アーバン・レジェンド・アブナイ #4
(あらすじ:タマ・リバーに浮かぶ監獄島、スガモ・プリズン。ニンジャ事件に巻き込まれた末に投獄された、元ハッカーのイシカワ。彼は別のニンジャ事件関連者と思われる囚人、元ヤクザのヤマヒロと出会った。心強い理解者を得たと安堵した矢先……イシカワは死んだはずの共犯者シゲオの亡霊を見る!)
2014-09-18 22:08:00(イシカワはこれを、己の罪悪感が産んだ幻覚と考えたが……シゲオは実際入所していた!しかも彼は、ニンジャリアリティショック後遺症により、イシカワの脳内情報を狙う危険サイコパス野郎と化していた!シゲオは休憩時間にヤマヒロをカラテで始末!さらにイシカワを閉鎖中のネズミ棟へと拉致し……)
2014-09-18 22:14:36「……ザザザザ……ハァーッ、ハァーッ、おい、大丈夫か?ここまで来れば、もう安心だろう。おい回ってるか?カメラだ、回ってるか?……ずっと回ってる?ファック!……皆さん、見ましたか?……!恐るべき光景です、極めて恐るべき光景を……ザザザザザザ……我々取材班は撮影してしまいました」 1
2014-09-18 22:17:34「……都市伝説は本当だったのです。ザザザザ……恐ろしい体験でした。白いワニ、実在します」『実在する』とモニタに大きな文字が流れる。「一歩判断を間違えば、我々も今頃。……フXXク!おい!来たぞ!……ザザザザザザ……フXXク!ナムアミダブツ!逃げろ!逃げろ!アイエエエエエ!」 2
2014-09-18 22:22:05「……ザザザザ……果たして報道特派員たちが見たものは?」「「「コワイ!」」」チープな電子観客音声。「続きはコマーシャルの後!その後はザザザザ……数々の再現映像をもとに、あのツキジ・チェーンソー・マサカー事件の裏側に迫ります!マグロ冷凍室に隠された禁断の殺人部屋!?ご期待……」 3
2014-09-18 22:27:34ザザザ…ザザザザ……どこか冷たく湿った薄暗い場所でイシカワは目を覚まし、そのノイズ混じりのTV音声を聞く。ありふれたスカム都市伝説番組だ。……問題は、自分が今どこに居るのか、その音声と明滅するモニタ光が何に由来するか、全く検討がつかない事だ。身体を起こそうとしたが、動かない。 4
2014-09-18 22:34:54手足、そして腰の辺りで、ベルト固定具の音が鳴る。(((俺は……拘束されてるのか……?)))途端に、恐怖によって脳内薬物が分泌され、神経がシャカリキでガツンと殴られたかのように冴え渡った。心臓が暴れ出し、呼吸が粗くなる。(((俺は寝台の上か?……拘束具付ストレッチャー?))) 5
2014-09-18 22:40:23(((警備マッポが助けてくれたのか?ならここは何処だ?そこら中で雨漏りの音が聞こえるぞ)))壁でバチバチと非常ボンボリ灯が火花を散らす。もう一度身体を捻ってみるが、拘束は固い。無駄な抵抗だ。(((なんで俺をうつぶせに固定する。おかしいだろ。患者は仰向けに固定するもんだろ))) 6
2014-09-18 22:46:29イシカワはサイバネ聴覚のノイズ閾値をさらに下げた。部屋はかなり広い。反響音でソナーめいて解る。他の人間の心音は聞こえない。今のうちに何とかしなければ。「ンーッ……ンーッ……」イシカワは首を左右にひねる。天井から吊り下げられたTVの光が、部屋の隅で明滅する。囚人用娯楽ホールか。 7
2014-09-18 22:56:45壁には戯画化されたネズミの絵とそれを示す漢字が大きく描かれ、経年劣化で半ばカサブタめいて剥がれ落ちている。ここはネズミ棟だ。間違いなく、あの男がやったのだ。あの男がシゲオだと、イシカワは気絶直前に気付いた。声色を変えているが、波形が同じである事実に気付いたからだ。だが遅かった。8
2014-09-18 23:02:47あの男がシゲオならば、何故仰向けではなくうつ伏せかは、想像に難くない。彼は今、入所時に埋められた後頭部の生体LAN端子穴3個を無防備に晒し……(((ダメだ、他にもっと考える事がある)))イシカワは状況把握と脱出の手段捜索に集中を試みた。凄まじい緊張で、口の中には唾がもう無い。 9
2014-09-18 23:11:41「…ウーッ!ウアーッ!」イシカワは再び全身を暴れさせた。寝台が盛大に鳴る。(((何か無いか何か無いか何か無いか……奴が帰ってくる前に!)))イシカワは歯を食いしばり、精神状態を過去にチューンしようとした。精神を犯罪者のチャネルヘ戻せば、さらに冷静な判断ができるやもしれぬ。 10
