シー・ワー・リビング・ゼア #2

このための演習、このためのサイレントヒル
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劉度 @arther456

◇◇◇◇◇◇◇ ←九十一式徹甲弾

2014-10-21 20:31:42
劉度 @arther456

【シー・ワー・リビング・ゼア】#2

2014-10-21 20:33:18
劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。感想・実況などは #ryudo_ss を使用していただけると大変ありがたいです。宜しければ暫くの間、お付き合い下さいませ)

2014-10-21 20:34:40
劉度 @arther456

また、ここか。提督は、灰色の巨大な門を見上げていた。全身の痛みが、後ろに引きずり戻すかのように、あるいは心配するかのように提督の体を苛んでいる。大丈夫、忘れてない。必ずあの海へ迎えに行く。痛みを背負うように提督は前に踏み出し、獣の石像に睨まれながら門を潜る。 1

2014-10-21 20:36:01
劉度 @arther456

コツン、とブーツの底が音を立てた。暗闇の幻影は消え、今度は霧が視界を覆う。提督が立つのは木板の上、船の甲板上だ。だが、以前の『陸奥』のように艦橋の中に招かれたわけではないようだ。提督の前には船首へと続く船体と、その上に積み上がった残骸の山がある。 2

2014-10-21 20:39:35
劉度 @arther456

半壊した陽炎型駆逐艦『不知火』――かと思ったが、どうも様相が違う。以前、資料で見た写真よりずっと小さい。残骸が邪魔でよく見えないが、主砲もついていないようだ。何にせよ、艦橋に向かわなければならない。そこに不知火がいるはずだ。「待ってて。今、迎えに行くから」 3

2014-10-21 20:42:50
劉度 @arther456

甲板上は酷く損壊しており、歩いて艦橋には行けそうにない。そこで提督は、手近な穴から下の階層に飛び降りた。外装も酷かったが、内装もボロボロだ。一歩一歩、床が抜けないか気をつけながら歩く。踏み出す度にギシギシと、嫌な音が響く。ゆっくりと時間をかけ、突き当たりのドアに辿り着いた。 4

2014-10-21 20:46:12
劉度 @arther456

ドアを開くとまた廊下だった。面白みのない船内だ。そう思いながら辺りを見回すと、壁にかけてある銃が目に入った。その存在が、妙に浮いている。セミオートマチックライフル。かなり近代的な銃だ。『不知火』の時代のものではない。手を伸ばす。触れた。ひやりと金属の銃身が冷たさを伝える。 5

2014-10-21 20:49:28
劉度 @arther456

ブォォォォン!「おわぁっ!?」突然、空気を震わすほどの重低音が、船内に響き渡った。汽笛の音だ。提督の悲鳴すら掻き消す轟音が、床を、壁を、天井を震わせる。震えのあまり塗装が剥がれ落ちそうだ。「……え?」いや、実際に塗装が剥がれている。灰色のペンキが剥がれ、赤錆びた鉄が姿を現す。 6

2014-10-21 20:53:04
劉度 @arther456

瞬く間に、提督は赤黒い室内に放り込まれた。威圧的な色が、ぞくりと背中に怖気を走らせる。空間そのものが、提督を殺そうとしているようだった。急かされるように提督は廊下を歩く。一歩踏み出す度に、ざり、と錆を踏みしめる感触。どうにか次のドアに辿り着き、そこを潜った。 7

2014-10-21 20:56:16
劉度 @arther456

ドアの先は街だった。「うわっ」狭い船内から広々とした道路に放り出され、提督はまごつく。見上げる空は、朱い。血の海か、あるいは炎を思わせる。並び立つ建物は、どこか遠い異国の地のものだ。看板の文字を見るに、ロシアらしいということは分かる。銃痕だらけの看板だが。 8

2014-10-21 20:59:35
劉度 @arther456

焦げ臭い煙が辺りを覆う。主砲の硝煙を腐った血で煮詰めたような匂いに、提督はむせ返った。制服の袖で口元を抑えながら、廃墟の街を歩く。崩れた建物から、レンガがガラガラと崩れ落ちた。何気なくその元を見上げ、提督は立ち止まる。「――ッ」白い太陽をバックにして、誰かがいる。 9

2014-10-21 21:02:52
劉度 @arther456

提督を見下ろすのは、ボディーアーマーとガスマスクに身を包んだ兵士だった。「誰だ!?」以前、陸奥とケッコンした時は、陸奥以外の人間は現れなかった。何が起こる分からない。提督は腰の拳銃の重みを確かめる。と、兵士が屋根から身を乗り出した。乗り出し、乗り出し、下半身が見え――。 10

