肥田氏の記述
「しかし、二万年の間、自然放射線とともに生きてきた人類のからだは、それと上手に対応する能力を育て、被害をそれ以上、増加させてはこなかった。
ところが、工場で生産される人工放射線は人類が自然放射線との間に結んできたルールに関係なく、気ままに行動し、同じ微量でも細胞に致命的な影響を与える危険性を絶えず持っている。
人類は二万年の進化の過程で、地上に存在する放射線量に適応してきた。つまり、自然界放射線を出す物質を体内で認知し、体外へ排出するメカニズムを持ったのである」
内部被曝の脅威 p80~p81(2011年4月10日 第三刷)より抜粋(引用者により一部改行追加)
※より新しい版で記述に変化があるのを見つけた方がいらっしゃいましたら、お知らせください。
この文章は、人類が放射線に対応するよう進化した結果、放射性物質を体内で認知し、排出するメカニズムを持ったと読めます。
しかし、実際には生物は、放射性物質とそうでないものを見分ける機能はなく、当然、放射性物質を特定して排出することもできません。
なので、明らかに科学的に間違った文章であるわけです。
なのですが、林氏によると、この文章はそう読むべきではないのだそうです。
以下は、林さんによる論理展開です。
林氏の論理
1.人類はカリウムを排出する機構を持つ。これはカリウムに含まれるK40も排出しているので、内部被曝に適応するシステムである。
人間の人体は、カリウムという元素を細胞で使っています。このカリウムは神経の伝達をはじめ、色々な機能を担っている非常に重要な元素です。なので、血液中のカリウムの濃度は一定に保たれています(カリウム平衡)。
つまり「排出するメカニズム」ではなく、「常に体内で一定量に保つメカニズム」なのですが、「多すぎる分を排出するメカニズム」という面があることも確かです。
2.カリウム平衡は、直接、内部被曝に対して進化したわけではないが、内部被曝に対して適応的であるといえる。
適応的というのは、環境を生き抜いて子孫を残すのに有利ということです。有利だから、適応的であるから、その方向に進化するかは別問題です。
また進化というのは、行き当たりばったりなものです。
「速く動いて逃げる」ために進化した足が、太く強くなったので「近づいた外敵を蹴っ飛ばす」役にも立つこともあるでしょう。
その結果、途中から、キック力を高める方向に進化して「速くは走れないけど、とにかくキックが強い」みたいに進化していくこともあります。
そうした事実を踏まえ、「カリウムを一定量に保つメカニズム」は、直接、内部被曝抑制のために進化してきたものではないが、それが結果的にK40の量を減らし、「内部被曝の害抑制」にも役立っている。適応的である、と言える、というのが林さんの主張です。
林氏の読解
これらを踏まえて、「林さんの考える肥田医師の主張」を書くと、以下のようになります。
・肥田氏の書いたこと
「人類は二万年の進化の過程で、地上に存在する放射線量に適応してきた。つまり、自然界放射線を出す物質を体内で認知し、体外へ排出するメカニズムを持ったのである」
・林さんの読解
「人類は、体内のカリウムを一定濃度に保つシステムを進化させた。これは、直接内部被曝を抑えるために進化したわけではないが、多すぎるカリウムを排出する機能も持し、その際、カリウムの中に含まれる放射性カリウムも排出されるという意味で、放射性物質を体外へ排出するメカニズムと言える」
「肥田氏の科学知識が間違って無くて、本当は正しいことを言ってるに違いない」という確信の元に、間違ってる点を好きなだけ補って読むなら、下のような読解も不可能とはいいませんが、それを許すなら、この世に「間違った文章」というのは存在しなくなります。
さて、一般向けの文章において「難しいことを、わかりやすく説明した結果、細かい部分が無視される」ことは避けがたいです。しかしこれはそうではなく、以下の2点で、明らかに余計な誤解を混入させてしまった文章です。
・カリウム平衡は、内部被曝に適応するために進化したメカニズムではない。
・カリウム平衡によって内部被曝を抑えてるというのは、「あるかないかといえば、見方によってはある」という議論はできるかもしれないが(私は言えないと思います。後述)、仮にそれを認めて非常に微々たるものに過ぎない。
林さんの読解を取り入れるなら、以下のように書けばいいだけの話です。
「人類は自然放射線とは二万年以上に渡る進化の過程でずっとつきあってきたので、大きな害があれば進化の過程で適応しているだろうし、多少の害があるにせよ、わかっている範囲である。
