♭7 協奏曲 ♪ NO perfect One gOes (1次予選編前半)
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ミストルティン編 第十八話「壊縁 ♪ ~ホワイトのショータイム~インディヴィジュアリスツ・エイム~」 過去編・♭7 協奏曲 ♪ NO perfect One gOes (中編)
2014-09-17 01:02:192010年7月。アクトボット茨城地区予選会場(某中学体育館)。 「やめろおおおっ!」 会場に絶叫が響く。その男子高校生達のロボットは一方的に噛み砕かれつつあった。「竜型ロボットが、人型ロボットによって「噛み砕かれていた。 1
2014-09-17 01:08:08人型は中央の分割線で白と黒の半身ずつに分かれる。断面から内向きに生えた牙が機械竜を挟み込み、「咀嚼」する。 「フハハハ、弱いと死ね」半分こ怪ロボットの操縦者…勇矢が悪意の限り哄笑する。彼は前年の上位入賞者である。1人で大人チームを次々蹴散らした。普通の高校生が勝てよう筈もない。2
2014-09-17 01:15:07だが、勇矢は本来こんな風に目立ってはいけない。1人でも凶悪な彼が今年も、そして今度は3人で参加している…と知られれば対策を立てられてしまう。だから正体を隠すことにした。1次予選では個人名は一々呼ばれない。チーム名も去年と変え、変装もしている。 3
2014-09-17 01:20:03手加減し目立たずに勝てば1次中は大丈夫な筈だった。どの道2次進出が決まれば個人名を呼ばれてしまうが、それでも多少は期待できる。強豪と知らなければ観客も注視せず、撮影・録画もしない。2次までの1月半、対策が取られにくくなる。なので目立ってはいけなかった…のだが。 4
2014-09-17 01:25:12「何やってんだか…」 隠匿を提案した星護が額を抑えてぼやく。 「なんか…ゴメンな」 勇矢の幼馴染、七橋裕岐は平謝る。初戦での作戦失敗に呆れつつも見守るしか無い。1次予選は1on1である。応援やアドバイスはともかく、操縦者への物理的接触は一切禁止である。 5
2014-09-17 01:30:17厄介なことに1試合15分の間、タイムは基本無い。多くのロボット競技大会では、動作不良時などに一定のタイムが認められるものだが、アクトボットにはそれがない。自力あるいは他のロボによって場外に出て修理を受けるしかない。つまり1on1の今は止まった時点でほぼ負けである。 6
2014-09-17 01:35:15それを踏まえて現状を見てみる。敵の龍ロボは肩から下を噛み砕かれ、客観的に見てもう勝ち目はない。だが、まだ龍型の首と頭が残っている。「首だけで抜け出して無傷の敵に奇跡的な逆転勝利をする」可能性が残っている以上、降参しなければ負けでは無い。 7
2014-09-17 01:40:11アクトボットの負けパターンは降参や規定違反以外では、全機が一分以上動作しないか場外におり戦えない、一定以上の点差(残時間や毎年の競技詳細で決まる)がつく、そして試合終了時に一機も自力で退出できない…などである。このまま降参しなければ、最後のパターンによる負けになるだろう。 8
2014-09-17 01:50:02操縦席の勇矢は、罵詈雑言を内心見下しながら無視していた… 「なんだ、だんまりかよ!」 「びびってやんの」 「お姉さん、後で俺達とイイコトしません?」 …この時までは。 「最近の『イイコト』ってのは『女連れにボロ負けする』って意味だったか?」 優祈は冷たくあしらう。13
2014-09-19 18:10:03一方、勇矢は無言で左手の指を一本折る。 「俺はこんな愛想のないババァよりこっちの娘の方が良いなぁ」 「お前ロリコンかよっ!」 高校生達がふざけるのを横目にもう一本折る。彼らが言う『この娘』とは星護のことである。今の彼は女装していた。二重の意味で大胆な肩出しワンピースである。14
