あれから三度、イシカワは監獄内の別な場所でシゲオらしき男を見ていた。正体を確かめようとしたが、そのたびに、男はどこかへ行ってしまった。数少ない囚人仲間に聞いても、そのような男は知らないという。そして一週間後のこの日……イシカワは図書館でシゲオを見た。 10

2014-09-11 16:37:04
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書架と書架の間、人目につかない場所で、彼はシゲオと向かい合ったのだ。「ようやく話し合えるぜ、イシカワ=サン」それは声を発した。「消えてくれ……」イシカワは、それがオバケか、あるいは脳内UNIX記憶から現れたテクノ幻影だと思っていた。「センコを供えて欲しいなら、出所後に……」 11

2014-09-11 16:43:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺を、死人だと?」シゲオは傷だらけの唇を歪ませ歩み寄った。人工皮膚で覆われたその顔は、あの事件の時よりも、さらに醜悪になっている。「シゲオ=サン。みんな、死んだんだ。あんたもブッダのもとへ…」「ならこれでどうだよ」彼はイシカワの持つ本を奪い取った。ナムサン!実体がある!? 12

2014-09-11 16:49:49
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「アイエッ!」イシカワは息を呑んだ。「やっぱりあの時のハッカーか。会えて嬉しいねえ…。話がある、俺と来い。仲良くしようぜ」「ハイ」有無を言わさぬ声だ。シゲオは彼の肩を叩いてスキンシップし、読書机へ連行した。歩きながら、イシカワはサイバネで心音をスキャン。確かに拍動している。 13

2014-09-11 16:57:01
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「聞きたい事がある。お前は協力する義務がある」「解った、何でも言う。その前に、生きてた理由を証明してくれ」イシカワは脂汗を垂らした。「俺はサイバネ心臓を埋め込んでる」シゲオが左胸を指差した。「だがそれは些細な問題だ。この世界では密かに二つの軍団が闘争している。天使と悪魔だ」 14

2014-09-11 17:06:50
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「エッ!?」イシカワは絶句した。途方も無い狂気が、相手の言葉から漏れ出している。「俺はサイバネ心臓を一時停止して生き残り、天使の軍団に加わる事になった。お前がどちらの側に属するのかを、これから判定する」シゲオは続けた。「質問は簡単だ。ハイ、イイエ、どちらでもない、で答えろ」 15

2014-09-11 17:12:06
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「待ってくれ、シゲオ=サン。あの日、殺戮の中で何を見た。それはニン」「シーッ、黙れ、それは減点だ」シゲオは無表情に言った。そして拳を握った。「かなり大きな減点だぞ」「アッハイ」イシカワは萎縮した。この男もまた、あの悪夢の如きニンジャ体験で、精神に混乱をきたしたのだろうか。 16

2014-09-11 17:18:33
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質問が始まった。「お前はあの日、ただひとり生き残ったと思い、カネを持って逃げたな?」「ハイ」「その後、自首してここに逃げたか?」「ハイ」「カネはどうした?あれは俺たち全員分のカネだ。大金だ。シャバに隠したか?」「イイエ」「趣味でドネートしてるってのは、嘘だろ?」「イイエ」 17

2014-09-11 17:28:35
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イシカワは生きた心地がしなかった。おぼろげに、シゲオが何を糾弾しようとしているのかが、掴めてきた。「いい結果が出てきている」シゲオは頷きながら言った。「さらに判定を続ける」「ハイ」「お前は元々ヨロシサンの手下だったか?」「イイエ」「では他のメガコーポの手下か?」「イイエ」 18 

2014-09-11 17:32:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「暗黒メガコーポは悪魔の側に属していることを知っていたか?」「イイエ」また雲行きが怪しくなってきた。イシカワは休み時間終了の電子音声を待ち望んだ。「お前は俺たち全員をワナにはめて殺し、カネを総取りしようとしたな?」「イイエ」「もう一度よく考えてみろ。答えは?」「イイエです」 19

2014-09-11 17:40:24
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「……あと2問だ。お前は盗んだデータを偽物だと言い、俺たちを騙したな?」「イイエ、ラッコでした」「お前は実は、最終戦争に関わるデータを、その時入手していた」「イイエ、本当にただのラッコでした」「フゥーッ…」シゲオは息を吐き、舌打ちした。「残念な結果だ。お前は嘘をついている」 20

2014-09-11 17:50:17
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「本当だ!全て、ブッダに誓って、本当だ!」イシカワが懇願するように言った。「俺をあまり怒らせない方がいいぞ」シゲオは歯ぎしりしながら立ち上がり、イシカワの両肩に手を乗せ、強引に椅子に座らせた。「解ったぞ。お前はまだあのデータを隠し持ってるんだな。この頭の中に」「アイエッ!」 21

2014-09-11 17:56:35
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『休憩時間、あと5分、ドスエ。シマッテー』福音の如き電子マイコ音声が監獄に響く。ガムを噛んでいた警備マッポたちが顔を上げ、異状が無いかを確かめ始めた。「……いいか、俺は諦めないからな。俺はカラテ18段だ」シゲオは手を離すと、残忍そうな笑みを浮かべて、イシカワのもとを離れた。 22

2014-09-11 18:05:05