一方で、近年現れた人工放射線はそうした保障がなく、また体内に残留し続ける性質を持つ物質も多いので、予想を超えた被害が起きる可能性がある」
そもそも──。
1.カリウム平衡が進化したのは人類以前の話である
カリウムを一定濃度に保つメカニズム(カリウム平衡)は、遙か昔から動物全般が持ち合わせてるもので(植物や微生物もカリウムを利用しています)、恐竜も始祖鳥も持っていたわけですから、人類の二万年の進化と関連させるのは無理があります。
人類が進化していく間に、カリウム平衡の細かい部分は進化/変化したかもしれませんが、それが内部被曝への適応であるとする根拠は全くありません。
2.カリウム平衡における内部被曝の影響は小さい
人体がカリウムを排出できなくなった場合、内部被曝の影響がまともに出る遙か以前に、高カリウム症という病気になって死にます。それだけ深く生体に組み込まれているシステムなのです。
そもそも人体には、DNAの損傷を修復する機構があり、一細胞あたり、一日数十万回(!)の損傷が修復されています。
損傷の多くは、活性酸素によってもたらされるもので、内部被曝によって起きるものの割合は、非常に少なくなっています。
つまり、K40による内部被曝が仮に数倍程度増えたとして、ガンに出る影響はゼロではないにせよ、全体からすれば誤差程度の範囲に収まることは間違いありません(実際の統計結果もそれを裏付けています)。
3.1,2を合わせて「適応的」であるとも言えない
「カリウムを無制限にとりいれる場合」と比べたら、カリウム平衡は放射線を排出する働きはある、といえなくもないですが、高カリウム症を考慮すると、そういう場合は「そもそもありません」。
「カリウム平衡が進化する以前」だったら「カリウムを無制限に取り入れる場合」を想定できなくもありませんが、それは人類が生まれるより遙か以前の話になるので、やっぱり人類進化とは関係ありません。
また、カリウム平衡が進化してきた過程を考える場合「内部被曝の悪影響を考えるなら、なぜ、わざわざカリウムなんていう自然放射線を(他の物質と比べれば比較的)多く含む物質を、代謝の基本に置いたか」という話があります。
その答えを考えるなら、自然界にカリウムが豊富なこと、カリウムの化学的性質が有用なことで、内部被曝の影響なんてのはそれらに比べれば無視できる程度のものだったから、と言えるでしょう。
つまり、カリウム平衡が、内部被曝に適応的というのは、どの角度から見ても、無理がある話なのです。
まぁ、こんなくだくだしく書かなくても、普通の読解力をお持ちでしたら、林氏の読解は無茶だと賛同していただけると思いますが、議論で出た論点を念のためにまとめました。
なお、個人的なオチとしては、以下のツイートです。
まさか該当書を持たず、スクリーンショットだけで、こちらをデマ、思想警察、宣伝省呼ばわりしているとは思いませんでした。
了解です。なるほど。そうやって,肥田医師は訂正をされたということですね。@nk12 さんもぜひ!!! 刷数わかればお知らせしますが,今手元ではわかりません。700万年は,ほかの方が昨日に示しくれた版面写真から得た情報でした。
2014-10-10 09:52:58後日譚
出先だったそうです。私なら出先でも、特定の本の内容について他人を批判する時には、本にアクセスできるようにしますが。
もちろん、手元にないまま記憶で話す場合ももありますが、そうした時は、それを断って「確か私の記憶だとそうは書いてなかったと思うのですが後で確認します」くらいに慎重に議論します。
このまとめ、私が出先から一連の議論のなかででてきたツイートの版面の内容を紹介したのがけしからんとなったのが総括ですね。 論文のなかで引用が抜けていると指摘されるのならともかく・・・。 @conAGW_proNuc @nk12 @ahare_asayaka
2014-10-11 15:24:02ちなみに、このまとめの時も、林さんは手元に本が参照できない状態で、肥田氏の文章について語っていました。
なーんだ。@nk12 さんは,肥田さんの新書を批判していたくせに,中身は読んでいなかったのですね。部分的に抜粋したどなたかのページをご覧になっただけだった。 RT 肥田死がどう関わったのかの資料を全く示していないわけですが、できれば、まずそれを示していただければと思います。
