朝日・慰安婦報道の訂正が韓国でスルーされる理由

一連の誤報と遅すぎた「検証」によって、日本国内における慰安婦問題に関する議論をゆがめてしまった。こうした点において、朝日新聞を批判するのは妥当だろう。だが、吉田証言に関する朝日新聞の報道が韓国のメディアや世論に大きな影響を与えたのかと問われれば、かなり大きな疑問が残るのである。
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長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ【朝日新聞・慰安婦報道の訂正が韓国にインパクトを与えない理由(2014年09月29日、澤田克己・毎日新聞ソウル支局長)①】朝日は82年9月2日の大阪版朝刊社会面に大阪市内の講演として報じたほか吉田関連記事を少なくとも16回掲載。bit.ly/10bEzAw

2014-09-30 00:19:50
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正②:朝日新聞は「他紙の報道は」として、毎日新聞と読売新聞、産経新聞も吉田証言を取り上げたと指摘した。ただ、朝日新聞以外の報道は全て90年代に入ってからで、本数も1、2本ずつ。82年から繰り返し取り上げた朝日新聞が突出していることは、明らかだった。

2014-09-30 00:21:12
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正③:朝日の吉田証言報道が韓国世論を誤導したとの見方には少し無理がある。木村幹教授は「朝日新聞の誤報による韓国側への影響は限定的」と話す。この点に関する認識の違いが、日本側に「韓国でも騒ぎになっているに違いない」という誤解を生んだと言えるだろう。

2014-09-30 00:23:16
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ウエッジ朝日訂正④:木村教授によると、韓国メディアが吉田証言に注目したのは91年11月22日の北海道新聞報道。韓国メディアはこの時まで朝日の吉田証言報道を後追いしなかったが北海道新聞で一斉に動いた。韓国の多くのメディアが同月25日以降、吉田氏に取材した記事を大きく掲載したという。

2014-09-30 00:25:25
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正⑤:韓国メディアはそれまで、労働者を中心とする「強制連行」の告白として吉田証言を扱うことが多かった。韓国MBCテレビは84年5月27日のニュース番組で「韓国人労務者と慰安婦たちを強制連行した実務責任者」として吉田氏を取り上げたが他のメディアに広がることはなかった。

2014-09-30 00:26:26
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ウエッジ朝日訂正⑥:それが北海道新聞の記事が出た後は慰安婦問題に関する重大証言との扱いに変わった。同年8月に元慰安婦初の実名証言があり韓国内の関心が高まっていた。MBCは北海道新聞の報道後、吉田氏が「慰安婦強制連行の真相を暴露した」と報じたが、84年の自らの番組には触れなかった。

2014-09-30 00:28:26
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正⑦:朝日慰安婦報道が韓国世論に全く影響を与えなかったわけではない。宮沢首相訪韓直前の92年1月に1面で「慰安所、軍関与示す資料」と報じた時は韓国世論が沸騰し5日後のソウル日韓首脳会談で大問題に。ただし、これは、首脳会談直前というタイミングが大きく作用したものだ。

2014-09-30 00:30:16
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正⑧:朝日新聞を巡っては、90年代初めまでの記事における慰安婦と女子挺身隊の混同も問題とされた。ただ、韓国では80年代初めの時点で既に両者の混同が一般的だったため、朝日新聞はこれに引きずられた可能性が高い。

2014-09-30 00:32:20
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正⑨:朝日慰安婦問題のより大きな誤解は「朝日報道がなければ外交問題化しなかった(はずだ)」だろう。「軍関与示す資料」が首脳会談で取り上げられ一気に外交問題化したが、韓国社会の内部事情を見ると、朝日新聞の報道がなくても慰安婦問題は出てきたと思われる。

2014-09-30 00:35:03
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正⑩:冷静に見るなら朝日報道は時期を若干早めたに過ぎないから朝日誤報取り消しは韓国側にほとんどインパクトを与えていないのだ。韓国で慰安婦問題が大きな注目を集め始めたのは87年の民主化以降。民主化で力をつけた市民運動家の一部が「次の課題」と取り組んだことが大きかった。

2014-09-30 00:36:37
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正⑪:大きな影響力を持つ支援団体、韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)も90年の設立で、主軸は今でも民主化運動出身者だ。朝日新聞による80年代の誤報が韓国社会に大きな影響を与えなかったのは、韓国社会自体が慰安婦問題に特別な関心を持ってはいなかったからなのだ。

