趣味創作まとめ1

ツイッター作品その1「幻想図書館」
1
星海黒乃 @necomeitei

【1】樹海に入り込んでもう何日になるだろう。食料は底をつき、水は時折見付ける水溜まりの水を摂取して繋いでいる。死にに来たわけではないのにこのままだと本当に終わってしまいそうだった。

2014-07-15 12:21:26
星海黒乃 @necomeitei

【2】最早道など存在せず、何度も見たような見てないような、そんな景色を見ながら木々を掻き分けてひたすら進む。遠くから聴こえる鳥の声だけが俺に一歩踏み出す勇気を与えてくれた。

2014-07-15 12:27:12
星海黒乃 @necomeitei

【3】(鳥…?)ふと考える。当たり前のように聴いたがさっきまで生き物の鳴き声など聴こえていなかった。樹海の入り口付近にまで戻ってきてしまったのかと不安になった。生きているのは幸いにはなるが、これでは何のために樹海に入ったのか馬鹿馬鹿しい結果になってしまう。

2014-07-15 12:31:42
星海黒乃 @necomeitei

【4】やはり噂は噂でしかなかったのだろうか。すでにもう一度散策しようなどという気持ちにはならず、鳴き声のする方に向かう。樹海から出てしまったなら、また今回以上の準備をすればいいだけのこと。今はただただ休みたかった。

2014-07-15 12:37:16
星海黒乃 @necomeitei

【5】やがて日が暮れ、辺りに霧までかかりだした。それでも鳴き声は少しずつ近付き、鳴き止む様子は無かった。まさか幻聴を聴いているのではないだろうかと疑うほどに鳴き続けていた。もしかすると俺はもう駄目なのかもしれない。

2014-07-15 12:43:04
星海黒乃 @necomeitei

【6】そう考え始めた時、鳥の鳴き声が途絶えた。俯き気味だった顔を上げると、霧の隙間から木とは違う石柱が見える。何も考えずに柱に近付き触れる。冷たく硬い感触が幻ではないと語っていた。

2014-07-15 12:51:22
星海黒乃 @necomeitei

【7】一度脚を止めたせいかどっと疲れを感じ、再び動こうという気は起きなかった。俺は柱に背中を預けてそのまま座り込んだ。一度寝ようと、次に生きているかどうかもわからないのに今はただそうしたかった。近付いてくる足音に自分の明日を託し、そのまま意識を失っていった。

2014-07-16 12:37:57
星海黒乃 @necomeitei

【8】側に暖かい空気を感じて目を覚ます。自分の体には毛布がかけられ、温もりの正体は暖炉だった。そしてどうやら助かったと同時に目的の場所に辿り着いたようだ。火の匂いよりも圧倒的な紙の、本の匂い。この空間になくても感じることができた。

2014-07-16 12:48:00
星海黒乃 @necomeitei

【9】まだふらつく身体を好奇心だけで動かす。扉は大きめだったが軽い力で開き、その先に広がる光景に思わず目を見開いた。巨大な石壁で出来た円柱の空間に、びっしりと本棚と本が設置されている。ここから中心までには何も置かれていないが、一つ本棚の通路に入ると目眩がしてしまいそうだった。

2014-07-17 12:41:16
星海黒乃 @necomeitei

【10】重い足取りで中心部に立つ。何重にも設置された本棚は外側に行くほどに背を高くしていた。ついに見つけたのだ。樹海の中にある幻とされている噂の図書館を。

2014-07-17 12:45:36
星海黒乃 @necomeitei

【11】そこは無限にも等しい数の書物がある場所。物語が最期に辿り着く場所。そして死んだ物語が行き着く場所。それがここ、幻想図書館だ。噂でしかなく存在すら夢とされていた場所に俺はいる。もっともこれが夢なのかも知れないが。

2014-07-18 12:44:05
星海黒乃 @necomeitei

【12】適当に本棚に近寄り、入れられている本を眺める。どの背表紙にも作品名も作者の名前も書いてはいなかった。無造作に一冊手に取ろうとすると、「だめ」と小さく声が聴こえた。

2014-07-18 12:51:44
星海黒乃 @necomeitei

【13】「今度こそ死ぬよ」振り向くと、そこには先程まで居なかった少女がいた。少女のワンピースには赤黒い何かが斑に付いており、とても綺麗と言えるものではない。長い髪の毛もあまり手入れはされておらず、前髪で目元は隠れ、毛先など揃っていなかった。