2014-10-07 00:58:40@nk12 手元に肥田さんの本がないので,ページ数などわかりません。裁判で証言した記述,なかったでしょうか。鼻血の話は,肥田さんのところに全国から情報が集まったので,初期症状を心配したということですよね。それだけの根拠ですので,警鐘以上のことはいえないなと,私は判断しました。
2014-10-07 01:13:34どこか,まちがっているのですか?? よくわかりません。お休みなさい。 まちがっているというのならば,反証をお願いします。 「資料を出してない」という8文字だけが批判の根拠なのですね。 @nk12 「その原因として肥田医師たちが「内部被曝の恐怖」に気付き,証拠立てた」
2014-10-07 01:45:45以下、経緯のまとめ
お考えはわかりましたよ。それにたいし,私はもう一歩引いて,より客観的にみて,デマと呼ぶのがよいか,予言的警鐘と呼ぶのがよいのか,どちらがよりふさわしいか考えてから決めますと申し上げてきました。 @nk12 誰かに害が及ぶような有害な噂を拡散した人が居たら…デマと呼びますね。
2014-10-09 15:11:56@SciCom_hayashi デマであるかないかは別として、「明かな間違い」であり「読んだ人が事実と異なる理解をする」という点は、ご賛同いただけるんですかね?
2014-10-09 15:13:17@SciCom_hayashi ところで、お考えはわかったとおっしゃいますが、それは私が、思想警察、宣伝省、いいがかり係である、という考えは特に変わっていないということでよろしいでしょうか?
2014-10-09 15:15:48進化学なのですから,カリウム平衡・排出のしくみが内部被曝への防御に適応的,有害,中立いずれかという問題であり,海法説検証ポイントは「適応的は詭弁」かどうかですね。 @nk12 「カリウムの体内平衡の進化が、内部被曝に適応的に進化した」と言う、関連の専門家がいたら、ご紹介ください。
2014-10-09 15:17:04明らかな間違いとは思いません。しかし,事実と異なる理解をする人が存在するという海法仮説は,これまでのやりとりで実証されたと考えております。サンプル少ないとの批判があるかもしれませんが。 RT @nk12 「明かな間違い」であり「読んだ人が事実と異なる理解をする」という点は、ご賛同
2014-10-09 15:21:18@SciCom_hayashi なるほど。明かな間違いとは思わないわけですね。では戻りますが、「放射能への適応の結果」 「自然界放射性を出す物質を体内で認知し、体外に排出するというメカニズムを持った」という文章が、どのように正しいのですか?
2014-10-09 15:24:07@SciCom_hayashi これを「放射線とは関係なく、あるとしても非常に小さい関連で、カリウム平衡の機構が進化し、平衡だからK40を排出もすることもあるけど一定量確保もする」の意味と理解するのが「正しい理解」なわけですね?
2014-10-09 15:25:35@SciCom_hayashi ところで、お考えはわかったとおっしゃいますが、それは私が、思想警察、宣伝省、いいがかり係である、という考えは特に変わっていないということでよろしいでしょうか? との質問にも返答いただけましたら。
2014-10-09 15:26:17カリウム内部被曝とセシウム内部被曝を比べたら,カリウムチャンネルにおける流動性の高さなど,前者のほうが適応的だといえる知見はいっぱい。 過剰に適応的にはならないという一般則をどうとらえるかの問題なのかな? twitter.com/nk12/status/52…
2014-10-09 16:50:34「思想警察、宣伝省、いいがかり係である、という考えは特に変わっていない」 のかとの問には,この方の目的がなんであるのかわかったときに答えがでるでしょう。目的はなに? twitter.com/nk12/status/52…
2014-10-09 16:53:25@SciCom_hayashi カリウムチャネルの流動性の高さは、細胞内の濃度・電位を変化させることで、様々な機能を果たしているからで、内部被曝への適応は関係ありません。
2014-10-09 16:54:59「「適応」とは、ある環境条件のもとでの生物個体の生存や繁殖に役立っている性質である。それは進化の結果としてみられるものであり、必ずしも自然選択の原因にはならないし、自然選択によってのみつくられるのでもない。」 meme.biology.tohoku.ac.jp/INTROEVOL/Page… @nk12
2014-10-09 17:07:43