「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード2 「バックストリート・ニンジャ」
コンクリート・ビルディングの隙間にのぞく空は、墨を流したような曇天模様。サカイエ=サン・トーフ工場の煙突から立ち上る有毒な煙が、その闇の中へと吸い込まれていく。まさに古事記で予言されたマッポーの世の一側面だ。
2010-07-25 11:54:08重金属の混じった酸性雨が降り注ぐ闇の中、一人のニンジャが灰色コンクリートスラム街の屋根を駆けていた。何故この男がニンジャと解るか? それは、彼がニンジャ装束に身を包んでいるからだけではなく、この雨の中にあって、ひとつも水にぬれていないからだ。
2010-07-25 11:54:16ニンジャの名はバンディット。ソウカイ・シックスゲイツの斥候だ。彼らはニンジャ・ソウルに憑依され、闇に落ちた者たちである。バンディットが手にしたものは、常人の3倍近い脚力。だが、その彼がよもや追っ手に会おうとは、彼自身ですら予想だにしていなかっただろう。
2010-07-25 11:54:28バンディットは焦燥していた。何者かが自分をつけ回している。その焦りから、彼は屋根から目立ちにくい裏路地へと飛び降り、小道を進んでいった。しかし、運悪く道はそこで行き止まりになっていた。
2010-07-25 11:55:04「ワッショイ!」 禍々しくも躍動感のある掛け声とともに、トーフ屋の煙突の上からもう1人のニンジャが跳躍した。そのニンジャは体操選手の着地ポーズのように姿勢良く腕を広げたまま、稲妻のような速さで路地裏に飛び降り、バンディットの退路を塞ぐ。
2010-07-25 11:55:29闇の中で対峙する2人のニンジャ。彼らはお互いの中心点を軸にして、円を描くようにじりじりと歩み、間合いをうかがった。 「ドーモ」 飛び降りたばかりの暗い影が、横歩きを一瞬止めて一礼をした。 「ドーモ」 バンディットもこれに答えて一礼をする。
2010-07-25 11:55:45先に正々堂々とアイサツをした男は、動脈血のように赤黒いニンジャ装束をまとっていた。風がマフラーのようにたなびくぼろ布を揺らして、彼の口元をあらわにした。赤々と燃える目より下は、金属メンポで覆われ、その両頬には「忍」「殺」の文字が刻まれていた。
2010-07-25 11:56:04そのニンジャは、ゆっくりと、しかし冷徹な声でこう言った。 「ここまでだ、バンディット=サン。おぬしに逃げ道は無い。観念せよ」 「何故俺の名を? 貴様は、もしや、ニンジャスレイヤー=サン!」
2010-07-25 11:56:24バンディットが驚きとともに声を発した瞬間、気勢とともにニンジャスレイヤーの右腕がムチのようにしなり、目にも止まらぬ速度で2枚のスリケンが射出された。 「イヤーッ!」 「グワーッ!」 スリケンがバンディットの両目に突き刺さる! 両目から血が噴出した!
2010-07-25 12:01:57機先を制するように、ニンジャスレイヤーの右腕がムチのようにしなり、目にも止まらぬ速度で2枚のスリケンが射出された。 「イヤーッ!」 「グワーッ!」 スリケンがバンディットの喉元に突き刺さる! 壊れたスプリンクラーのように、喉から血がふき出した!
2010-07-25 12:02:09「待て、俺を殺しても組織が貴様を…」 有無を言わせず、ニンジャスレイヤーの右腕がムチのようにしなり、目にも止まらぬ速度で2枚のスリケンが射出された。 「イヤーッ!」 「グワーッ!」 スリケンがバンディットの股間に突き刺さる!
2010-07-25 12:02:15「洗いざらいしゃべってもらうぞ」ニンジャスレイヤーが近づく。 だが、「…サヨナラ!」 と言い残し、バンディット=サンは突然爆死したのだ。 ニンジャスレイヤーは舌打ちする。自爆だ。闇のニンジャ・ソウルは再び地の底に沈み、次なる獲物を狙うことになるだろう。
2010-07-25 12:02:46ニンジャスレイヤーは黒コゲになったバンディットの胸元から、巻物を取り出した。密書を届ける途中だったのか。 ニンジャスレイヤーは入念な結び目をほどいて、それを開いた。達筆が踊っていた。 『コヨイトーフヤシウゲキダ』と。(「ソウカイ・シンジケート」に続く)
2010-07-25 12:03:15