2014-07-22 12:26:10
星海黒乃 @necomeitei

【14】「…いらっしゃい、温かいスープしかないけど」くるりと踵を返し少女が本棚の間に入る。急な動きに見失ってしまいそうになり、慌てて後を追った。ほとんどが髪で隠れているその小さい背中に案内され、小さな調理場に辿り着いた。

2014-07-22 12:38:32
星海黒乃 @necomeitei

【15】「食堂もあるけどここで食べて」言いながら少女は小さな鍋からスープを皿に移し、カウンターに静かに置いた。「どうぞ」俺は両手を合わせて軽く会釈するとスープを口に運んだ。「おいしい?」少女は無表情に尋ねてくる。こくりと俺は頷き、ポケットからメモ帳とペンを取り出して文字を書いた。

2014-07-22 12:43:52
星海黒乃 @necomeitei

【16】[君は誰?]少女は文字を見たあと、こちらの顔を見てしばし間を空けた。「あなた…喋れないのね」俺は頷く。「奇遇かしら、私は文字は読めるけど書くことは禁止されてるの」こちらの書いた文字をいとおしそうになぞる少女。不思議とどきりとしてしまった。

2014-07-23 12:25:20
星海黒乃 @necomeitei

【17】「私は…今はマリア。あなたは?」その言い方に違和感を覚えたが、それはまた別の機会に尋ねるとしよう。[鳳流雅。物書きの名前]「おおとり…りゅうが。作家なのね。どうしてここに?」いきなり本題を切り出された。俺は一度スープを飲み干し、一呼吸置いてから文字を書き出した。

2014-07-23 12:33:45
星海黒乃 @necomeitei

【18】失ってしまった自分の物語を探しに来た。父が亡くなり、形見の万年筆を手に取った瞬間、自分の産み出した全ての作品が頭から消えていった。書店で鳳流雅を探しても一冊もなく、改めて万年筆を手に取るとこの図書館の造形が脳裏に浮かんだ。

2014-07-23 12:51:46
星海黒乃 @necomeitei

【19】その後も友人を訪ねたがまだデビューしてないだろとか、まるで過去にでも戻ったかのようだった。頭に浮かんだ図書館についても調べてみたが、樹海の中・霧が見せた幻・単なる妄想、などろくな情報はなかった。

2014-07-25 12:36:14
星海黒乃 @necomeitei

【20】しかし場所に関すること以外では興味のある内容があった。どこかにある図書館には行き場を失った物語が集うと言う噂がある。その意味はわからなかったが、不思議と自分の作品が無関係だとは思わなかった。

2014-07-25 12:47:21
星海黒乃 @necomeitei

【21】「ここに来たのは正解だけど、きっと無駄に終わるわ」マリアはこちらが文字を書くたびにそれを指でなぞる。繰り返し見てるうちに少しだけ色っぽく感じてしまった。「あなただけじゃない。失くした物語を求めて、アイデアを盗みに来たものもいた。けれど…」

2014-07-26 12:49:52
星海黒乃 @necomeitei

【22】「みんな呑み込まれて消えてしまったわ」マリアの表情がわずかに変わったが、悲しむ感じではなくやれやれという感じだった。「あなたも気を付けてね。食べ終わったら中を案内するね」そう言うとマリアは流雅の書いた文字をひたすら眺め続けた。

2014-07-28 12:38:58
星海黒乃 @necomeitei

【23】「ここが浴場…沸かさないから水浴びしか出来ないけど」図書館という割には生活施設が揃っており、その一つ一つがしっかりしたものだった。ただどれも一手足りず、沸かさない、手入れしない、などなど、マリアの見た目に合うようなズボラで勿体ない状態だった。

2014-07-28 12:51:25
星海黒乃 @necomeitei

【24】[家事とかやらないのか?]メモ帳に書いてはマリアに差し出す。手間かもしれないがそんな素振りをマリアは見せなかった。「どうせすぐ汚れるし、習慣にはならないわ」汚れると聞いて赤黒い斑模様のワンピースに目がいく。絵の具か何か使ってそれが付いているのだろうか。

2014-07-30 12:42:45
星海黒乃 @necomeitei

【25】「さぁ、ここが第二書庫よ」扉を開けた先には、最初に二人が対面した円柱の場所だった。「簡単なテストをするわ…私にとっては、だけど」本棚の隙間を縫うように素早く歩き、ある一冊の本を取り出す。(その本は…)流雅がマリアに制止された時の本だった。

2014-07-30 12:52:48