2014-10-21 21:06:06
劉度 @arther456

ずるり、と兵士が滑り落ちた。「ッ!?」息を呑む。兵士に見えたのは腰から上だけで、そこから下は蜥蜴のような滑った爬虫類の体が続いていた。窓枠に巻きつき、壁に張り付き、ずるずると提督に這い寄ってくる。ずるずる、ずるずる、何も言わずに、ずるずる、ずるずるずるっ、パァン! 11

2014-10-21 21:09:23
劉度 @arther456

手の届く距離まで近づいた怪物を迎えたのは、45口径の銃弾だった。抜撃一射、眉間を抉られた怪物はもんどり打ってその場に倒れる。更に追い討ちを二発。それで、怪物は動かなくなった。「……ふうっ」冷や汗が吹き出る。襲われる恐怖もさることながら、見た目が生理的に受け付けられない。 12

2014-10-21 21:12:41
劉度 @arther456

動かなくなった怪物は、途端に黒い灰となって風化していく。「……なんだよ、これ」最後の一欠片が風に吹かれて消えるのを見届けてから、提督は呟く。ここが不知火の心の中だと言うのなら、彼女はこんな化物を心の中に飼っているのか。どうしてこんなものを住まわせなくてはいけないのか。 13

2014-10-21 21:15:55
劉度 @arther456

ずるずる、ずるずる。思考は這いずり音で中断された。後ろから二匹、同じ怪物が這い寄ってくる。銃声を聞きつけたか。提督は踵を返して駆け出した。一々相手にしていたら埒が明かない。道の先は炎上する車によって塞がれている。手近な建物に逃げこむ。内装も外見同様荒れ果てている。 14

2014-10-21 21:19:15
劉度 @arther456

砕けたガラスを踏みしめ、裏口から外に飛び出す。後ろからはガラスの割れる音。追ってきている。「ハァッ……ハァッ……くそっ!」吸い込む熱気が、肺を締め付ける。追手の音は徐々に増えてきていた。少しでも撒こうと、角を曲がる。「ッ!?」足が止まった。道が、無い。 15

2014-10-21 21:22:40
劉度 @arther456

巨大な地割れが行く道を抉り取っていた。底は見えない。赤い霧がわだかまっている。引き返そうと振り返るが、怪物が数匹、もう角を曲がってきていた。慌てて逃げ道を探す。地割れの上空、アパートの屋上を繋ぐように金網が渡されていた。あれを伝えば、向こう岸にたどり着けそうだ。 16

2014-10-21 21:25:57
劉度 @arther456

考えている時間はなかった。飛びかかってきた怪物を避け、走る。怪物は怖気立つような悲鳴を上げて、奈落へと落ちていく。階段を昇る。踊り場に怪物の姿。引き返して非常階段へ。逃げる提督の腰に滑った腕が絡みつく。気持ち悪い。顔面に銃を撃ち込み、引き剥がして階段を登る。 17

2014-10-21 21:29:11
劉度 @arther456

近くで見ると、金網の橋はとても頼りなかった。柵も手すりもない、バランスを崩せば真っ逆さまだ。だけどこれを渡るしかない。恐る恐る片足を乗せる。ギシ、と嫌な音を踏みつけた。嫌な予感しかしないが、いまさら引き返すこともできない。「ええいっ!」思い切って、金網の上に飛び出す! 18

2014-10-21 21:32:27
劉度 @arther456

金網が崩れた。「えっ……」一歩も進まないうちに、提督の体は宙に投げ出される。その先にあるのは当然、底の見えない霧の海。 19

2014-10-21 21:35:45
劉度 @arther456

「うわあああっ!?」全身が粟立つような落下感が、提督から悲鳴を絞り出す。落ちる耳元を通り過ぎる風が轟々と唸り、悲鳴すら掻き消してしまう。霧の中を落ちて、落ちて、その先には――。 20

2014-10-21 21:38:58
劉度 @arther456

全身を叩きつけられる感触が、脳を揺さぶった。「あぐあっ!」鈍痛に呻き声を漏らす。突っ伏した提督を迎えたのは、服越しに伝わってくる冷たい金属の感触。目を開けると、朱い空も廃墟の街も怪物も無く、最初と同じ白い霧に浮かぶ船の上にいた。冷静になってみると、体も大して痛くない。 22

2014-10-21 21:42:39