2014-09-30 00:37:36
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ウエッジ朝日訂正⑫:市民団体の取り組みが始まってもすぐには影響力を持てない。93年発足の金泳三政権は当初、日本に金銭的賠償を求めないと表明し市民団体とは距離を取ったが95年10月に村山首相が参院本会議で日韓併合条約を「法的に有効に締結された」と答弁したことが外交問題となった。

2014-09-30 00:39:41
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正⑬:当時の事情を知る韓国外務省関係者は「答弁で村山談話への肯定的評価など吹っ飛んでしまった」と振り返る。韓国側関係者は関連を否定するものの金泳三政権の対日姿勢はこの頃から強硬になり元慰安婦への償い金支給などを行ったアジア女性基金にも否定的な立場を取るようになった。

2014-09-30 00:41:00
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正⑭:98年に発足した金大中政権と次の盧武鉉政権では、民主化運動を担った勢力が政権中枢に入り、市民団体の発言力がさらに強まった。金大中政権では、大統領の政治的同志ともいえる存在だった大統領夫人、李姫鎬さんの存在も大きかったのではないかと指摘される。

2014-09-30 00:41:43
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正⑮:李さんは女性運動出身で、大統領選中の共同通信の取材に「慰安婦問題などは、韓国の市民運動が求めている方向で解決してほしい」と明言した。金大中政権では女性省が創設され女性運動出身者が女性相に任命された。韓国市民団体は金大中、盧武鉉両政権時に社会的影響力を確立した。

2014-09-30 00:43:19
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正⑯:政権は08年に保守派に戻ったが、市民団体の影響力は健在だ。その中でも、女性の「性」というセンシティブな問題である慰安婦問題に長年取り組んできた挺対協は、極めて大きな影響力を持つようになった。

2014-09-30 00:44:14
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正⑰:民主党政権の12年春▽首相が改めて謝罪を表明する▽駐韓日本大使が元慰安婦を訪ねて直接謝罪を伝える▽政府予算を使って元慰安婦への人道支援を行う、の解決策を非公式案として韓国政府に提示。この案は佐々江賢一郎外務事務次官が訪韓して伝え韓国では「佐々江案」と呼ばれる。

2014-09-30 00:45:42
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正⑱:日本側は「これ以上は絶対無理」と伝えたが、韓国政府は「日本政府の法的責任を認めなければダメ」と拒否。当時外交通商省東北アジア局長として受け入れ拒否を強く主張した趙世暎氏は今「日本の国家責任を認めていない案を被害者と関連団体が受け入れるとは思えなかった」と語る。

2014-09-30 00:49:22
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正⑲:挺対協が、事実上の拒否権を持つにいたっているということだ。ただ、民主化以降の韓国社会の動きを考えてみると、それは必然の流れのように思える。朝日新聞が吉田氏を繰り返し取り上げたことで、吉田氏を調子づけたという効果は大きいはずだ。

2014-09-30 00:50:35
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正⑳:極端な主張をする韓国の市民団体などに強制連行説の根拠の一つを提供したことも否定しがたい。それ以上に、一連の誤報と遅すぎた「検証」によって、日本国内における慰安婦問題に関する議論をゆがめてしまった。

2014-09-30 00:51:25
長田達治(おさだ・たつじ) @osada_tatsuji

ウエッジ朝日訂正㉑了:こうした点において、朝日新聞を批判するのは妥当だろう。だが、吉田証言に関する朝日新聞の報道が韓国のメディアや世論に大きな影響を与えたのかと問われれば、かなり大きな疑問が残るのである。今最も韓国の内情に詳しいジャーナリストだろうね。よく書けた記事だと思う。

2014-09-30 00:53:03

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リンク WEDGE Infinity(ウェッジ) 朝日新聞・慰安婦報道の訂正が韓国にインパクトを与えない理由 朝日新聞による慰安婦報道の誤報取り消しに対する韓国側の反応はどうか―。この夏、日本に住む知人に聞かれて返答に窮する質問だった。 20 users 181

澤田克己(さわだ・かつみ) 毎日新聞ソウル支局長 1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11年から再びソウルで勤務している。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『LIVE講義 北朝鮮入門』(10年、東洋経済新報社、共著)、訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。毎日新聞サイト内に..

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