「あれは神技ではなく高い操縦技術に裏打ちされた人間業」
10/2 CAPITO氏の連ツイートがありましたので後半に追加しました。
今回の陸自ヘリによる御嶽山での救出活動の報道に接して思うことを徒然に書いてみます。 今回の陸自UH-60JAによる御嶽山での救出が、ネットではホバリング限界を超えた神業といわれているようですど、私は神業とは考えていません。
2014-10-01 01:26:36SH-60のホバリング限界高度が根拠とされているようですが、キャビンに対潜機材を搭載したSH-60とは機体重量も最大離陸重量も違います。UH-60JAの方が機体が軽く、最大離陸重量も大きいのです。
2014-10-01 01:26:47御嶽山のような3,000mを超える高山岳地でのホバリング救出が難しいのは確かですが、航空自衛隊救難隊は、エンジン性能の落ちる真夏や乱気流の吹き荒れる厳冬期など、季節を問わず高山岳地での遭難者救出を、S-62Aのタービンヘリ黎明期からUH-60Jの現代まで連綿と実施して来ています。
2014-10-01 01:28:00そもそも警察航空隊がベル206系列などの非力なヘリしか持たなかった時代は、2,000mを超える高山岳での救出は、その多くを空自救難隊が担ってきました。
2014-10-01 01:28:48現在は警察航空隊の保有機材も高性能になり、例えば富山県警察の管轄山域ではA109K2が配備されたことにより、空自救難隊(この場合は小松救難隊)の山岳救出任務はかなり減少しています。
2014-10-01 01:28:53今回陸自のUH-60JAが投入されたのは、そもそも陸自第12旅団に災害派遣要請があったことと、同旅団隷下の第12ヘリコプター隊が、3,000mでのホバリング救出が可能な性能を有しかつ収容可能人数が比較的大きいUH-60JAを保有していたからだろうと思います。
2014-10-01 01:29:03陸自の保有するCH-47J/JAでもホバリング限界高度だけみれば対処可能に思えますが、陸自のCH-47J/JAにはホイストは装備されておらず、接地する他サバイバー収容の方法がありません。またダウンウォッシュが強烈なため、火山灰が降り積もった場所での運用に不安があったのだと思います
2014-10-01 01:30:04今回が特異だった点は、いつまた噴火するかもしれない状況下で、ガラス成分を含んだ火山灰や腐食性の火山性ガスの中での任務だったことでしょうか。
2014-10-01 01:30:25また、ダウンウォッシュによる火山灰の飛散を抑えるために、ローター嵌合を切ってローターを停止して着陸していることから、火山灰の下の地形が判然としない中での着陸だったことが推認でき、その点では通常よりリスクが高かったのではないかと思います。
2014-10-01 01:30:35いずれにせよ、通常こういう高山岳地での運用を想定しているとは思えない陸上自衛隊のヘリがこの任務を実施しているということは、陸自ヘリパイロットの技量の高さの証左であることは間違いないと思います。
2014-10-01 01:30:4310/2 CAPITO氏の追加ツイートがありました。
先日の御嶽山でのヘリ救出に関するツイートは、徒然に綴ったがゆえに少々回りくどかったかもしれません。私が言いたかったのは、どんなに神業に見える救出活動も、明確な勝算の元に行われているということです。
2014-10-02 18:35:43人間の想いや精神力では、航空機の性能を超えた飛行をすることはできないのです。また、普段訓練していない事を本番でいきなり実施することは出来ません。これは、これまで私が知り合った多くの救難隊員が口にすることです。
2014-10-02 18:35:48例えば航空自衛隊救難隊場合は、FEが機体重量、風向や風力、外気温、気圧等の各種条件から理論値上のホバリング限界高度を算出しますが、その高度を超える場所でも向かい風が生み出す対気速度や上昇気流によって揚力が生まれることがあり、より高い高度でホバリングすることが可能になったりします
2014-10-02 18:37:23また、高山岳では数パーセントのエンジンパワーの違いで、人ひとり救出できるかどうかの分かれ目となることがあります。そのような時、場合によってはエンジンインレットのアンチアイス(防氷装置)をカットオフすることがあります。
2014-10-02 18:37:40UH-60J系列のインレットのアンチアイスはエンジンのブリードエアを利用しているため、その分数パーセントのパワーロスが生じます。その数パーセントのパワーを使うため、アンチアイスを切るのです。
2014-10-02 18:37:59冬期であれば、当然着氷の恐れが生じます。インレットに着いた氷が剥がれてエンジンに吸い込まれれば、エンジン損傷の恐れがあります。しかし、現場のパイロットは時にそういう判断をし、不安定な気流や高山岳の低い空気密度によって低下したエンジン性能と共に、着氷時間との戦いまで抱え込むのです。
2014-10-02 18:39:37しかし、こういうことができるのは、彼らには勝算があるからなのです。決して無謀な賭けをしているのではない。そして、それを可能にするのが、日々の弛まぬ訓練と実任務の経験で培われた高度な操縦技術と冷静な状況分析力と的確な意思決定能力なのです。
2014-10-02 18:39:52それは一朝一夕で身に付くものではありません。日頃から過酷な訓練を自らに課し、その中でクルー間の信頼関係を醸成しているからこそなのです。その点は航空自衛隊も陸上自衛隊も違いはありません。
2014-10-02 18:40:05彼らはプロフェッショナルです。ですから様々な状況を判断して救出不可能と判断した場合は、たとえサバイバーが目の前にいても救出作業を中止します。
2014-10-02 18:40:24過酷な現場であればあるほど、確実な救出作業のために同乗する救難員を機外進出させねばなりません。状況によってはその救難員も収容できなくなる可能性もあるのです。実際に過去、厳冬期の剱岳で進出救難員を機内収容できなくなった事例があります。
2014-10-02 18:40:34