2014-09-18 23:22:02「アアアアーッ!」イシカワは乏しいカラテを振りしぼり、再び全身を暴れさせる。だが盛大な音と叫び声が、湿った閉鎖棟のコンクリートに響いただけだった。チューンはまだ合わない。その直後、獣のようなシゲオの唸り声と駆け足の靴音が聞こえ、イシカワは全身を激しいショックで身震いさせた! 11
2014-09-18 23:30:22ノイズ閾値を限界まで下げ、限界まで聴覚を“開いて”いたイシカワは、まるで突然耳元で叫ばれたかのような戦慄を味わう!即座に閾値を上げる!(((落ち着け、まだ『ここ』じゃない!)))「イシカワアアアア!」だが奴は明らかにこのホールに接近している!(((ヤバイ!来る!来る!))) 12
2014-09-18 23:36:09イシカワは首をひねり、恐る恐る音の方向を向いた!SMAAAAASH!娯楽ホールの扉が蹴り開けられ、泡を吹くほど怒り狂ったシゲオが現れた!「イシカワアアア!逃げようとしたのかァ!?イシカワアアアア!」その手には、今しがた漁って来たと思しき、錆び果てたハンダごてとハンドドリル。 13
2014-09-18 23:42:21ナムサン!まさかそんな工具でLAN端子再開通手術を行えるとでも!?「アイエエエエエエエエ!」イシカワは死に物狂いで暴れた!「イシカワアアア!」シゲオは一直線に拘束寝台に駆け寄る!人工皮膚の顔は汗一つ流さず、青いサイバネアイは無表情!だが声には異常なまでの怒気をはらんでいる! 14
2014-09-18 23:50:15CRAAAAH!床のブリキバケツが蹴飛ばされ凄まじい音を立てる!「……フゥーッ!フゥーッ!」シゲオは逞しい腕で、イシカワの背中や拘束部位を乱暴に触り、捻り、後頭部端子痕を指先で確かめた!「逃げてません!逃げてません!」イシカワは絞殺も覚悟しながら、懇願するように叫んだ! 15
2014-09-19 00:00:06「……フゥーッ、フゥーッ……ARRRGH!」シゲオは一度落ち着きかけたが、次の瞬間暴力衝動が振り切れ、ゴリラめいた腕力で両腕を二度イシカワの背中に叩き付けた!「アバーッ!」視界が真っ白になるような激痛!「……フゥーッ……」シゲオは口の泡を拭い、床に座り込むと、肩で息をした。 16
2014-09-19 00:09:03「フゥーッ……フゥーッ……ダメだ……殺しや拷問は……」シゲオはフラフラと立ち上がった。それから傷だらけのサイバネ人工皮膚を首元から脱ぎ、裏返した。「俺は天使の軍団に属す……」傷の無い無表情な顔が現れた。「アイエエエ……」イシカワは失禁し、ストレッチャー中央から水滴が滴った。 17
2014-09-19 00:16:47TVが弱々しい明滅を始める。シゲオは舌打ちし、壁際の非常発電装置のコードを引いた。エンジンが唸り、LEDボンボリ灯がわずかに息を吹き返す。寝台の近くには食事配膳カウンター。その上には恐ろしい工具類、オハシ、LANケーブルが複数。シゲオの腰にはマッポガン、鍵束、IRC端末。 18
2014-09-19 00:24:53「……やめてくれ、頼む、やめてくれ」イシカワが息も絶え絶えに言った。シゲオは下の囚人作業室から漁ってきたハンダごてを接続した。先端が熱を帯び始める。半年前のネズミ棟集団清掃の日から、彼は独りで準備を万端に整えてきた。「イシカワ=サン、これから最後の審判を行う。質問に答えろ」 19
2014-09-19 00:30:27そしてまた、図書館の時と同様の質問が始まった。全て最初から問い直し始めた。質問数は増えていた。「より正確を期すためだ」シゲオは言った。イシカワは答えた。可能な限り時間を引き延ばすために。奴はマッポを殺し銃や通信機を奪った。ならば時間を稼げば望みはある。そう信じる他なかった。 20
2014-09-19 00:45:06「イシカワ=サン、俺たちをハメてカネを持って逃げたな」「イイエ」「ラッコも嘘だな」「イイエ……シゲオ=サン。あの日見たんだろう、そしておかしくなったんだ。あの日、ニンジ…」「シーッ、黙れ!減点だ!二度目だぞ!」シゲオは睨み、拳を握った!怒りパルスはいつ振り切れるか解らない! 21
2014-09-19 00:52:26シゲオは『手術道具』を確認しながら、淡々と質問を続ける。「あれは実はラッコ映像などではなかったな?」「イイエ」「お前の脳内UNIXの開通手術を行い、あのTVに接続すれば、全て解るぞ」「イイエ」「これは質問ではない」「ハイ」もう全ての結末は、最初から決まっているかのように。 22
2014-09-19 01:02:51