2014-09-19 18:20:10「ねぇ君…」 星護に向かって来やすく伸ばされた手の前に裕岐が割って入る。 「おい邪魔すんなよ、アホガキ。俺はこの娘に」 また勇矢が折った。 「もう審判が来ますよ。ジャッジキルされる前に座ったらどうですか」 裕岐は冷たく返す。実際、体育館の入口から何人か入ってきている。15
2014-09-19 18:30:18「けっ分かってるよ、クソが」 口惜しそうに離れていく。 一瞬「貴方が熱を上げてるコレは男ですよ」と伝える考えが浮かんだ。その方がダメージは大きかろう。だが、まず信じまいし、信じたところで「女装野郎」だとか言われるのは明らかなので何も言わない。第一、変装が無駄になる。 16
2014-09-19 18:40:03「何だよ、こっちは何日も徹夜したり苦労して仕上げてきてんのにそんなガラクタ出されちゃ迷惑なんだよ!」 「戦うこっちまで変な目で見られちまうぜ」 なおも煽って来るが、4人は無視した。見識を欠いた罵倒は騒音にも劣る。大体、仮に勇矢が弱いならその方が彼等には好都合ではないか! 17
2014-09-19 18:50:10小中学生の参加も珍しくは無い。総当たり式なので勝てそうな相手とだけ戦い、強敵相手には棄権すれば機体を温存できる。対戦順や配置ブロックなどの運次第では賞金数万~数十万の獲得も夢では無い。もっとも2次以降ではまず勝てない。運良く進出権を得ても、放棄して賞金を増額するのが賢明だ。18
2014-09-19 19:00:15そもそも18歳以上の保護者1名を用意し、参加費を払えば誰でも参加できるのだ。レギュレーション測定も終えている。どんなロボを出そうがとやかく言われる筋合いはない。勇矢は無言で準備を終え、席に座った。高校生達は自分達の席に向かう道すがら、勇矢の肩を撫でていこうとし全力で躱される。19
2014-09-19 19:10:07煽る目的の肩撫でとは言え、肉体的接近を回避されて良く思う人間はいない。 「けっ何だよ!そんな胸ばっかに栄養行った女連れてて頭ダイジョウブか~?」 「ロボットじゃなくてお前らの夜の面倒でも看て貰ってるのか~?」 「ハハハハ!毎日2人で吸わせてもらってんでちゅか~?」 20
2014-09-19 19:20:09勇矢は座ったばかりの椅子から立ち上がった。そのまま飛び上がり殴りかかる!…かの様な勢いであった。更に指を折った。「指折り」という比喩表現では無い。文字通り骨から折った。これで4本目である。 「なっ…」 これに気付いた高校生達は言葉を失う。青冷める。 21
2014-09-19 19:30:19(おい、まさかこれを俺達のせいにするつもりじゃ…) 比較的頭の回転が速い一人が隣の者にそう告げるが、そうでは無かった。 勇矢は厳かに口を開く。 「…先生を侮辱した罪、そこの女そ…エロ小学生を馬鹿にした罪…」 「…いや勇?お前もそれ馬鹿にしてね?」 裕岐が突っ込む。 22
2014-09-19 19:40:05勇矢は裕岐を振り返る。 「…なんかあの罪…」 再び前の真のアホガキどもを見る。 「先生を侮辱した罪(二回目)…」 「俺をアホガキ呼ばわりした罪は!?」 勇矢は折れた指に右手を掛ける。 「これも!これもこれも!これも!先生を侮辱した罪!」 指をもう一度ずつ折っていく。 23
2014-09-19 19:50:15「おい!もうやめろ!勇!」 余人なら1本でも異常行動だが、流石に勇矢基準でもコレは異常である。そもそも普通なら一生指が動かなくなりかねないダメージだ。 裕岐は右腕を掴んで止めようと動くが、その直前に指折りは止まった。 「…勇…?」 24
2014-09-19 20:00:12「僕はお前らの罪を数えたぞ……次はお前らの番だ。せいぜい僕の罪を数えて貰おうか…そのガラクタの体を使ってな…!」 審判がようやくやってきた。 25
2014-09-19 20:15:11